アコーディオン奏者の田ノ岡三郎さん、Cheer Up!には何度もご登場いただいていますが、2020年は朝ドラ「エール」のコロンブスレコード楽団員としてたびたびお茶の間にもご登場されたり、「題名のない音楽会」に出演されたりと、気になる存在になったという方も多いのではないでしょうか?今回はニューアルバム『旅するアコーディオン』リリースにあたり、制作秘話や曲に込めた想い、さらには最近の活動についてもたっぷりお伺いしました。(2021年5月)

---2019年以来のアルバムリリースですが、今回のアルバムをリリースすることになった経緯を伺えますか?

田ノ岡:2020年春、はじめて『誕生日当日』にバースデーライブを行うことになっていたんです。バースデーライブって誕生日周辺の「良い日取り」で行うことが多くて、なんか微妙な表現ですけど、人生初めての誕生日当日ライブになるはずでした。
それが最初の緊急事態宣言で中止せざるを得ない状況になって。公演中止の対応に追われると同時に、お世話になっている制作関係者のみなさまからも一斉に案件キャンセルのご連絡をいただき、、、そんなとき、バースデーライブの担当者の方から「全部中止になっちゃってホールは空いてるから、レコーディングしませんか?」と連絡をいただいたんです。

---田ノ岡さんといえば、2019年の前作『Island Tour』インタビューで旅の魅力についてもたっぷり伺っていました。しかし2020年になり新型コロナウイルスの影響でなかなか旅に行きづらい状況に。そんな中、このアルバムのタイトルは『旅するアコーディオン』。このタイトルに込めた想いについて教えて頂けますか?

田ノ岡:「旅するアコーディオニスト」が、ソーシャルディスタンスをとりつつ「お散歩するアコーディオニスト」に変身を遂げた2020年でした。
春のうちは、人と一緒に演奏することも全く出来なかったので、今までと視点を変えて「引き篭もって」日々感じたことをそのまま音にしていく、といった作業でした。宅録アルバム的要素も強いですが、グランドピアノのあるホールで、エンジニアさんつきっきりで個人的作業をしていたので、ずいぶん贅沢な「宅録」でしたね。

そんな時期に制作したアルバムなので、穏やかな曲もあれば、感情のままに演奏が「揺らいでいる」曲も。ただ、今まで経験したことのない社会の激変の中での緊張感もあり、ネガティブよりポジティブなメロディーがたくさん湧いてきましたね!
タイトルチューン「旅するアコーディオン」、自分のテーマソングがやっとできた!と感じて、命名しました。ステイホームしていても、音楽家としては日々旅をする気持ちで奏でていましたし。

---今回「僕は風。」「ゆっくり歩こう」など、ご自身のピアノとアコーディオンをオーバーダビングした楽曲が多いですね。これはピアノとアコーディオン、どちらを先に録音されているのでしょうか。

田ノ岡:ピアノが先の楽曲が多いです。それにアコーディオンを重ねて、曲によってはもう一本アコーディオンを重ねて。
「自分とアンサンブルしてる」ということを意識しながら演奏していた瞬間が多かったですね。人とアンサンブルできない時だったし「アンサンブル」に飢えていたのかもしれません。

---特に「森 〜forest〜」「永遠の夜」「窓に光」「melodramatic」では、透明な空気やドラマ、映像を感じたり、寂しい気持ちになったりもしました。これらの曲についてのエピソードなど伺えたら嬉しいです。

田ノ岡:「森 〜forest〜」「永遠の夜」「窓に光」など即興性の高い楽曲では、作曲と演奏がほぼ同時進行でした。
この頃は仕事の予定が全て無くなった時期、曲をつくるときも、楽器を奏でるときも、日々稼働している音楽家としてでなく、まっさらな1人の人間として。
だからこそ、様々な感情や気持ちを、潔くありのままに出すことができたと思います。
『弾いてる人が無職』これがこのアルバムで重要なポイントです!!!

