及川雅仁 インタビュー



今回ご登場下さるのは、ベーシスト/アレンジャーの及川雅仁さん。
Ricaropeのプロデュースでもお馴染みの及川さんだが、先日インタビューに登場下さったthe Carawayをはじめ、the Sweet Onions、humming parlourなどのライブをサポートしている。
東京近辺でギターポップイベントに行かれる方なら、彼の演奏する姿を見かけることが多いだろう。
今回は、ギターポップシーンを支える裏方として活躍している及川さんに、それぞれのバンドとの出会いやエピソード、Ricaropeのプロデュースのお話、音楽ヒストリーについてじっくり伺った。(2016年9月)



--- 及川さんの音楽活動は幅広いですが、まずはピアノポップシンガーソングライターRicaropeさんのプロデューサー/アレンジャーをされていることについて、お話を伺いたいです。
Ricaropeさんとの出会いのきっかけを教えて頂けますか。


及川: リカちゃん(リカロープ)とは2004年頃に出会いました。当時僕はMashvoxというバンドでドラムを担当していて、偶然対バンになった事がきっかけでしたね。
しばらくしてからドラムのオファーを頂いたのですが、丁度バンドが休止状態になった事と相俟って、リカロープでの活動がメインに移り変わっていきました。

Mashvoxは元々僕の宅録ユニットから始まり、その後3ピースのバンド形式になったのですが、ルーツにあるのは60年代後半のブリティッシュビートやサイケデリックロックなんです。ですので、当初「ピアノ弾き語り・女性ボーカル・ポップス」は僕にとって遠い存在だったのですが、それが逆に先入観無く、新しいものへの好奇心ですんなり入っていけたのかも知れません。


--- Ricaropeさんのアレンジやプロデューサーをされるようになった経緯について教えて頂けますか。

及川: ライブ加入後、LD&K(注:レコード会社)からリカロープの新譜リリースの話があり、僕がデモを作ってみる事になったんです。数日後、リカちゃんに聴いてもらったら、とても感激してくれて・・・。そこからアレンジやデモテープは僕が作るという流れが始まりました。
そのデモがきっかけで「ちいさな校舎」というシングル制作の際、僕をアレンジャーとして入れてくれたんです。

幸いな事に、元シンバルズの矢野さんと共同で作業する事が出来て、とても貴重な経験をさせて頂きましたね。
録音に失敗して皆さんに迷惑をかけたり、機材について勉強になったり、憧れていたレコーディングの現場は、とても厳しく、とても充実した空間である事を知りました。
ちなみに丁度この録音から、僕は本格的にベースに転向しました。


--- アレンジやプロデュースで気を付けている事はありますか。

及川: 最初の頃はリカちゃんのピアノと歌に寄り添う形でドラムやベースを付けていたのですが、段々お互いの信頼関係が深まっていくに連れて、僕の方でピアノフレーズやコード進行の変更など、細かいアレンジメントの部分から、作品のコンセプトやデザインのジャッジなど、トータルプロデュース迄させて頂ける様になりました。

僕がデモを作る場合、スタジオでセッションから作るのではなくて、一人で相当作り込むタイプなんです。
OKを頂く為には、まずはリカちゃん本人、スタッフに納得頂く必要があるので、適当なデモだと伝わらないんですよ。

例えば生ドラムの雰囲気を伝えたい時は、一人スタジオでドラムレコーディングをしてきます。
最初から完璧なデモを作るのは時間もかかりますし、効率も良いか悪いか微妙なんですけれど・・・この作り方が一番ゴール迄ブレずに進めるんです。

あと、リカロープに関しては歌詞の世界を一番大事にしています。
例えばですが、気持ちを上げたい箇所でピアノのフレーズを駆け上がらせたり、、世界観が音で伝わるアレンジをいつも目指したいと思っています。


--- Ricaropeさんの最新アルバム『a little trip』(2015年11月リリース)については、ポプシクリップさんのインタビュー記事で読むことが出来ますが、この記事には登場しなかったようなエピソードがあれば伺えますか?

