今回ご登場頂くのは人気ドラマーの江藤良人さん。ジャズシーンでは様々なバンド、ユニット、セッションに参加。
J-POPなどジャンルを超えたシーンでも数々のレコーディングに参加され、長年精力的に第一線で活躍しているドラマーです。
インタビューは昨年秋に行われましたが、昨今の状況で公開が遅れておりました。最近の活動のお話、音楽キャリアのお話、それにドラムを習っている人たちへのアドバイスも頂きました。(2020年5月)


---江藤さんは様々なバンド、ユニットに参加なさっていますね。先日インタビューさせて頂いたジョナサン・カッツさんと一緒にNYTC(New York Tokyo Connection)というカルテットにも参加されているとお聞きしました。

江藤:そうですね。メンバーは僕と、安ヵ川大樹さん(b)、ジョナサン・カッツさん(p)、そして彼の友達のデーブ・ピエトロさん(as)。
年に1回、5〜6月ごろにやってたんですけど、2019年はデーブさんが来れなかったのか活動はなかったですね。




---最近はthe Erosとしての活動が活発だそうですね。

江藤:そうですね。後藤浩二さん(p)、加藤雅史さん(b)という名古屋のベテランの方とやっています。
元々は江藤、後藤、そして岡田勉さん(b)で名古屋中心でやっていたんですけど、岡田さんが亡くなってしまい・・・加藤さんが引き継いで活動しています。
2019年にはアルバム『Warm Feelings』をリリースしました。

---『Warm Feelings』は2枚組というボリュームで、the EROSの世界にたっぷり浸れて嬉しいアルバムですよね。

江藤:2018年10月に2日間ライブレコーディングして録ったんですけど、その中からセレクトしました。

---the EROSという、なんだか色っぽいバンド名の由来は?

江藤:まぁ、元々のメンバーみんながエロいってことで(笑)。
名付け親は、このアルバムのライブ録音をしたjazz in LOVELYの店長です。店長が「エロスって名前にしたら?」って(笑)。

---そういうことだったんですね(笑)。このアルバムには江藤さんのオリジナル曲も収録されていますね。江藤さんの作曲方法はいかがですか?

江藤:ピアノで作曲してます。

---ドラムパターンから先にできるということもあるのでしょうか?

江藤:ありますね!でもそういうのはなかなかうまく実現しないんですけどね。
浮かんできたメロディーから作るのが多いですね。
僕の場合は浮かんできたメロディーをつまびいているうちにできることが多いです。




---江藤さんは、the EROSの他にはどんなバンドをされているのですか?

江藤:ちょっとずつ始まったバンドはいっぱいあるんですけどまだ流動的です。Karate Chopsがなくなったので、それに代わるものを色々考え中なんです。
固定のバンドはthe EROSの他には、テナーサックスの岡淳とのデュオ「punch!」などですね。






---江藤さんは10歳からドラムを始めたそうですね。

江藤:小さい頃から音楽好きで元々はギターをやってたんですけど、ドラムのほうが自分にはしっくりきたんです。

---小さい頃や学生時代はどんな音楽を聴いていらしたのですか?

江藤:ジャンルは歌謡曲とかロックとかその当時流れている音楽ですね。全然ジャズとかじゃなくて。
当時はテレビで歌番組がいっぱい流れていましたね。

---歌番組全盛期の時期でしたよね。学生時代はバンド活動や部活動はいかがですか?

江藤:同級生に声をかけてコピーバンドをやっていましたね。
小中学校には吹奏楽部がなかったのですが、高校時代は吹奏楽部に入りました。

---その後、武蔵野音楽学院に進まれ、1994年に土岐英史セッションでデビュー、辛島文雄トリオなどにも参加とのことですね。プロになった経緯はどのようなものでしたか?

江藤:専門学校時代ぐらいからプロミュージシャンとの繋がりもできてきて、20歳すぎからちょっとずつ演奏活動をするようになりました。
辛島文雄さんがコンスタントに呼んでくれるようになって、そこでいろんなミュージシャンを紹介してもらって拡がったという感じです。

---2002年には、初リーダーアルバム『ANIMAL HOUSE』をリリースされました。

江藤:これはトリオで、アルトサックス、ベース、ドラムスの組み合わせでした。Karate Chopsみたいなものですね。
トリオとか人数少ないのが好きなんです。

---2003年、自己のグループ「a.t.m.」を結成。従来のジャンルにとらわれない音楽を追求する趣旨とのことですが、こちらは今も活動されているのですか?

