NANIWA EXPRESSのメンバーであり、長年第一線に立ち続ける名ギタリスト・岩見和彦さん。キャリアの中で初となるソロアルバム『Roots66』が2023年4月にリリースされました。ジャパニーズフュージョンファンなら誰もが知るスタンダードナンバー、NANIWA EXPRESSの名曲「Believin’」「JASMIN」の作曲者としても知られる岩見さん。今回のアルバムでもその作曲手腕は遺憾なく発揮され、至福の74分間を何度でも味わいたくなる名盤の誕生です。フュージョンに馴染みのない方にこそ聴いてほしい!音楽の楽しさ美しさを存分に浴びて岩見さんからのパワーを受け取ってほしい!と思い、今回インタビューに応じて頂きました。(2023年11月)

---『Roots66』は14曲、トータル70分超えの聴きごたえあるアルバム。制作期間はかなりかかったのではないかと思いますが、いかがですか?

岩見:「Going to Key West」と「American Hero」が実は一番古く、2017〜19年に録ったものです。元々ライブでやっていた「Going to Key West」と、その録音2〜3日前にササっと出来た「American Hero」でしたね。
曲ってのは2〜3時間で出来るものもあれば、2〜3ヶ月かけても出来なかったりします。でもモチーフが妙に残ってたりした物は後々楽曲に発展しますね!

その後、時を経て、コロナが蔓延して来た時にリモート(各メンバーが元のデモテープに合わせて各自、自宅で録音して行く!!)で完成させたのが、「Night In Tijuana」です。

そしてそれ以外の11曲は、昨年の11月16、17、18日に8曲と、12月12日に3曲をそれぞれ高崎のTago Studio、東京のORPheUS Studioで録りました。
なので、まぁ17年から22年と6年ほど費やした事になりますかね〜!!



---稀代のメロディーメイカーと言われる岩見さんだけあり、本当にメロディーの美しさにグッとくる曲が多くて!おおらかで心地良いメロディーを堪能できる「Going to Key West」、冒頭のシンセのメロディが80年代フュージョンファンにはたまらない「Venus」、語り掛けるような力強いギターが印象的な「KUROSHIO」…
こんなにいいメロディーは、どういう時に思い浮かぶのか気になります。突然降ってくることもあるのでしょうか。


岩見:メロディーは、そう、天から舞い降りて来てるんでしょうね〜!?
何も考えていない時にふと、出て来る事もあれば、机に向かって書こうとして書いたのもありますが、強いて言えばメロディーとコード進行、リズムパターンが割と一緒に近い時間枠の中で出来ています。
もちろん、手直しもしますが基本的にはインスピレーションなのかも?

---タイトルはあとから付けていらっしゃいますか?

岩見:タイトルは後付けの方が多いですよ、今回の曲目でも改名したものが幾つか有りますから!

---今回4つのバンドに分けて制作されたそうですが、アレンジについてはカッチリ作り込んで指示するのか、それとも現場でヘッドアレンジなさるのか、そのあたりはいかがですか。
たとえば「Escape from Oxi Maze」はベースラインがかなり特徴的ですが、そこはご自身で作編曲するときに作られたベースラインなのですか?


岩見:アレンジについては、一応自分一人の中である程度完成形を描きながら、メンバー各位に指示ですがアイデアをもらう事も多々有りますね!
幾つかの楽曲はレコーディング時ではなくライブでやっていたものもあって、アレンジが既に出来上がってたりしてます。

「Escape from Oxi Maze」ベースライン、これは自分1人で自宅でDAW(DTM)で作りあげたものですね。
ちょっとだけ、Weather Reportってグループの曲なんかを参考にしました。(Weatherにはギターは居ませんが)
1人で夜な夜なヘッドフォンをして、ギターやギターシンセサイザーを使って打ち込んで行く作業です。
そのまま売り物に出来るレベルの物は機材も古いので出来ませんが、デモテープ作りは、もう20年以上やってますね。



