ゲントウキの10年ぶりのアルバム『誕生日』は凄い。どんな風に凄いかは、インタビュー本文をお読み頂き、そしてアルバムを聴いてご自身の耳で確認して頂ければ!としか言い様がない。 ゲントウキはトリオバンドとして活動を開始し、2003年にシングル「鈍色の季節」でメジャーデビュー。 2006年にミニアルバム『路面電車とチーズケーキ』をリリース、そして2007年にベストアルバム『幻燈名作劇場』をリリースし、その後は田中潤さんのソロプロジェクトとなり、アルバムリリースは久しく無かった。 今回はアルバム『誕生日』について田中さんに詳細にお伺いした。 『誕生日』特設サイトにおいては、田中さんのセルフライナーノーツ、各界の皆さんからのコメントがたっぷり読めるので、そちらと併せて、『誕生日』の世界を存分に味わって頂きたい。(2016年10月) ---今回、10年ぶりのアルバムリリースとなりましたが、アルバムを出そうと思ったきっかけはどんなことでしたか? 田中:4年前「誕生日」という曲ができたときでしょうか。 ミックスしたのは3年前ですけど、「こんな曲ができた!」みたいな素直な喜びからです。 10年も間が空いてしまったのは、作編曲家として地に足つけて活動しないといけないと思っていたため、なかなかリリースする余裕がありませんでした。 ずっと音楽を作って生活していたので、実感がなく、もう10年経ったのかと自分でもビックリしています。 ---レコーディングはどのように進められたのですか? 田中さんがお一人で全ての楽器を演奏された曲が多いですが、長い時間をかけてコツコツ作られたのでしょうか。 田中:合計すると短いかもしれません。レコーディング自体は1曲4日? 長いもので1週間。曲作りは1曲1週間でしょうか。 でも歌詞は時間かけたと思います。ここが一番長くなる。 ---バンド時代とソロプロジェクトになってからとで、どのような面が違うなと お感じになりますか。 田中:違うのは全部、自分の責任だということです。あとは自分で〆切を決めないと永遠にやり続けちゃう。 なので、凄くつかれてしまう。でも、やりきった感動はとてもデカいと思います。 ---ここからは、アルバム『誕生日』について1曲ずつお伺いします。 1.誕生日 ---この曲には圧倒されました。新しい命に繋ぐ希望、限りなく優しいうた。 東日本大震災後の混乱の時期に書かれたそうですね。 楽器の音色がどれもこれもキラキラしていてときめきました。コーラスワークもとても美しいですが、コーラスワークは、どのあたりに気を遣って録音されましたか? 田中:これは完全にバンド時代には書いてこなかったタイプの曲ですね。 リズム、コードが基本ループなので、ネオソウルの手法を使って、でも、あくまでオリジナルなポップスにしたかった。 コーラスは気を遣ったところはそれほどないですが、最初から重厚にすると決めて録音したことを覚えています。 結果声だらけの曲になりましたが。 2.5万年サバイバー ---オルガンの音色がかっこ良く、そしてベースに存在感がある曲ですね。 以前にも増して田中さんのVocalは伸びやかで突き抜けた印象がありますが、この10年で歌い方も変わったと思いますか? 田中:歌い方は変わったのかもしれません。 自分自身では少しずつ変化していってるので、あまり気づけませんでしたが、聴き比べると変わったなとは思います。 3.カモメの気持ち ---はじめて女性の視点から書いた曲とのこと。想像のふくらむ切ない内容ですね。 浮遊感のあるオルガンとピアノの音色もとてもきれい!ピアノは小さい頃から弾いていらっしゃるのでしょうか。 他のアーティストに曲提供も多い田中さんですが、この曲も誰か女性ヴォーカリストに歌ってほしいなと思われますか? 田中:ピアノは習ってなかったので、独学ですが、弾いていました。両手一本ずつとかで。 本格的に弾きはじめたのはデビューした頃からです。 種ともこさんが推薦コメントで「歌ってみたいと思った」と言ってくださってるので、種さんに歌っていただきたいです。 4.Bye-Bye ---シンガーの宮ア薫さんに提供された曲のセルフカバー。 優しさと希望のある別れのうた。 コーラスが切なさを盛り上げて、泣きのギターというのでしょうか、これまた切なくなる音色で。沁みます! 田中:これは提供時、作詞/作曲/アレンジも僕がやったので、ぜひともセルフカバーしたかった曲です。 ゲントウキバージョンでは、Aメロのリズムを少し変えてみました。あまりポップスではない感じの3、4拍目を抜くリズムです。 なかなかいい曲だと思います(笑)。 5.愛の砂漠 ---竹上良成さんのホーンセクションがとてもかっこいいですね。