1983年、既存の楽曲に独自の歌詞をつけて歌ったアルバム『MASAE A LA MODE』をアルファレコードからリリースして大きな話題を呼んだシンガーの大野方栄(おおのまさえ)さん。 このたび、9枚目のアルバム『蓬莱』をリリースされました。 共同プロデューサーに迎えたのはアルバム『Pandora』以来、大野さんの作品に参加されて作曲編曲やプログラミングに大活躍の高田信さん。そしてドラマーであり著名なレコーディングスタジオ「STUDIO Dedé」のオーナー吉川昭仁さん。 今回も本当に幸せな気持ちになれる音楽が詰まったアルバムです。まずは多くの方に聴いていただきたいです。 大野さん、そして高田さんにたっぷりインタビューさせていただきました。(2022年7月) 大野方栄インタビュー 高田信インタビュー ---2017年に『ちゃぱら』をリリースされて以来の待望の新作ですね。 今回久しぶりにアルバムを出された経緯について教えて頂けますか? 大野:大病をしてしまいまして、自分は死ぬかもしれないと思った時に、音楽でやり残したことを考えて、もし健康になれたら 今までのアルバムの中で一番納得出来る録音がしたいと考えました。 ---大野さんのアルバムでお馴染みのメンバー、高田信さんと吉川昭仁さんのお二人を今回は共同プロデューサーに迎えられたとのこと。そのいきさつについてはいかがですか。 大野:最初は高田さんと色々打合せをしたりしていたのですが、録音が始まって直ぐに 音楽家としての吉川さんの意見を聞いたり、実際に演奏していただいて、これは3人のプロデュースにした方が絶対に良くなる!っと確信しました。 ---制作期間はどのぐらいかかりましたか? コロナ禍での制作はいろいろと大変でしたよね…。 大野:丸々一年間かかりました。メンバーに濃厚感染者が出たり、スタジオ予約が中々入れられなかったりして、全く先が見えなくて「いつになったらCDが出来るのかしら?」っと、せっかちな私はとても焦りました。 ---美しい楽曲ばかりで時間を忘れてアルバムの世界に入り込んでしまいます。至福のひととき、という言葉が浮かびますね。 アルバムタイトルに、『蓬莱』とつけた想いについて伺えますか。 大野:アルバム一曲目に配置した「白銀」から録音が始まったのですが、高田さんのオーケストラアレンジが 兎に角素晴らしくて、天国にいるような気分になったので、蓬莱と名付けました。 ---花の髪飾りをつけた大野さんのジャケット、そしてパンフレットも綺麗な花に満ちています。 デザインについては、大野さんが「花をメインにしたい」というお考えだったのでしょうか。 大野:最終的には デザイナーのオオニシノリアキさんのアイディアです。 たまたま花デザイナーのかたのサイトを知ったので、私のイメージに合ったアレンジメントをしていただいて写真を撮っていただきました。 そして出来上がった写真から オオニシさんにイメージを膨らませて頂きました。 ---ここからは曲ごとにお伺いします。 ◆1. 白銀 ---壮大な景色が目に浮かぶようなオーケストラサウンドでアルバムの幕開け。 原曲はマリオ・ラジーニャ作曲、マリア・ジョアンが歌う「Em Tao Pouco Tempo Escureceu Tanto」で、シンプルなアレンジでしたが、このようにゴージャスな曲に生まれ変わって驚きです。 大野:高田さんの音楽家としての進化が素晴らしいアレンジ・打ち込みだと思います。 これから夏が来るという時に発売で、真冬の歌を一番最初に配置してしまいましたが、私もこういう素晴らしい演奏で歌を歌うことが出来て歌手冥利に尽きます。 ◆2. 恋に落ちて ---軽妙で、大野さんの魅力満載の曲と感じます。圧倒されました! 作曲者はジュール・スタイン、編曲はロジャー・ケラウェイ。シンガーズ・アンリミテッドの歌う「Just in Time」が原曲とのこと。 シンガーズ・アンリミテッドは初めて知りましたが素晴らしいですね。以前からお好きなのでしょうか。 大野:シンガーズ・アンリミテッドは コンサートはしない・録音だけのコーラスグループで有名です。 それだけに録音の鬼なんですよねぇ。どうしてもこのアレンジ・演奏で歌を歌いたいっと思った時に、高田さんにしかお願い出来ませんでした。 高田さんは1音1音丁寧に音を拾って再現して、しっかりとやって下さいました。これは奇跡的な事です。本当に感謝感謝しかありません。 ◆3. そこだけ春が ---ピアニスト安田芙充央さんの「Waltz for Monique」が原曲。 大野さんのアンテナが多方面に張ってあることは以前から凄いな!と思っておりましたが、今作でも驚かされました。この曲との出会いは? 大野:2年前くらいにたまたまネットで安田さんの音楽と出会い、素晴らしい楽曲・演奏に魅了されました。 この曲を初めて聴いた時に、「白銀」と対になるジャポネスクな世界の歌詞を書いてそれを歌いたい!っと霊感しました。