---「さぶラテン」最高ですね!あったかくて楽しくて和みました。タイトルが可愛いです。どんな時に生まれた曲なのでしょうか。

田ノ岡:かつて長い演奏旅行のさなか、会場の楽屋でなにげなくスマホのボイスメモを回してスケッチしていた音源を聴きかえしたら、そのままで完成しているな、と思えた!ということは作曲に費やした時間がおよそ1分半、人生で一番短時間で作った曲かもしれません。(3分で作った曲、は、かつて作品にしたことがあります)
スケッチを聴きかえした瞬間、旅先の情景も鮮明に甦って、ステイホームの今奏でたいメロディーだと思った。ピアノも僕が弾いているので、和み感、気持ちいいユルさが出て、ほっとする質感になりました。
タイトルは、或るゲームの影響かと思われます。

---とてもドラマを感じてドキドキしたのが「桜の森の満開の下」。
4分の曲の中に起伏があって、情熱や情感を感じました。どんな想いで作られたのか?などエピソードを伺いたいです。


田ノ岡:今回のアルバムの中でも異色の一曲ですよね。
正直アルバムに入れようか悩んだくらいです。
リリース後、クラシック専門インターネット局のOTTAVAから、各地のコミュニティFMまで、いろいろなラジオ局にゲストでお邪魔させていただいたのですが、パーソナリティーの方と常にこの楽曲の話題は盛り上がりました!
メインテーマの部分は、タンゴバンドでの演奏を想定して既に楽譜にしていたのですが、中盤からの展開部は、完全に僕の感情の赴くままです!
和っぽいテイストも狙ったわけではないのに....百鬼夜行感でてますよね。
誰もが日々考え、生き方を模索しなければならないこの時代に、感情の激しい起伏とは無縁ではいられません。この曲があって「旅するアコーディオン」が完成したと、今では思えます。

---「プレゼント」は楽しく可愛らしくてキャッチ―な曲ですね。なんだか自分でもピアノで弾いてみたいな!と思わされる曲。「プレゼント」っていう響きだけでワクワクします。田ノ岡さんがどなたかにあげて喜ばれたプレゼントはありますか?

田ノ岡:「自分でもピアノで弾いてみたいな!」って嬉しいです。あげて喜ばれたプレゼント....アコーディオンで演奏をプレゼントして喜んでいただいた経験から、この仕事を続けていられてるとも感じます。

---アルバムの最後「春を想う」。2020年の春も今年の春も、今までにない春。でもこの曲を聴くと、優しく懐かしいメロディーに、いつの時代でも必ず春はやってきて、景色はいつもと変わらなくて。暖かな空気、咲き乱れる桜。またみんなで楽しく過ごせる春が来てほしいなあとしみじみしました。この曲に込めた想いなどお願いできますでしょうか。

田ノ岡:この曲がタイトルチューンのつもりでした。
コロナ禍のさなか、真っ先にできた曲。
暖かな空気、咲き乱れる桜、そんな光景を感じていただけて嬉しいです。
まさに書いていただいたことがそのまま僕の気持ちですよ!

---田ノ岡さんは2020年の大人気朝ドラ『エール』に、劇伴のみならずコロンブスレコードの楽団員としてもご出演。
特に新人歌手オーディションで、プリンス久志(山崎育三郎さん)・スター御手洗(古川雄大さん)のピアノ伴奏シーンが印象的でしたね!反響はいかがでしたか。またご出演の際のエピソードなどあればお願いいたします。


田ノ岡:反響、凄かったですね。
新人歌手オーディションのシーンの第64話はキャストとしてクレジットされましたし....なかなか無いことです。
エール劇中での「コロンブスレコード」スタジオは、100年近く昔のスタジオの質感がディテールまで完全に再現されていて。この場所のシーンで何度も出演させていただけたのは、音楽家人生を続けていく上で、貴重な経験になりました。
僕が音楽の仕事を始めた頃はレコーディングスタジオにアナログのオープンリールが廻っていた時代で、四半世紀の間にも録音環境って激変してるわけですが、まさか昭和初期のスタジオまでタイムスリップして奏でられる日が来るとは思いませんでした!幸せです。

---古関裕而さんの楽曲と向き合ってみて、どのようなことをお感じになりましたか?