及川: こぼれ話ですが、ジャケットのデザイン、本来はまったく違うイメージで話が進んでいたんです。
デザインが4回くらい大幅に変わったのは初でしたね。
実は、リカちゃんが全身タイツを着て人文字をするというデザイン案もありました(笑)。




Ricarope『リトルトリップ』MV(2015年)


--- ライブサポートとしては、Ricaropeさんのほか、ハミングパーラー、the Sweet Onions、the Carawayのライブで演奏されているそうですね。
それぞれのバンドとの出会い、印象的なエピソードなどを教えて頂けますか?


及川: 10年くらい前に「my charm」というCD付きの雑誌にリカロープの曲が収録されまして、そのイベントで色々な方々と共演させて頂いたのが始まりですね。
イベントの帰り道、the Sweet Onions(以下:オニオンズ)の高口さんとたまたま二人になったのですが、会ったばかりの僕に色々話しかけてくれたんですよね。懐の広い方だなあと。この日以来、高口さんとはプライベートでも仲良くさせて頂いておりますし、たくさんの方と出会うきっかけを作って頂きました。

オニオンズもハミングパーラー(以下:ハミパラ)も、すぐにサポートをさせて頂いた訳ではなくて、イベント以降は仲の良い友達だったんです。
リカロープで何度か共演させて頂いてはおりましたが、一緒に海へ行ったり、花見をしたり、忘年会をしたり、、ここ10年くらいそういう仲間でした。
ですので、改めてお誘いを頂いた時には、嬉しかったけれど葛藤もありました。友人という側面を省いて、きちんとベーシストとして参加する責任がありますので、、。
唯、スタジオに入って音楽に向き合ったら、考え過ぎていたなぁと。どんな関係であっても、僕が出来ることはベストを尽くすだけという事に気付きました。

キャラウェイについては、3年くらい前、僕がハミパラでベースサポート2回目くらいのタイミングで嶋田さんが加わったんです。
僕らはそこで初対面で、お互いハミパラのサポートメンバーとしての関係だったのですが、後々嶋田さんからキャラウェイのアルバムを頂いたんです。聴いてみたら、とても感動しまして、、何回もリピートして聴きましたね。それを伝えたところ、しばらくしてバンドにお誘い頂きました。とても嬉しかったですね。


--- 最近はギターポップ界隈でのサポートがますます多い及川さんですが、イベントでは出番が続くこともあるのでは?
どういったところが大変ですか?


及川: パートが多くなると大変なのは機材の運搬です。ライブ当日は晴れる事をひたすら祈ります(笑)。車が無いので、いつもどうにかキャリーで運んでいますね。
また、パートチェンジがあると自分の中のモードというかスイッチを変える必要があるので、、集中力は余分に必要ですね。
でも参加させて頂いているバンドはどれも個性的なので、自然と切り替わるんですけどね。


--- ご自身でもバンドを持ちたいというお気持ちはありますか? ご自身が表には立たず裏方として活動することについて、お考えを教えて頂けますか。

及川: 自分のバンド、やりたいんですよ。元々宅録ばかりやっていたので、曲のストックは沢山あるし一人で録音作業も出来ます。唯、それを具体化する迄にあと一歩足りていないんです。
たまに寝る前とかに妄想する事がありまして、ライブでの編成や、あの曲のあそこはどう録音しよう、とか。
妄想している時は最高に盛り上がっているんですけどね。具現化するモードに入ると中々進まない。

自分の声が好きで自信があるなら、僕は間違いなくボーカリストを目指していると思います。
上手い下手に関わらずですが、、宅録や作曲、アレンジをやりたい究極は、セルフプロデュースだと思うんです。
唯、リカロープでのスタンスを考えると、、僕はゼロから生み出すのではなく、誰かが生んだもののクオリティを上げる作業の方が得意なのかも知れませんね。
そこが自分のバンドを思い止まらせている理由にもなっていると思います。

こうやって振り返ると、やはり裏方が性に合っているのかも知れません。自身のバンドは夢としてとっておきますね(笑)。


--- 音楽とはまた違うお仕事の傍ら、音楽活動をしていくことの大変さ・嬉しいことそれぞれあると思います。そのあたりはいかがですか?