フェイスブック経由で初対面の安田さんに許諾申請をしたら心良くOKして下さって、本当に有難く嬉しかったです。 ◆4. あなたの庭で ---大野さんと長年交流の深いピアニストの中村由利子さんの楽曲。切なく美しい曲ですね。 「First Class」にも収録された曲を今回新録音でセルフカバーされたいと思われたいきさつなど伺えますか。 大野:私が50歳過ぎて 急にアルバムを作り始めたのは「あなたの庭で」を悪用された事がきっかけになっています。彼女の曲の中でも一番好きな曲でもあり、大変に美しく、でも猛烈に難しい曲です。アルバム『ファーストクラス』では頑張ったのですが、ちゃんと歌えていなくて自分でも「とほほほほ」っと思っていました。 高田さんのエレガントなストリングスアレンジも加わって、録音し直せて本当に良かったと思っています。 ◆5. 水の惑星 ---セルジオ・メンデスの「Pipoca」が原曲。原曲の軽妙さはそのままに、アレンジが現代風でポップで可愛いです。とても深い歌詞に唸りました。 大野:アルバム『うるとら』では本場のブラジルミュージシャンにライブ録音的に演奏してもらって、そのテイクはそのテイクで好きなのですが、高田さんの新しくて楽しいアレンジで別バージョンは絶対に録りたいと思っていました。 その願いが叶って本当に嬉しいです。 ◆6. カップル ---とても幸せな気持ちになれる曲。MIKA(森美佳)さんのフェンダー・ローズが美しいですね。 原曲はジョアン・ドナート「Sambou Sambou」。 ゲストの伊勢賢治さん(パーカッション)、加瀬達さん(ベース)の演奏がまた素敵です。ゲストのご紹介をお願いできますか? 大野:伊勢さんは超一流のサキソフォーン奏者で、たった一人で多重録音をばんばんされる非常に有能なかたなのです。ユーミンや矢沢永吉、AKB48、乃木坂46、稲垣潤一等々、手がけたアーティストも超ビッグな人達です。吉川さんからのご紹介でしたが、そんな伊勢さんがパーカッションもされるとの事で、演奏して頂きました。 また加瀬さんは ピアニストの森美佳ちゃんのご紹介でお願いしました。非常にまろやかで円熟した匠の世界の演奏者で、参加していただけて有難かったです。 ◆7. パノプティコン 〜鎖の跡〜 ---バッハの「アリオーソ」にのせて歌われる歌は慈愛に満ちていてとても癒されます。 大野:私のデビューアルバムにもクラシックの曲のカウンターメロディを歌う「人魚とサファイア」という曲がありましたが、それをイメージに高田さんに作曲・打ち込み・アレンジをお願いいたしました。 クラシック音楽にも造詣の深い高田さんならではの世界が出来上がったと思います。 ◆8. レクイエム ---ロジャー・ケラウェイ作曲の The Singers Unlimited「stone ground seven」が原曲。 とてもかっこ良く、かつ非常に複雑な曲をご自身の歌にする意欲が素晴らしくて感激しました。 大野:7拍子のテンポの速い曲だったので、ちゃんと歌えるかどうか物凄く怖かったです。 この曲に限らずどの曲も「私、ちゃんと歌えるかしら?」っと毎回録音前に恐れの気持ちに襲われました。 若い時は怖いもの知らずで、そういう感情は湧き上がってきませんでした。 ◆9. ターミナル ---ガル・コスタが歌った「Verbos do Amor」が原曲。 シンプルなアレンジですが、ピアノは中村由利子さん。ベースはブラジル音楽に造詣の深いコモブチキイチロウさん。ドラムは吉川さん。しっとりした美しい曲、切ない気持ちに共感できる歌詞。聴き惚れます。ゲストのコモブチさんはどのような方ですか。 大野:「是非ベースはコモブチさんにお願いしたい」 …という中村さんのリクエストで、コモブチさんにお願いいたしました。 ブラジル音楽のベーシストとしては日本で重鎮クラスの方ですが、非常にノーブルで穏やかで素敵な演奏家です。 ◆10. 輪廻の蒼玉 ---チャイコフスキーの「くるみ割り人形」より「金平糖の踊り」にのせて、高田信さん作詞作曲の新な曲が歌われるという。もう、なんとも言えず凄いですね! 大野:ここ数年の高田さんの音楽家としての進化具合は、本当に驚いてしまいます。 彼は、あっという間に世界的な音楽家になってしまいました。普段のお仕事は建築家でいらっしゃるので、空間や時間を立体的に考える能力が異常に高いかたなんですよねぇ。頭も物凄く良いかたで、1を見て10を知るタイプなので本当に凄いです。私の我儘・無理難題に最後までお付き合い下さって本当に有難いです。 ◆11. 素敵なあなた ---本アルバム唯一の完全オリジナル曲とのこと。作詞は大野さん。作曲は高田さん。 小粋なジャズワルツでアルバムの締めくくり。またアルバムを最初から聴きたくなります。 大野:作曲能力も非常に高い高田さんならではのメロディアスな曲を書いて頂きまして本当に嬉しかったです。高田さんと吉川さんなしでは成立しない世界が構築出来て、本当に満足しています。 ---大野さんといえば映画も沢山ご覧になっている印象があります。最近の大野さんのおすすめ映画はありますか? 大野:コロナ禍の為、ずっと映画は観に行っていません。 韓国ドラマだと『私たちのブルース』が良かったです。 実はこのドラマの音楽は 吉川さんのスタジオDedéで録音された曲もあるとの事です。イ・ビョンホンの事は、そんなに好きではなかったのですが、あまりの演技の素晴らしさに魅了されて号泣した私です。 ---大野さんの最近のCheer Up!ミュージックを教えて下さい。 大野:韓国人女性シンガーソングライターのHeizeさんを最近は聴いています。 歌声が唯一無二で、素晴らしいシンガーです。 ---次回作の構想はありますか?前回『ちゃぱら』のインタビューでは、静かに生活したいとのことでしたが、やはりファンはもっともっと大野さんの音楽を聴きたいと思っているはず。 ぜひファンへのメッセージをお願いします。 大野:あらら- 私ったら静かに生活したい・・・だなんて言っていたのですね(笑)。 いつもより製作期間が長かったせいもあり、今回は『出し切った』という感じで、録音終了後から ずっと虚脱状態なのです(笑)。 色々なアイディアはありますが、年齢的にも限界かな・・・っとも思いますし、自分に無理のない範囲で何かが出来たら良いなぁ・・・とも思います。現在終活の断捨離中なので 色々な事が整理整頓出来たらまた何かを始めるかもしれません。 引き続き生暖かく見守って下さると嬉しいです。 ---どうもありがとうございました。お体に気をつけてまた新曲を聴かせてください。 『蓬莱』大野方栄 1. 白銀 2. 恋に落ちて 3. そこだけ春が 4. あなたの庭で 5. 水の惑星 6. カップル 7. パノプティコン~鎖の跡~ 8. レクイエム 9. ターミナル 10. 輪廻の蒼玉 11. 素敵なあなた レーベル:HOUEI MUSIC 品番:HOUEI009 発売日:2022/6/29 参加メンバー 高田信(Programming) 吉川昭仁(Drums,Percussion) 中村由利子(Piano) 森美佳(Fender Rhodes Piano) 加瀬達(Acoustic Bass) 伊勢賢治(Percussion) コモブチキイチロウ(Bass) ◆プロフィール 大野方栄(おおのまさえ) 1958年8月23日生まれ 800曲以上のCMソングを歌ってCMソングの女王と言われた。 代表作に 伊勢丹・丸井、すかいらーく・Moonyちゃん等。 ひらけポンキッキ「チャールス豚三世」『思いっきり探偵団 覇悪怒組』OP「摩天楼のヒーロー」などのアニメソングを歌う。 ムーンライダーズや キミドリやサンズ・オブ・ナイス・ヤングなど多くのバンドのバックコーラスを担当する。 歌詞提供 またナレーターの仕事をする。 東京に生まれ東京育ち。 幼稚園から小学6年までピアノのレッスンを受ける。 日本女子大学附属豊明幼稚園からエスカレート方式で 同高等学校に進み、高校2年のとき 荒井由実のライブを聴きに行ったことがきっかけとなりユイ音楽工房とクラウンレコード主催のシンガーソングライターコンテストで入賞。 日本女子大学文学部国文科に入学と同時に音楽活動を始める。 1983年8月 ソロアルバム『MASAE A LA MODE』(カシオペアが参加)をアルファレコードからリリース。 2012年9月 29年振りにソロアルバム『うるとら』『First Class』を2枚同時に発表した。29年ぶりのソロアルバムとなる。 2013年7月 ソロアルバム『聚楽』を発表する。 2014年4月9日 ブラジル録音したソロアルバム『Brasil』を発売。 2014年11月 ソロアルバム『Pandora』を発売。 2014年12月『MASAE A LA MODE 復刻盤』発売。 2016年2月 『SEVEN』発売。 2017年4月15日 『ちゃぱら』発売。 2022年6月29日 『蓬莱』発売。 どしゅこいの大嘘吐き日記 http://ameblo.jp/dosyukoi/ https://twitter.com/MasaeOhno 『蓬莱』サイト(Bridge INC) http://bridge-inc.net/?pid=168698691 <Cheer Up!関連リンク> アルバム『ちゃぱら』インタビュー(2017年) http://www.cheerup777.com/tyapara1.html アルバム『SEVEN』インタビュー(2016年) http://www.cheerup777.com/oono_seven.html アルバム『Pandora』インタビュー(2014年) http://www.cheerup777.com/pandora.html 特集 大野方栄(2014年) http://www.cheerup777.com/masae.html |