クラブ・ジャズ・シーンを牽引するquasimode(クオシモード)のリーダーでありピアニストである平戸祐介さんが2012/1/11、初のソロ・アルバム『Speak Own Words』をリリースした。 アルバム・タイトルの『Speak Own Words』にはドキリとさせられた。 ネットの普及・メディアの多様化・SNSの流行などで、自分自身のことばできちんと伝えることの大切さがよりいっそう求められている時代のように思う。もちろんこの"Words"とは、ことばに限らない。自分の音楽を自分のことばで伝えること。平戸さんが大事にされていることがこのアルバム・タイトルに込められているのではないだろうか。 平戸さんに、このアルバムのことを深く伺ってみたいと思っていたところ、今回"Cheer Up!"でのロング・インタビューが実現。 何度でも聴きたくなるようなこのアルバムをかけながら、じっくり読んで頂きたい。(2012/03/03) ---アルバムタイトル『Speak Own Words』に込めた思いを教えて下さい。 平戸:今までquasimodeの活動(今年で結成10周年!)を通して培ってきたもの、そして僕が高校を卒業して6年間いたニューヨークJAZZ留学で築いてきた音楽性を思う存分”平戸祐介100%”で表現したいという思いで作りました! ---2012年になって間もない時期のリリースですが、昨年の東日本大震災はこのアルバム制作にどんな影響を与えましたか。 平戸:震災が起こった時、僕はちょうどツアーの最中で地元長崎でテレビの収録を行ってました。ツアー自体の開催も慎重に考えて、”俺たちに出来る事は音楽だ”の気持ちを強く持ちツアーを敢行しました。そこで得たものは財産でした。たくさんの人たちからパワーや勇気をもらい音楽に対する情熱がじわじわと燃えるように湧いてきたところにこのアルバムの話を頂いたのでタイムリーだったし、その熱い気持ちのままアルバム制作に突入できた感じでした。 ---ピアニストの方のソロ・アルバムとのことだったので、トリオ編成でオリジナル曲やスタンダードナンバーが並んだアルバムをイメージしていたのですが、予想以上にバラエティに富んでおり、聴きやすくとっつきやすいアルバムだと感じました。何度聴いても飽きません。 平戸:ありがとうございます。とても嬉しいです。とにかく念頭にあるのは僕の考えるJAZZを楽しんでほしい!それだけなんです。 別にトリオでスタンダードものもありなのですが、それだと味気ない。やっぱりみんなに伝えるからには平戸祐介の全てを知ってほしいからもりだくさんな内容になってしまった!(笑)でも普通のJAZZライブだとスタンダードでバリバリのJAZZやってます! ---ここからは、アルバム収録曲について1曲ずつ伺っていきたいと思います。 1. Taxi Driver Theme ---メロディーがとても切なく美しく、大都会の孤独を描いた映画の場面が浮かんでくるような名曲ですが、1stソロアルバムの1曲目にこの曲をもってきたのは? 平戸:特別意図はないんですが、曲が持つ雰囲気がこれから何かが始まりそう。険しい道だけどこれから超えていくぞ!的なものが感じられたから、せっかくなら僕自身の初ソロアルバムだし"Taxi Driver Theme"を1曲目にしようと思いました 2. 生まれたてのメロディ feat. bird ---とてもあったかい歌詞にほっこり嬉しくなりました。birdさんと一緒に作った歌詞なのでしょうか。PVも手描きイラストが可愛らしくて曲にピッタリですね。PVの中のお2人の雰囲気もリラックスしていてとてもいい感じ。先行配信され、人気も高い曲と伺っていますが納得です! 平戸:この曲、実は本当に難産だったんです。曲を作る時のコンセプトもアイディアもなんとなくは見えていたんですが、頭でわかっていても、サウンドが結実しなかったんです。 だけどピアニストがあまり書かないキーDメイジャーで書いたら。良いメロディが出てきて。僕の中では難産であり、挑戦の曲でした。 聞いてわかる通りJAZZY POPな感じですよね。そのPOPさが俺にはなかったので苦労もしましたし、でも今後の自信につながりましたね。birdさんも素晴らしい歌詞、歌声で応えてくれました。