及川: 普段はデザインやプログラムの仕事をしておりますが、クライアントの希望を伺い、実現可能な手段を提案しサービスのコアを形にしていきます。それって、音楽でのアレンジやプロデュースと似ているんです。
先ほどの話と通ずるのですが、僕にとっては仕事も音楽も、クライアントやエンドユーザーの行間を読んでマッチングしていく事が本質にあるのかもしれません。

皆さんそうだとは思いますが、仕事をしていると音楽に使える時間は限られています。
そういった大変さはありますが、音楽での体験は他では得られないものですし、こうやってインタビューを受ける事も無かったですもんね。
こういった出会いが、音楽を続けていて良かったなぁと思う瞬間です。


--- ここからは及川さんの音楽ヒストリーについて教えて下さい。
小さい頃、どんな音楽を聴いて育ちましたか? 小さい頃〜学生時代によく聴いていた音楽について教えて下さい。


及川: 父がオールディーズ好きで、幼少の頃から50、60年代の洋楽を車の中でよく聴いていましたね。ビートルズのカセットテープを親戚に頂いて、それもよく聴いていました。
あと小学生の頃、「夢で逢えたら」っていう番組にハマってて。バンドが出てダウンタウン達が演奏するコーナーがあったのですが、そこに出ていたバンドを追っていましたね。主題歌にもなっていたサザンやユニコーンは未だに大好きです。
他にも学生時代は周りで流行っていたドリカム、チャゲアス、ミスチルとかも普通に好きでしたよ。


--- 及川さんはマルチに楽器を演奏されていますが、楽器はいつ頃から始めたのですか?

及川: 中2くらいだったと思うんですが、父にフォークギターを買ってもらったのが最初です。
「たま」の「野球」っていうライブビデオがあるんですけど、それにとても衝撃を受けまして、、興奮冷めやらぬまま父と楽器屋に行ったのを覚えています。でも、弾き方も楽譜の見方もまったくわからず、教則本を片手に何となくDとかAのコードを押さえるっていうレベルでしたね。

元々は高校まで、僕は音楽よりも絵が好きでした。小さい頃から漫画を描いたり、風景画を描いたり。唯、高校に入ったらもっと絵が上手な人が周りにたくさんいまして、、なんとなく、挫折した所があったんです。
そんな中、ギターをちょっと弾ける人ですら周りにいなかったので、これだ、と思いました(笑)。
高校2年くらいから急に音楽へのめり込むようになりましたね。


--- バンド活動などはいつ頃から始めましたか?

及川: 当時L⇔R、スパイラルライフ、電気グルーヴが大好きでした。
電気の影響で、打ち込みをやりたいんだけど機材がわからず、最初にYAMAHAのQY20というシーケンサーを買ってひたすら遊んでいましたね。
まずバンドスコアを買ってきて、それをひたすら譜面通りに打ち込むんです。
やればやるほど、本物と音が全然違う事に気付いて、添削や調整をしていくんです。気が付いたら朝です(笑)。これを繰り返していましたね。

それと並行して、The Whoに出会い激しいロックも好きになっていきました。
最初に買ったエレキギターはピートタウンゼントが使っていたリッケンバッカー1997というモデルで、それを持って友達とビートルズバンドを始めました。
あ、Whoではなく、まずはビートルズからだろう、と(笑)。

何度もCDを聞き返しては、バンドスコアを添削したり、やたらストイックにコーラスの練習をしていましたね。下手でしたけれど・・・。
要するに僕は打ち込みとコーラスバンドを追求するのが好きだったんですね。
今も変わっておりませんが(笑)。


--- ドラムを始めたのはいつ頃だったんですか?

及川: 大学2年くらいから始めました。大学では軽音サークルに入っておりましたが、僕の代でドラム人数が少なかったので、なんとなく叩いたらそのまま固定パートになって、、ドラムにのめり込みました。
打ち込みでもリズムパターンを作るのが一番好きだったので、興味があったんですね。
先輩にドラムが上手な方がたくさんいたので、憧れもあったんだと思います。


--- 本格的に音楽活動をされるようになった経緯を教えて頂けますか?