---「April 15th... (Rest in Peace , Koji)」は、2022年に逝去されたLa'cryma Christi、ALICE IN MENSWEARのギタリストKojiさんへの鎮魂歌とのこと。Kojiさんが岩見さんにギターを習っていた時期があったり、一緒にステージにも立っていたそうですね。ギターのメロディーが胸に迫ってきて、辛いのですが同時に優しさ・温かさも感じます。
岩見さんからみたKojiさんのお人柄や印象的なエピソードなど教えて頂けますでしょうか。


岩見:April はそう、Kojiが逝ってしまった哀しみがメインなんだけど、いつかまた、そっちで一緒に演ろうぜ〜!っていう希望みたいなものを後半にリフレインさせてみました。
葬儀やお別れの会には都合で行けなかったんだけど、6月に彼の自宅に行き、奥さんとも逢ってゆっくり話して来ました。

Kojiの印象?
最初、来た時に言ったのは、ずっとロックを聴いて弾いてきたんだけど、煮詰まってしまった!!と言ってたなぁ。結構、クラシック的なモチーフやフレーズを弾いたりしてたようなのだが、ジャズっぽい事にはチンプンカンプンだったので、テンションコードやコード進行、循環コードなど、まぁ当たり前に知ってた方が良いと思う事をレクチャーした感じです。非常に素直でよく練習もして来たなぁ〜。で彼のソロアルバムのソロが何となく俺っぽかったりしたのが面白かったり嬉しかったな!

---ありがとうございます。Kojiさんのお人柄が偲ばれてアルバムも聴いてみたくなりました。
今回のアルバムでは、希望に満ちた力強い曲も多いと感じ、いま元気の出ないリスナーにもぜひ届いてほしいと感じました。


岩見:老若男女、世界中の人に聴いて頂きたいよね〜!!
今の時代、若い子達は、CDを買わない!というよりプレイヤーも無い!!また、音楽や映画も倍速やギターソロ等を飛ばして聴くらしいね〜!?

俺も充分にながら族だで、2つ以上の事をよくやるタイプだけど、せめて一度は最初から最後までゆっくりコーヒーでも飲みながら観て、聴いて欲しいな〜。それでも気に入らなければしょうがないけど。



---タイトルからして岩見さんの信念を感じる「Challenge Spirit」とかパワフルな「American Hero」「Here We Go !」などほんとに元気が出ます。
「Challenge Spirit」はギターを重ねているのですか?


岩見:Challenge Spritは、海外で頑張ってる大谷くん、八村くん、渡辺くんとかにエールを!って気持ちのものです。元気があれば何でも出来る!! 燃える闘魂、猪木さんの座右の銘に倣って。

そう、ギターは全て自分で重ねてもいますが、だいたいは一発録りが多いです、特にアドリブソロなどはね!(今年5月のリリースライブでは、ソロギタリストのRYUZOくんがサポートしてくれました)



---「Point Getter」は、まさにフュージョンの醍醐味を味わえるスリリングでかっこいい曲。NANIWA EXPRESSでも聴いてみたい!と思わされます。そのあたりはいかがですか。

岩見:「Point Getter」、 実はナニワで録りたいな!!と思ってたんですよ。
まぁ、東原力哉(Dr)が腰骨を痛めててまだまだ完治してなかったので断念しました。ナニワでやるならやはり全員参加でないとね!!

---ウクライナの平和を願いチョイスなさったという「Love Theme from Sunflower」、映画「ひまわり」のテーマ曲。ピアノとギターのデュオが本当に美しくて…。途中からストリングスが曲を盛り上げて泣きそうになります。

岩見:ひまわりのテーマはね、最初、俺の中にはロミオとジュリエットのテーマを歪んだギターで弾きたい!のがあったんです。
そんな話をしてる時にロシアのウクライナ侵攻が起こった。
その時に鈴木賢がひまわりのテーマどうですか?って言ったんですね。
どちらにしてもピアノとデュオでやりたいなあ?と思い旧知の中野雅子女史にお願いしたのです。
録音も全くデュオだけで録ったんですが、欲が出て来て、鈴木に合わせるの大変だろうけど、上からストリングスを重ねてくれないかとお願いしたら、ものの見事に素晴らしいアレンジで仕上げてくれました!!