PVは岡川さんのカリスマ性が思う存分発揮されてます。また仕事しましょうね!(笑) 3. I'm In Love ---Nancy Wilsonのこの曲は、初めてこのアルバムで聴いてとても気に入った1曲です。 ラテンのリズムから4ビートに変わるあたりがかっこ良くてドッキリします。なんといってもアレンジがかっこいい! 平戸:そうなんですよ。4ビートに変わる瞬間気持ちいいですよね!この曲がもつ疾走感を大切にアレンジしました。原曲よりもよりラテンタッチが強いアレンジにしました。クオシモードのアレンジが好きな人もすんなり入れる1曲だと思います。 4. Against The Invisible Wall feat. Tomoki Seto(Cradle Orchestra) ---ストリングスやシンセが入ってきてちょっとスペイシーなイメージ。しかもこれは平戸さんのVocalでしょうか!? 瀬戸智樹さんはヒップホップのDJ、トラックメーカーの方なんですね。1〜3曲目とは全く違った雰囲気、quasimodeともまた違い、平戸さんの新たな一面を知った思いです。 平戸:そうです。これは僕の声です。。(笑)人生で初めて歌いましたよ。貴重な経験でしたよ。瀬戸くんとはquasimodeのライブでもよく遊びにきてくれたりとか、彼がプロデュースするANAN RYOKOさんのレコーディングにquasimodeが参加したりとかで結構交流があったんですね。今回もその繋がりで是非という話で。 この曲を作る際も叩き台を瀬戸君が作ってくれて、それに俺がメロディと歌、若干コードも変えたりとかしました。瀬戸君がもつHIPHOPテイストと俺の音楽性がマッチしてすごくキラーな曲になりました。また何かやりたい。 5. And Far Away ---トリオ編成の平戸さんオリジナル曲。ちょっと寂しげな感じもするジャズ・ワルツですね。初めて聴いたのにどこか懐かしいメロディーに和みます。 平戸:とにかくメロディ重視で作りました。曲のストラクチャー的には普通ですが、メロは相当入魂で作りました。ジャズは即興も大事だけどメロも大事だぞ!と。これを伝えたかった。 6. A House Is Not A Home feat. 元晴(Soil&“Pimp”Sessions) ---バート・バカラックの曲。Soil&“Pimp”Sessionsの元晴さんのサックスがなんとも言えずいいですね。バックトラックもかっこいい。 平戸:そう。元さんはソイルでは激しいプレイが多いんだけど。彼のバラードが聞きたかったんです。やってもらったらこれが凄くいい。リラックスした彼の1面がみえたと思う。彼のアルトは本当に泣くよね。大好きなんだよね。また、生バンドで全体やらなくて打ち込みにしたのも良かったと思ってる。 7. Down To The South ---平戸さんのオリジナル。この曲ではフェンダーローズを使われてますね。ちょっと硬質な音色がローズの新たな魅力を引き出していると感じます。ローズは普段もよく弾いているのですか。 平戸:クオシを結成した当初はファンク色が強くてほぼローズを弾いてた時期もありました。でも相当前です(笑)70年代のCTIレーベルを意識して作りました。あの時代の音がすごく好きなんです。ジャズ喫茶を経営してた親父もよくかけてたから。幼い頃から親しんでたので。でも結構曲のコード進行とかは単純ではなく、かなり凝ってますよ。 8. Love Will Bring Us Back Together feat. mabanua ---ロイ・エアーズのファンキーな曲。mabanuaさんの打ち込みがかっこいいですね。そしてヴォコーダーの雰囲気が70年代っぽい!Liveで直接聴いてみたい一曲です。 平戸:実はこれも。。。僕が歌ってます(笑)これこそ僕にとってストリートミュージックなんです。mabanuaくんはその辺のビートプログラミングが半端ないくらい素晴らしい! かなりクラブでもアゲアゲで聞いてもらえたらと思います。ライブでもボコーダーを使ってライブできたらと企てております! 9. Spectrum ---flower recordsの高宮永徹さんとの共作でしょうか。前に突き進むようなベースラインと、その上にふわっとのっているようなキーボードがかっこいい。