及川: サークル活動の裏ではオリジナルの楽曲のデモを作り続けていました。数人でそんな事をシェアするグループもあって。最終的にはそこからMashvoxが出来上がりました。

卒業くらいのタイミングでライブ活動をし始めたんですけど、メンバーも会社員をやりながらだったので大変でしたね。新宿JAMや下北沢ガレージ、ベースメントバー辺りでよくライブをさせて頂きました。
僕らはサークルの中でしかライブをやった事が無かったので、、始めたばかりの頃はお客さんもいないですし、ブッキングの方に怒られたり、ノルマは赤字になるし、、何度も心が折れそうになりましたね。

そこからステップアップしたかったので、初めて本格的なレコーディングをやって、音源を作る計画を立てました。
当時デキシード・ザ・エモンズが好きで、エンジニアで有名な槙野さんにレコーディングをして頂いたんです。最終的にリリース迄いかなかったんですけど・・・。
でも、そのレコーディングをきっかけに、マイクやヘッドアンプ、エフェクター等の機材にも興味を持ちましたし、録音のセッティングやドラムのマイキングなど、とても勉強になりました。
あの経験があったから、今の僕があるのは間違いないです。


--- Mashvoxで活動されていた時期は、インディーポップ/ギターポップイベントでも演奏されていましたか?
当時のイベントの雰囲気、どんなバンドと対バンしたかなど、エピソードを教えて頂けますか。


及川: 当時イベントは数回しかお呼び頂いた事がありませんが、一番嬉しかったのはアベジュリーさんのイベントに呼んで頂いた事でしたね。
僕らはどちらかと言うとKOGA RECORDSやDECKRECなど、ガレージ要素の強いレーベルに憧れていたので、当時のインディーポップやギターポップの界隈とはあまり接点が無かったんです。
僕に関しては、古着を着てマッシュルームカットでドラムを激しく叩く、みたいな感じでしたし。ギターポップ特有の爽やかさや上品さは微塵も無かったと思います(笑)。

余談ですが、umbrella marchの神野君と昔一緒にガレージバンドをやっていた事があって、去年ギターポップのイベントで10年ぶりくらいに再会したんです。
お互い「何でここにいるの?!」と驚きました(笑)。唯、ガレージもギターポップも、僕の中では60’sがルーツなイメージなので、今となっては違和感無いですね。


--- このWEBマガジン恒例の質問です。及川さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?

及川:
Wilson Pickett「Land of 1000 Dances」
The Hollies 「Stay」
The Temptations「Get Ready」
Grapefruit「Elevator」
Electric Light Orchestra「Shine a Little Love」


ちょっと多くなりましたが、、どれも名曲ですよね。 僕のルーツで、テンションが上がる曲を選びました。


---今後の展望や夢を教えて下さい。

及川: 個人としては、やはりいつか自分発信の音楽を作ってみたいですね。バンドなのかユニットなのかはわかりませんが、、形にはしてみたいです。
リカロープとしては、また新しい音源をお届け出来るように頑張りたいと思っております。またサポートミュージシャンとしては、各バンドの魅力を今以上に出せる様、貢献したいと思います。


---本日はありがとうございました。


【編集後記】
及川さんの音楽にまつわる想いを伺っていると、細部まで妥協せず、それでいてしなやかな柔軟性もあり・・・お人柄が音楽にも反映されているんだろうなとあったかい気持ちになります。
及川さんご自身のユニットやバンドによる音源を聴けるのを楽しみにしております。



『a little trip』 Ricarope

『a little trip』 Ricarope

1. リトルトリップ
2. スタイル
3. radio
4. あの日のYes
5. jet
6. California
7. ブルーグレーな空
8. ゴーストタウン
9. 北欧ロマンス
10. 〜 jingle 〜
11. トワイライト
12. Have fun
13. 車窓
14. 恋がSwing!

発売日:2015年11月4日
レーベル:C'est-bon! label - セボンレーベル -


及川 雅仁


◆及川 雅仁 プロフィール:

1977年 東京都出身。ベーシスト/アレンジャー。
プロデュースからアートワークまでこなすマルチプレーヤー。
参加アーティストはRicarope(プロデュース、編曲、ベース)、
the Caraway(ギター、キーボード)、
the Sweet Onions(ベース)、
humming parlour(ベース)など。


Ricarope official site
http://ricarope.com/




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