田ノ岡:古関裕而さんの音楽、劇中で弾かせていただいた『船頭可愛や』『福島行進曲』をはじめとして、メロディー感や和音感がいままで聴いてきた音楽とあまりにも違って、最初は楽曲を覚えるのが大変だったのですが....収録後、何度もTVで聴くうちに、すごく気持ち良く身体に響くようになりました。これって沖縄音楽やアラブ音楽に初めて触れた時と同じ感覚で「未知との遭遇から新たな音楽の世界を知る喜び」が続いているおかげで、ワクワクする音楽人生を送れていると思います。
福島市の古関裕而記念館にも行きました。古関さん直筆の譜面に触れられて感動....喫茶バンブーのセットが再現されていたのも嬉しかったですね。

---最近は「あつまれどうぶつの森」公式動画への参加、「題名のない音楽会」ご出演など多方面でご活躍ですが、それらのエピソードや最近の活動についてご紹介いただけますか?




田ノ岡:360万回以上再生されている動画....自室が初めて公の場所に写りましたね。僕は普段、自室から音楽を発信するより外部のステージやスタジオに出撃する活動が圧倒的に多いのですが、自分のお部屋もある意味「聖地」と思えるようになりましたね。

「題名のない音楽会」で独奏させていただいた「ムーンリバー」....今後生のアコーディオンソロライブを再開するとき、こんな質感のシーンもステージの中でつくれたら、と思います。

5/31からテレビ東京ほかでスタートする西島秀俊さん主演のドラマ『シェフは名探偵』では、これまでもたくさんの劇伴音楽でアコーディオンを弾かせていただいてきた末廣健一郎さんのご提案で、劇中曲のメロディーもたくさん書かせていただきました。
(共作名義で、予告編のクレジットにも名前が載っています)





朝ドラに役者さん枠で出たのと同じくらいスペシャルな事なのですが....ワクワクする制作でした。
近藤史恵さんのベストセラーが原作、超豪華キャストのドラマ。是非毎週みていただけたらと思います。

ドラマ『シェフは名探偵』
https://www.tv-tokyo.co.jp/shefutan/

---2019年12月より狛江FM(コマラジ)パーソナリティーに就任し「Music Power〜田ノ岡三郎の旅するアコーディオン〜」を放送中の田ノ岡さん。ラジオ番組のパーソナリティーをすることの面白さや難しさについては、いかがですか?新たな出会いや嬉しい出来事もあったのではないでしょうか。

田ノ岡:いままでアルバムをリリースする毎にたくさんのラジオにゲスト出演(今回もです!)、パーソナリティーの方に絶妙にトークをリードしていただけて感激なのですが、まさか自分がゲストをお迎えする側になるとは思えませんでした!
まさに、毎月新たな出会いや嬉しい出来事の連続です。
「ソロ放送」のときには、自身の選曲に生演奏も交えて1時間。そしてゲストをお迎えするときには放送中盤からずっとご一緒させていただいて、ラストに生セッション! いままでご出演いただいたアーティストの方は、

・まりこふんさん&伊藤壮さん(古墳にコーフン協会)
・湯浅佳代子さん(トロンボーン奏者・シンセサイザー奏者・作曲家)
・中ヒデヒトさん(クラリネット奏者)
・オオゼキタクさん(シンガーソングライター)
・柴草玲(シンガーソングライター)
・Raina Kitadaさん(フレンチシンガーソングバイオリニスト)
・紺野恭子さん(ソプラノ歌手)
・麻宮百さん(歌手 ex B.B.クィーンズ,Mi-Ke)
・伊藤真紀さん(シンガーソングライター)
・めぐ留さん(歌手・女優)
・大内友哉さん&井上初美さん(ハーモニカデュオBom × Boa)
・宮澤やすみさん(小唄師範,三味線奏者)

....毎回が胸熱!!!!!
コマラジ(東京都狛江市・こまえエフエム)で毎月第1,3,5水曜日の22:00〜22:55放送中、是非お聴きください!