---アルバム後半ではラテンのリズムの「Night in Tijuana」、スパニッシュな「Pheasant Island」、そしてNANIWA EXPRESSの1stアルバム『NO FUSE』(1982)の1曲目、名曲「Believin’」がなんとサンバで!
後半は世界めぐりをしているような贅沢さですね。


岩見:後半はラテンビートがいっぱい!このラテンタッチの曲以外にも全14曲中12曲に妻である安井希久子がパーカッションで参加してくれています。
「Night in Tijuana」と「Pheasant Island」は鈴木賢の作曲であり、またサンタナやスパニッシュフレイバーのギターが似合う曲を提供してくれました!

---「Believin’」のサンババージョンもかっこ良いですが、他のバージョンもあったりするのでしょうか。

岩見:ここはアコースティックギターだけでバラード風に弾くのも良いかなぁ〜!? ご存知、「Believin’」は結構前からアコースティック風にやるとどんな感じだろう?と考えて、ナニワ以外のライブで演奏してたアレンジなのです。ちゃんとパーカッションを入れたのがまた良かったですね!楽しい仕上がりになりました!!

---長年にわたり多くのリスナーに愛されている「Believin’」の誕生秘話やこの曲に込める思いなど伺えますでしょうか。

岩見:まぁ「Believin’」は神様がくれたとしか思えませんね〜?
まぁ、根底には、恋愛相手と喧嘩したり、不安があったりした時に、信じてるよ〜!って感じの思いを曲にしたものなんですけど。
I Believing You foreverって事だったんだろうなぁ〜?

---このWEBマガジンでは、「あなたのCheer Up!ミュージックを教えてください」という質問が恒例になっております。岩見さんのCheer Up!ミュージックを教えていただけますか?

岩見:Cheer Upねぇ〜? Pat Methenyの「Last Train Home」って曲が好きだな〜!
もう14〜5年になるけど自分の母が肺腺癌で亡くなる前の4ヶ月間、故郷の和歌山市まで8回位車で往復したんですが、もっと逢いに行ってれば良かったなぁ〜?なんて悔やみながら走ったものでした。
たまには故郷に、両親や兄弟や姉妹に会いに帰れよ〜!!言ってるような曲ですね!
まぁ、本当は「Going To Key West」がそこに選ばれるようになったら良いなぁ〜てのが正直なところでもありますが!?(笑)

---このアルバムを聴いて「2ndソロアルバムも聴きたい!!」と思う人はたくさんいると思います。構想などありますでしょうか。

岩見:2ndアルバムね〜、今はまだ余韻に浸ってるというか、自分の中のハードディスクが空っぽ状態かも?
ポツポツとライブのお誘いはこなしていかないとですね!!
まぁ、そう貪欲でないにせよ、まだまだこれからも弾き続けて行けたらと思います!!
どうもありがとうございました。

---こちらこそ、中身の濃い内容をお話いただきましてありがとうございました。
今後の岩見さんの活動も楽しみにしております。





『Roots66』岩見和彦

1. Going to Key West
2. Escape from Oxi Maze
3. KUROSHIO
4. Challenge Spirit
5. April 15th... (Rest in Peace , Koji)
6. American Hero
7. Love Theme from Sunflower (Pray for Peace in Ukraine)
8. Point Getter
9. Here We Go !
10.That Time
11.Night in Tijuana
12.Venus
13.Pheasant Island
14.Believin’ 2023

発売日:2023/04/19
規格品番:RAHC-1011
レーベル:Rolling Ahead,Inc
価 格:¥3,300(税込)