勝手に宇宙旅行をイメージしてしまいました。 平戸:高宮さんとの共作です。高宮さんは誰もが認めるディスコマスターです。その高宮さんにベーシックトラックを作ってもらい、その上で俺が遊んでるという構図です。 当初はイケイケなディスコを作りたかったですが、俺のコード感がそう持っていけず、、(笑) 大人なディスコになりました。高宮さんのディレクションも本当に助かりました。 10. No More Sadness (Solo Piano Version) ---quasimodeの『Magic Ensemble』にも収録されていましたが、今回はソロ・ピアノVersionなのですね。 quasimodeの時とはまた一味違った魅力を感じます。No More Sadness というタイトルが、今年は特に心に沁みます・・・。 平戸:そうなんです。実は昨年の震災以後、ライブツアーで僕一人だけの無伴奏ソロをよくやるようになって。せっかくだからソロピアノで録音したいなと。やはり震災以後からソロピアノでやり出したところもあるので、震災に遭われた方々に少しでも耳に届けばいいなと思ってます。 11. Music feat. 畠山美由紀 ---キャロル・キングの名曲。畠山さんの伸びやかな歌声と平戸さんの華やかなピアノが相性抜群。畠山美由紀さんとはquasimodeでも「ワルツが聴こえて」などで共演されていますが、交流も多いのでしょうか。 平戸:そうなんです。まず家が近い。街でも時々会うんです(笑)それと彼女が参加してるユニットPort Of Notesでも僕はサポートで参加させて頂いたりとか。普通にJAZZのセッションでもゲストで招いたりとか。交流が盛んです。この曲もその彼女とのライブセッションの中で歌ってもらって凄く良かったのでレコーディングさせてもらった感じです。 12. Love Is A Losing Game ---エイミー・ワインハウスの曲。このピアノのキラキラした美しさに、なぜか懐かしさと切なさが込み上げてきて涙腺がゆるんでしまいました。 平戸:僕もこの曲弾いてると時が経つのを忘れて時間が止まってるような錯覚になる事があります。Amyは本当にOne&Onlyな素晴らしい歌手です。そんな彼女へのオマージュになればいいなと思います。 ---ここからは、平戸さんの小さい頃からのお話を伺っていきたいと思います。 お父様がジャズ喫茶を営んでいらしたとのこと、膨大なジャズのレコードに囲まれて育ったと伺っております。 中でもお気に入りだったアルバムやジャズメンは?また、子供の頃、ジャズ以外に好きだったのはどんな音楽ですか? 平戸:そうなんです。今は残念ながらジャズ喫茶はやってませんが、僕が6歳までやってました。1週間に2〜3度、店からレコード持ち帰ってきてお勧めを親父が聞かせてくれてましたね。その中でも日本が誇るサックスの巨人 渡辺貞夫さんのアルバム「My Dear Life」は相当はまりました。当時好きなジャズメンはやはりマイルスデイビス(tp)でしたね。服もプレイも全てがカッコイイ!子供の頃は両親がテレビをみせてくれなかったのでジャズ以外あまり聞いてませんでした(汗) ---小さい頃から、お母様からピアノを習っていたそうですが、クラシックの曲もたくさん弾いてこられたのでしょうね。 平戸:いえいえ、、そんなに(汗) 教則といわれてるチェルニー、ソナチネ、あたりはやりましたね。クラシックを聞くのはすごく好きででした、今でも好きですよ。ドビュッシーなどの現代作曲家のクラシックは大好きでした。ただ、古典といわれるのがちょっと苦手で。でもバッハは好きなんです(笑) ---中学生の頃、既にセッションをしていたというお話には驚きました。まさに、ジャズを盛り込んだ人気コミック「坂道のアポロン」みたいですね!(ちなみに「坂道のアポロン」のサントラにquasimodeも参加してますね) 平戸:そうですね。俺を題材にしたの?と一瞬思ったくらいでしたもん(笑) 言い過ぎですね。でも坂道のアポロンは素敵な漫画ですよね。たくさんの人に読んでもらいたい。 ---高校生になってもジャズ一筋だったのでしょうか。ロックに目覚めたり、バンド活動をしたとか、何か高校時代の音楽にまつわるエピソードがあれば教えて下さい。 