江藤:ベースは安藤昇くん、ギターは和泉聡志くん。テナーサックスは渋さ知らズにいた佐藤帆。彼は今ベルリンに住んでいるんです。解散したわけではないんですけど、それもあって今はこのバンドは出来ない状態ですね。

---江藤さんはご自身のグループ以外にもツアーやレコーディングに引っ張りだこで、orange pekoeのサポートメンバーをされていたり、最近では佐藤竹善さんのツアーにも参加なさっているとのこと。他にはどんなアーティストの活動に参加されているのでしょうか?

江藤:コンスタントに参加しているのは今はそんなにないのですが、レコーディングはいろいろありますね。
たとえば平井堅さん、大沢誉志幸さん、今井美樹さんなどです。

---江藤さんはCANOPUSとPAISTE cymbalsのエンドーサーをされているとのこと。
シンバルといえばジルジャンが一般的というイメージですけど、PAISTEはどんな感じですか?


江藤:まあ音のキャラクターですね。PAISTEは割ときらびやかで、どちらかというとロックで使ってる人が多いですね。ジャズドラマーでは少ないかも。
ジルジャンはトルコ、PAISTEはスイスのメーカーで、製法の違いもあるかもしれません。
僕は割と子供の頃からPAISTEを使っていたので、そちらのサウンド感が好きです。

---CANOPUSのドラムセットはいかがですか?

江藤:CANOPUSはハンドメイドだから値段は高いですね。オーダーしてから出来上がるまでに時間がかかります。パーツを細かくカスタマイズできるのも魅力です。シルバーのパーツをゴールドや黒に変えてもらったり、音の立ち上がりについても注文できます。






---ドラムスティックのこだわりについて教えて頂けますか?

江藤:スティックはCANOPUSの自分のオリジナルモデルを使ってます。
ヒッコリーが好みですね。木のしなり方というか。



---江藤さんは演奏中、ドラムスティックをうっかり飛ばしてしまったことは?

江藤:しょっちゅうありますよ(笑)。自分は軽く握ってスティックの重みで音を出してるので、飛ばすことは多いです。

---江藤さんのドラムセットの組み方について教えて頂けますか?

江藤:だいたい標準だと思います。それにシンバルを増やすか、フロアタムを2つにするかぐらいですね。
ロックの時はツーバス(バスドラム2つ)にしますね。見た目が大掛かりで派手になるのと、両踏みすれば2つの威力、音圧が出る効果もあります。使い方が結構面白いですよ。

---自分の演奏しやすい配置に工夫されてる方も多いと思いますが、江藤さんはいかがですか。

江藤:自分のやりやすい配置にする考え方もあるけど、僕は配置を自由にせず遠目に置いたり、わざと難しくするのが好きですね。




---私もドラムを習っているのですが、最近なかなか上達しないことへの煮詰まりもあったりするんです。私も含め、ドラムの練習をしている人にアドバイスを頂けませんか?

江藤:いろんなジャンルのパターンをいかに好きになるか?だと思います。
それぞれのジャンルのリズムを好きにならないと楽しめないと思うんですよね。
それに、どれだけ楽しめてやれてるか?できないことに対してすら、「いつかできるだろう!」って楽しむ。希望を持ってやってれば絶対上手くなると思うんです。あきらめないことですね。

---人前で演奏して失敗すると、恥ずかしくなってかなり凹むんですよね。

江藤:それはめげないことですね。天才じゃない限り、みんな練習は必要ですし、結局は自分で練習するしかないですからね・・・。
それで弱点を見つけること。例えば自分はリズムが走るタイプだな、あまり大きい音が出せないな、逆に小さい音を出すのが苦手だということなら、それを克服する。
自分で弱点を見つけて目標を持てば、それも楽しいと思うんですよ。
あとは誰かの真似をする。コピーするのもいいと思いますね。お手本を真似てみたほうが解決しやすいですよ。 好きなドラマーを見つけて、その人みたいにやってみるとか。実際、僕がそうでしたからね。

---江藤さんのお好きなドラマーは?

江藤:いっぱいいますね(笑)。
例えばベンチャーズのメル・テイラー、ザ・フーのキース・ムーン、コージー・パウエル、ジョン・ボーナム、ディープ・パープルのイアン・ペイス、クリームのジンジャー・ベイカー。
自分が最初に影響を受けたのはそのあたりですね。
ジャズはその後にいろいろ聴いて、好きなドラマーはアート・ブレイキー、エルビン・ジョーンズです。

---このWEBマガジン恒例の質問なのですが、江藤さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?

江藤:まずは、ジョン・コルトレーン「My Favorite Things」。
あとはマイルス・デイヴィスの『Live Evil』の全曲!
それはもう、元気になります。



マイルスなら『Seven Steps to Heaven』も好きです。アルバムタイトル曲が好きですね。



ロックならディープ・パープルの「Highway Star」とか、レッド・ツェッペリンの「Rock N' Roll」なんかは元気出ますね。

---今後の展望や夢について教えて頂けますか?