【レコーディング・メンバー】
<Heartbeat recording studio Session> 
M-1,6
渡辺剛(pf & key)、佐野忠(bs)、 鎌田清(dr) 、安井希久子(perc)

<TAGO STUDIO TAKASAKI Session> 
M-2,3,4,5,8,9,10,12
鈴木 賢(key,programing)、山下政人(dr)(JetOne) 、吉池千秋(ba) 、安井希久子(perc)、野々田万照(sax)

<ORPhEUS RECORDING STUDIO Session> 
M-7,13,14
中野雅子(pf)、笠原本章(ba)、中沢剛(dr)、安井希久子(perc)

<Remote Session> 
M-11
鈴木 賢(key,Programing)、山下政人(dr)(Jet One) 、山内和義(ba) 、安井希久子(perc)


関連インタビュー
ギターマガジン インタビュー記事
「岩見和彦が語る、輝かしいキャリアの中で初となるソロ作『Roots 66』」
https://guitarmagazine.jp/interview/2023-0420-kazuhiko-iwami/








◆岩見和彦 プロフィール

1956年5月25日 和歌山生まれ。
10歳よりギターを始め、大学進学と同時に大阪へ進出。
78年頃よりヤマハのポプコン(関西支部)等のバックオーケストラの一員を努める。
その頃から清水 興らと共にグループを作り活動(NANIWA EXPRESSの前身)。
82年、CBSソニーよりメジャーデビュー。
80年代はNANIWA EXPRESSにて、次々とCDをリリースし、全国をライブ展開。86年6月、NANIWA EXPRESS解散。
87年4月からはMALTA (sax) 率いるHIT AND RUNのメンバーとして約4年半活躍し、High Plessure、My FavoritesなどのCDレコーディングに参加。'91年頃から約6年間、谷村有美のサポート(ライブビデオやLDなど多数録画)、'00はRX LIVE at 渋谷AX with John Wettonをサポートし、CD Elementsにも参加。
‘05には、スタジオミュージシャンの最高峰である、松原正樹とのコラボアルバム(Live)『INSTRUMENTAL HEAVEN the TWIN GUITAR』を発表。
‘09からは、かねてより親交のある 上田正樹のサポートも時々務めている。
その他CDレコーディングは、国府弘子『Glove Trotting』をはじめ、Brother Korn、Birthday Suite、斉藤 由貴、森高 千里、中山 美穂、工藤静香『 昭和の階段 』、河井英里『 animage 』、巨匠・寺内タケシ『 TERRY 25th ANNIVERSARY SELECTION 』などのAlbumに参加。

そして2002年、ついにNANIWA EXPの正式復活・再出発!
Album『 life of music 』(2003), 『 This is IT』(2004),『 30th 』(2006) を次々とリリース。
『 CROSS OVER JAPAN 』 2003 & 2005 に堂々出演し、『 SOUL POWER SUMMIT 』で ‘06〜‘08の3年間ホストバンドを務めた事は記憶に新しい。
さらに和泉宏隆との「TEX Duo」、また則竹裕之らを加えた「Twilight Express(トワイライト・エキスプレス)」、「Panache(パナシェ)」(01年11月CDリリース)、他にも様々なジャンルで精力的にライブ展開、活動中!
また、学校法人 ESP Musical Academyのベテランギター講師でもある。
趣味は黒鯛(チヌ)釣り。紀州釣りという和歌山の伝統的なダンゴ釣法に精通し、休みを見つけては、ホームグラウンドの伊豆(沼津)まで釣行に!自称「ギターも弾けるチヌ釣り師」。

岩見和彦公式サイト
https://www.guitarist-kazubon.com/
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kazubongtr
YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@user-xr3ui6vm5h


<Cheer Up!関連リンク>
Cheer Up!Column寄稿「和歌山の魅力」(2012年)
http://www.cheerup777.com/column1.html



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