平戸:それが先ほど言ったようにテレビを見ない家だったので情報が、、(汗) で物心ついた時にはJAZZが一番好きだったし。あまり浮気しなかったです。 ただ高校時代みんなジュンスカイウォーカーズ、ブルーハーツ、BUCK-TICKのカバーとかやってたりとかしてて派手なステージアクト、衣装にはちょっと憧れました(笑) だってJAZZにはああいう要素がないから。 ---当時の愛聴盤には渡辺貞夫さんの「マイ・ディア・ライフ」も入っていたと知り、私も「モーニング・アイランド」などのアルバムが大好きだったので親近感を覚えました。当時流行っていたFUSIONも聴いていらしたのでしょうか。 平戸:はい。聞いてました。本田竹廣(key)が率いてたNative Sunとかは聞いてました。ブレッカーブラザーズ、あとマイルスのフュージョン盤も大好きでしたし。 ---高校卒業後ニューヨークに渡り、ニュースクール大学ジャズ科に入学なさったとのこと。ニューヨークでの日々はどのようなものでしたか。 平戸:日々が競争、うかうかしてたら置いてけぼりみたいな。サバイブでしたね。一瞬も気が抜けない日々でした。それがNYなんでしょうね。かなり精神的に参った時期もありましたが、あの経験が今に生かされてます。あの時期がなかったら今の僕はないと断言できるくらい素晴らしい日々でした。 ---帰国後quasimodeを結成、quasimodeの人気も徐々に高まっていき現在に至るわけですが、今後のquasimodeの予定もぜひ教えて下さい。 平戸:quasimode今年で結成10周年を迎えるんです。それを記念して今までリリースしたアルバム5枚から選りすぐりの14曲!3月7日にリリースされます。 アルバムタイトルは「Four Pieces-The Best Selection」宜しくお願いします。 それに伴いアルバムツアーもやります。 3月29日(木)Blue Note Nagoya 4月2日(月)BIllboard Live Osaka 4月26日(木)渋谷WWW ---気の早い話ですが、2ndアルバムもとても楽しみにしています。 本日はありがとうございました。 平戸:ありがとうございました!!! 平戸祐介『Speak Own Words』 1. Taxi Driver Theme 2. 生まれたてのメロディ feat. bird 3. I'm In Love 4. Against The Invisible Wall feat. Tomoki Seto(Cradle Orchestra) 5. And Far Away 6. A House Is Not A Home feat. 元晴(Soil&“Pimp”Sessions) 7. Down To The South 8. Love Will Bring Us Back Together Feat. mabanua 9. Spectrum 10. No More Sadness(Solo Piano Version) 11. Music feat. 畠山美由紀 12. Love Is A Losing Game 平戸祐介(Pf、Key)プロフィール:長崎県生まれ。ジャズ喫茶を経営する父親とクラシック・ピアノの先生をする母親の間に生まれ、4歳の頃よりピアノを弾き始める。父親の所有する膨大なジャズ・レコードを聴きながら育ち、中学生の頃からジャズピアニストとして活動を開始。高校時代にはNYマンハッタン音楽院のサマー・ワーク・ショップでトップ・レベル・コンボに抜擢され、最優秀賞を獲得。卒業後渡米し、NYにあるニュースクール大学ジャズ科に進み、Walter Bishop Jr.に師事する。'95にはRichard Davis (Bs), Winard Harper (Ds)と共演、ジャパン・ツアーで成功を収める。大学卒業後に帰国、上京し、quasimodeを結成。現在はリーダーとしてバンドを牽引しながら、様々なジャズ・クラブでのライヴ、レコーディングなども積極的に行なっている。 平戸祐介公式ブログ http://yusukeblog.exblog.jp/ クオシモード公式サイト http://quasimode.jp/ |