江藤:アルバムをいっぱい作りたいですね。できればアナログで作りたいです。
個人的にはフジロックに出たいです(笑)。

---フジロックには何度も出ていらっしゃると思ってました。

江藤:フジロックはないんですよ。他のフェスはいくつかあるけど、フジロックはまだ(笑)。

---意外ですね。

江藤:あとは、日本全国ライブであちこち行ってますが、沖縄だけまだライブでも遊びでも行ったことないんです。沖縄に行きたいです。
あとはKarate Chopsにかわる自分のしっかりしたレギュラーバンドを作りたいですね。

---江藤さんの今後の活動をますます楽しみにしております。本日は貴重なお話をありがとうございました。




『Warm Feelings』the EROS

Disc 1:
1. RecordaMe (Joe Henderson)
2. First Song (Charlie Haden)
3. Nostalgia (後藤 浩二)
4. SHIROKO (江藤 良人)
5. You Are My Everything (Mort Dixon Harry, Warren Joseph Young)
6. Utakata (後藤 浩二)
7. The Nearness Of You (Ned Washington, Hoagy Carmichael)

Disc 2:
1. The Fool On The Hill (John Lennon, Paul McCartney)
2. The Rainy Day (江藤 良人)
3. Art Deco (Don Cherry)
4. In A Sentimental Mood (Duke Ellington)
5. Hey Jude (John Lennon, Paul McCartney)
6. This Is New (Ira Gershwin, Kurt Weill)
7. La Rencontre (後藤 浩二)

<the EROS ジ エロス>
後藤 浩二 (piano ピアノ)
加藤 雅史 (bass ベース)
江藤 良人 (drums ドラム)

2018年10月24日,25日 愛知県名古屋市のjazz inn LOVELYでのライヴ録音

発売日:2019年06月12日
レーベル:KUKU LABEL
規格品番:KUKU-0006



◆プロフィール

江藤良人 Yoshihito Eto

1973年4月14日、三重県鈴鹿市生まれ。
10歳からドラムを始める。
'94年 土岐英史(as)セッションでデビュー。
'96年から辛島文雄(p)トリオへの参加、本格的にプロ活動を開始。以後、池田芳夫(b)DADA、中本マリ(vo)グループ等に参加。
'98年、渡辺貞夫(as)バンドに参加。コンサート、テレビ、ラジオに多数出演。スイス・モントルー・ジャズ・フェスティバルに出演。
'99年 綾戸智絵(vo)“Friends”アルバム制作、ツアーに参加。
'02年、初リーダーアルバム『江藤良人/ANIMAL HOUSE』をリリース。
J-POPユニット“orange pekoe”のレコーディング、ツアーにも参加。
'03年、自己のグループ『a.t.m.』を結成。従来のジャンルにとらわれない方向性を追求。
'05年、故 Elvin Jones(ds)のトリビュートアルバムとして、2作目のリーダーアルバム『江藤良人/RAY』をリリース。
'06年〜15年まで『ルパン三世』の音楽で知られる作曲家/大野雄二率いる“Yuji Ohno & Lupintic Five”に参加。
'11年、ギターサウンドを重点的に取り入れた3枚目のリーダーアルバム『江藤良人/Three-Act Play 』をリリース。
'12年、井上陽介(b)、田中邦和(ts)と『Karate Chops』を結成。
'15年、4枚目のリーダーアルバムとして待望の『Karate Chops』をリリース。
また、日野皓正(tp)、山下洋輔(p)、大西順子(p)、佐藤竹善(vo)、Lee Konitz(as)、Barry Harris(p)、Eddie Gomez(b)等と共演。
現在は自己のグループの他、井上陽介(b)カルテット、石井彰(p)トリオ、岡淳(ts)punch!、the EROS、NewYork=Tokyo Connection等に参加。
御茶ノ水NARUでの『江藤まつり』シリーズ、自由が丘Mellow Brown Coffeeライブ、新進気鋭のミュージシャンを起用したリーダーセッションでは毎回高く評価されている。
柔らかくしなやかで、繊細さと力強さを兼ね備えたドラミングが人々を魅了する。そこから生まれる心地良さ。聞き手はもとより、共演者にも絶大な信頼感をもたらす。

江藤良人 Official Web
http://eto.mockhillrecords.com/
Twitter
https://twitter.com/etoyoshihito
Instagram
https://www.instagram.com/etoyoshihito/
note
https://note.com/etodrummer

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特集:私の好きなマイルス(2019年)
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