今回竹上さんに依頼なさった経緯は? 一筋縄ではいかない女性に翻弄される男性の姿を思い浮かべつつ、ハネるピアノ、ゴージャスなサウンドにのって歌い上げる田中さんのVocalが心地良くて、幸せ感じる一曲です。 さりげなく曲を盛り上げる福澤和也さんのギターも素敵ですが、福澤さんはどんな方ですか? 田中:竹上さんは、作曲家の松本良喜さん(「雪の華」を作曲された著名作曲家)に紹介していただき、録音することになりました。竹上さんは本当に素晴しい方で、その後、信近エリの曲でもお世話になってます。大好きなプレイヤー、アレンジャーです。 福ちゃんは、若いのに天才肌のギターを弾きます。あんな巧いのに天然で、僕が佐橋佳幸さんの話をしたら「すいません、知りません…」と返してきました(笑)。 ギタリストで佐橋さんを知らない人がいるのが本当にビックリです(山弦は知ってました)。 他にも出てきそうです… 6.ソフトクリームとスカートの記念日 ---Tokyo Bossa Novaに提供した曲のリメイク版なのですね。 ワクワクする曲調、サンバのリズム。 エンディングのコーラスが最高にハッピーですね。Liveでも聴いてみたくなる曲です。 田中さんのルーツの一つはブラジル音楽とのことですが、特にお好きなアーティストを教えて頂けますか? 田中:これは、コード進行、メロディ、何度歌っても気持ちいいです。 好きなブラジルのアーティストは、ジョイス、エリスレジーナ、その娘、マリアヒタ、ドリスモンテロ・・・etc 音楽の深さを教えてくれたのがブラジルです。 アメリカ、イギリスのポップスにはない、リズムと和音の解釈。 7.アルゴリズム ---「5万年サバイバー」同様、大きなスパンでとらえた壮大な歌詞。この曲では"アイノウタ歌おう"の歌詞からサウンドが賑やかになるのが切なさや哀しさに拍車をかけてくるなあと感じました。 竹上良成さんのサックスの多重録音がまた美しいですね。 田中:この曲は、ジャズ〜サビでポップスになるという「カモメの気持ち」と同じスタイルっぽいですが、こういう曲の歌詞を作るのは難しかったですね。意味を入れようとすると難しい。 実は「カモメの気持ち」の歌詞は、あんまり意味ないのですが…(笑)。こちらはなるべく意味深にしたかったですね。 最後まで悩んだのはこの曲の歌詞ですが、最終的になんとかまとめたという感じでしょうか(笑)。 竹上さんは、おしゃれポップスブラスの天才です。本当あっという間に、素晴しいアレンジと演奏を仕上げてくれます。 8.Busy Days ---働いてる人なら「わかる、わかる!」と共感するような歌詞、アップテンポで歌詞とマッチしてますね。 もっともっとゲントウキの様々な歌を聴いてみたい!という気持ちにさせられる一曲です。 サウンドもすごく凝っていますが、ヴォコーダーを使っているのでしょうか? 田中:これはヴォコーダーでなく、DAW上でピッチ修正ソフトを使って、ボーカルのノートをぴったり一致させています。ヴォコーダーと似たような効果が得られます。 歌詞は、現代の喧噪を描きたかった。なかなか意味深な曲かと思います。 9.素敵な、あの人。(Acoustic Ver.) ---ボーナストラックは、2ndアルバム『いつものように』に収録の、ゲントウキの人気曲。 この曲を選んだ経緯などあれば教えて頂けますか? 2ndの賑やかでワクワクするようなバージョンとはまた一味違い、しっとりした大人っぽい雰囲気と感じました。 田中:これはディレクターの山下奈々さんのアイディアもありました。 マスタリングにやる1ヶ月前とかに相談を受けて、なんとか昔の曲を1曲入れられないかということで、リリースしたレコードメーカーも違うし、僕にそういう発想がなかったのですが、簡単に可能であればやりましょう、ということで録音しました。 とても意味のある1曲になったと思っています。 大人っぽい?のか解りませんが、仕上がりはとても気に入ってます。 ---ライナーノーツに「音楽は時代の影響を強く受ける芸術」と書いてありましたが、現代社会の様々な問題を含んでいる曲もあれば、逆に時代に関係なく普遍的なもの(たとえば男女の機微とか)を描いていたり、とても濃いアルバムですね。 それでいてサウンドや田中さんのコーラスワークが軽やかさを出していて、じっくり向き合って聴くも良し、なにげなく聴くのにも心地良いし、そういうところがこのアルバムの凄さだと思いました。 そのあたり、田中さんはどのようにお考えでしょうか。 田中:そうですね。どんな聴き方をされてもいいアルバムだと思ってます。音楽なので。 アレンジ的にはBGMにもなり得るような作り方をしてますし。 