番組ブログ
https://note.com/saburoradio

---今後の展望や2021年の予定など教えて頂けますか。

田ノ岡:関わらせていただいている作品のリリースや情報解禁がたくさん控えていますし、「ものを創る喜び」に溢れた日々を過ごしています。
目の前でお客様と空間と時間を共有する機会が減っているのは残念ですが、ソロを含めて、また全国に演奏をお届けにあがれる日を楽しみに今できることを全力で頑張っていきます。
今回のアルバム『旅するアコーディオン』は多重録音という性格上そのままの質感で再現することが難しい楽曲ばかりですが、ステージでは全く違う味わいになると思うので....楽しみです。
ライブを観るような感覚で、『旅するアコーディオン』の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いします!

---どうもありがとうございました。一日も早く田ノ岡さんと同じ空間を共有できる日がくることを祈りつつ、今は『旅するアコーディオン』をじっくり味わったりラジオやTVで田ノ岡さんの世界に触れたいですね。




『旅するアコーディオン』田ノ岡三郎

01.旅するアコーディオン
02.僕は風。
03.ゆっくり歩こう
04.森 〜forest〜
05.永遠の夜
06.窓に光
07.さぶラテン
08.桜の森の満開の下
09.melodramatic
10.プレゼント
11.春を想う

発売日:2021/3/24
レーベル:GardenNotesMusic
規格品番:GNM-1010
価格:2500円(税込)

本人からの"サイン入り通販"も継続しています!
以下の記事からご確認ください↓

https://ameblo.jp/saburot/entry-12666700162.html







【田ノ岡三郎 プロフィール】
accordionist composer

東京を拠点に全国(時に海外)で活動を続けるアコーディオン奏者。東京音楽大学卒。後にパリにてダニエル・コラン氏に師事。
coba氏によるアコーディオンの祭典「Bellows Lovers Night」への出演などからキャリアを開始し、現在は幅広いジャンルのステージ&レコーディングで、日々熱演中。
自らのオリジナル曲を中心に8作のソロアルバムを発表、「ひよっこ」「逃げるは恥だが役に立つ」「天気の子」等TVドラマ、映画、アニメ、CMやゲームの音楽への演奏参加も多数。
歌うように奏であげる音色には定評がある。
直近は、NHK朝ドラ「エール」「なつぞら」への出演、国立映画アーカイブでの無声映画生伴奏、豪華客船「ぱしふぃっくびいなす」「にっぽん丸」でのメインショー、大竹しのぶ主演舞台「ピアフ」及びコンサート、「あつまれどうぶつの森」公式動画への参加、テレビ朝日「題名のない音楽会」への出演、など多方面で活躍。
アコーディオン奏者として本格始動する以前の活動としてはNHK教育番組テーマソングや「みんなのうた」への楽曲提供などがあり、様々なポジションで音楽制作や収録の現場に携わった経験が、演奏家としての活動の原点となっている。
千葉県市川市出身、自身のルーツは和歌山県田辺市。国外でのステージ歴はフランス、ポルトガル、台湾、アルゼンチン。
2019年12月よりFM狛江(コマラジ)パーソナリティーに就任し「Music Power~田ノ岡三郎の旅するアコーディオン~」を毎月放送中。

田ノ岡三郎 Official Website
http://tanooka.net/
Twitter
https://twitter.com/saburotter
Instagram
https://www.instagram.com/saburo_acc/
田ノ岡三郎のサブログ
https://ameblo.jp/saburot/


【最新ライブ情報】
配信ライブ情報、コンサート情報など、田ノ岡さんのサイトからご確認ください。
http://tanooka.net/liveschedule


<Cheer Up!関連リンク>

特集:Cheer Up! MUSIC 2020 寄稿(2020年)
http://www.cheerup777.com/2020cheerup.html
特集:Cheer Up!クリスマス 寄稿(2019年)
http://www.cheerup777.com/xmas2019/xmas2019-2.html
田ノ岡三郎『Island Tour』インタビュー(2019年)
http://www.cheerup777.com/tanooka2019_island.html
田ノ岡三郎『SOLO ACCORDION STANDARDS』インタビュー(2019年)
http://www.cheerup777.com/tanooka2019.html
田ノ岡三郎「snowdrop」インタビュー(2017年)
http://www.cheerup777.com/tanooka2017.html
田ノ岡三郎「夏への扉」インタビュー(2014年)
http://www.cheerup777.com/tanooka.html



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