ただ、どんどんエンターテイメントの中に占める音楽のプレゼンスが下がり、どんどんポップミュージックがBGMになっていくというところに、一石を投じたかったというところはあります。 作った手法は、僕らが青春時代を過ごした90年代と同じです。 MVがあって、アルバムジャケットワークがあって、ディレクターがいて、唯一変わったのは録音スタジオが自宅というところでしょうか。ミックスは外スタジオです。 僕は、昨今のリリースされている音楽の質が下がってるとは思いません。むしろ逆に思ってます。音楽は進化し続けています。 現代は前の時代と、新しい時代のつなぎ目の中にいると思うのです。 そのつなぎ目のような音楽であってほしいですね。 ---田中さんにとって、この10年はどんなものでしたか? 田中:個人的には作編曲家としての活動の時期。 世の中的には、ものすごいスピードで社会が変わった10年。 ---アルバムジャケットは、ゲントウキ初期からおなじみのイラストレーター中村佑介さん。 ピンクの髪の女の子が凛と前を見据えていて、眺めているだけで心弾むイラスト。 イラストには「こんな風なところを取り入れてほしい」とリクエストされるのですか? 田中:特にリクエストはしません。 中村君のセンスを信頼しているので、単純にゲントウキの新しい音を聴いて、中村君が感じたものを描いてほしかった。 彼は既に、日本を代表する芸術家で、オピニオンリーダーの一人なので。 カーンと明るい、中村君らしいイラストが僕も見たかった。 本当に素晴しいジャケットになりました。 中村君には感謝してもしきれません。 ---このWEBマガジン恒例の質問です。 田中さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか? The Mummers - Call Me a Rainbow Caro Emerald - That Man ---このアルバムを聴いて、改めて「ゲントウキ大好き!」と思うファンが多いことと思います。各界からのコメントにもそれが表れていると思います。 今後の展望について教えて頂けますか? 田中:今後は、全く違うことに挑戦したいですね。 ちゃんと音楽というアートの存在意義を確信できるようなエンターテイメントに挑戦したい。 常に変化です。新しいアート形態を探る。 そんな感じです。 ---これからの田中さんの挑戦もますます楽しみです。今回はどうもありがとうございました。 『誕生日』ゲントウキ 1.誕生日 2.5万年サバイバー 3.カモメの気持ち 4.Bye-Bye 5.愛の砂漠 6.ソフトクリームとスカートの記念日 7.アルゴリズム 8.Busy Days 9.〜Bonus Track〜 素敵な、あの人。(Acoustic Ver.) 発売日:2016.09.21 VICL-64642(ビクターエンタテインメント) ¥2,800(税込) ◆ゲントウキ:
シンガーソングライター田中 潤のプロジェクト。 ◆田中潤:
1977年1月12日 兵庫県姫路市生まれ ゲントウキ Official Web Site http://www.gentouki.com/ アルバム『誕生日』特設サイト http://www.gentouki.com/birthday/ ビクターエンタテインメント ゲントウキ公式サイト http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A025554.html https://twitter.com/gentouki https://www.facebook.com/Gentouki ♪最新Live情報(2016年10〜11月) ライブの詳細/予約についてはゲントウキのサイトにて予めご確認を宜しくお願い致します。 http://www.gentouki.com/live/160806/ 【ゲントウキ New Album 「誕生日」リリースツアー】 東京:10/14(金)青山 月見ル君想フ Open:19:00 Start:19:30 前売 ¥3,500 当日 ¥4,000 (1drink別) 【出演】 ゲントウキ:田中潤 (Vo,Gt,Pf) 【BAND】ネロ (Gt) / ヒロヒロヤ (Key) / 伊藤健太 (Ba) / 榊原大祐 (Dr) 大阪:11/7(月) 心斎橋 Music Club JANUS Open:19:00 Start:19:30 前売 ¥3,500 当日 ¥4,000 (1drink別) 【出演】 ゲントウキ:田中潤 (Vo,Gt,Pf) 【BAND】ネロ (Gt) / ヒロヒロヤ (Key) / 伊藤健太 (Ba) / 榊原大祐 (Dr) |