平戸祐介さんの待望の2ndソロアルバム『Voyage』が到着した。
1stソロアルバム『Speak Own Words』から3年、この間には長年シーンを牽引してきたquasimode(クオシモード)の活動休止という大きな出来事があった。
ゲストを多数迎え賑やかな印象もあった前作とはまた趣が異なり、ピアノだけで紡ぎだされる平戸さんの音楽は力強く前を見据えているように感じさせる。
そんな平戸さんに、このアルバム『Voyage』について詳細にお話を聞かせて頂いた。



---1stソロアルバム『Speak Own Words』はゲストも多く、盛り沢山なアルバムでしたが、今回はソロピアノなんですね。
タイトルは『Voyage』、クオシモードが活動休止ということで、平戸さんの"新たな出発"という想いが込められており、そして、きっとそれだけではない様々な想いがあるのではないかと思うのですが、いかがですか?


平戸:そうですね。『Voyage』はクオシモードから、また新たな旅立ちという意味合いももちろんありますが、僕が、幼少から好んで聞き、追い求めてきたモダン(バップ)ジャズを純粋にやりたいという夢を実現できたという意味でもこのアルバムをリリースする意義はすごく大きなものなんです。
クオシモードでは、結成して12,3年、ある意味ジャズを聴いた事がない方でも楽しめるアルバムを毎回作って、ジャズの難解さや敷居の高さとか取っぱらってきた。だからこそ、そういう下地を作ってきた自分たちを試すアルバムを作ってみたかったんです。
だからこの『Voyage』は、正直言うとジャズを聴いた事がない方が純粋に楽しめるかと言うと、俺は素直に「うん」とは言えないアルバムになってると思います。
でも今の時代感を反映させる曲たちだと自負してますし、JAZZを素直にリラックス作用としての立ち位置で聞いてもらえたら良いなとも思ってます。
「寝る前にジャズ」...「朝起きたてにジャズ」...いいじゃないですか!
部屋でのんびり聞くアルバムだと思ってます。是非お供にしてください(笑)。


---今回、あえてリバーブ感を外したとのこと。
臨場感があり、平戸さんの演奏をピアノのすぐそばで聴いているような贅沢な感じがします。
リバーブ感を外した理由を教えて頂けますか?


平戸:単純にそういうリバーブ感を外した生々しい音が好きという個人的主観も含まれてるかと思います。
僕のピアノスタイルは、アップテンポではもちろんの事、ノンペダルでバラードを弾いたりするので自然とそういうノンリバーブの音を望んでた自分がいたのも確かですね。
だからエンジニアの安宅さんやアポロサウンズの阿部さんにもお願いしてそういう音像になるようにマイキングの配置をお願いしました。
あとは、僕のこのアルバムで目指す、また表現したい音楽は50〜60年代初頭のビバップと呼ばれてる音楽なんですね。
バドパウエルであったり、バリーハリス、ウォルタービショップJr、アルヘイグ、タッドダメロンのピアニストたちです。
彼らが当時ソロピアノで演奏、アルバムレコーディングする時にペダルをベタ踏みするか、当時エフェクトを多用するか......絶対しないと思うんですよ。彼らは。ピアノ本来の、ピアノからの純粋な出音をすごく大切にするJAZZ GIANTS達ですからね。
彼らに対しての深い敬愛とオマージュもあるんです。


---今回のアルバムは10曲、平戸さんのオリジナル5曲、スタンダード・ナンバー5曲で構成されています。
選曲には迷いましたか?選曲の基準を教えて下さい。


平戸:あまり迷いませんでした(笑)。僕が、このプロジェクトをやろうとしたきっかけは、もちろん前作『Speak Own Words』でたくさんいろいろな事をやらせてもらった。打ち込みあり、歌あり、トリオあり、サックスあり...なので今回はシンプルに自分のルーツであるものを表現したかった。

僕は、4年前あたりから本厚木にある「Cabin」というお店のふじこママからの提案で「うちでソロやらない?」...ここから始まってるんです。
ふじこさんの一言がなかったら、このアルバムの構想はなかったですね。確実に。だからすごく感謝してるんです。
その4年前からたくさんのスタンダードをソロライブで弾いてきたんですけど、その集大成でもあったので選曲はそこまで迷いませんでした。

オリジナルは逆にファンの方々からの熱い要望があってオリジナルも入れようと決めました。
これもレコーディングする1ヶ月前に作って...出来たてホヤホヤのままレコーディングしました。
だから冷めないうちにお召し上がり下さい的な(笑)。


---ここからは1曲ずつ伺わせて下さい。

1. One for Bishop (music : Y.Hirado)
---ライナーノーツによると、平戸さんはあのウォルター・ビショップ・ジュニアの指導を受けたことがあるんですね!
ビショップさんへのオマージュですか?どのような思いを込めて作曲されたのでしょうか。
躍動感があり素敵な曲、アルバムの幕開けにぴったりだと思いました。


平戸:僕は、NYに渡り1993〜99年までニュースクールに留学してました。その時に師事していたのがウォルターなんです。彼は「自分のプレイだけではなく、周りの音を聞きなさい。そこから生まれるグルーブがたくさんあるから」と教えてくれました。
特にテクニックをひけらかすプレイが大嫌いでしたね(笑)。
ウォルターはあんなJAZZ GIANTSなのに本当に人間的にも暖かくて。人柄も本当に尊敬できる人だった。98年に亡くなった時はあまりにもショックで...ずっと彼に捧げる曲を作りたかった。実現できて本当に嬉しいんです。


2. Nica's Dream (music : H.Silver)
---ホレス・シルヴァーが、当時のジャズ界のパトロンだったニカ男爵夫人に捧げた曲。
哀愁に満ちたメロディーが美しく、カヴァーも多いですよね。


平戸:この曲はホレスの膨大な楽曲の中でもメロディーラインとコード進行が奇跡的に美しい名曲なんです。
それを表現するには相当かかりました。トリオとかだと比較的やりやすいんですけどね。
ラテンとスイングのリズムを行き来するので、そのリズムのニュアンスを出したり、微妙に変化する内声への対応...。
向き合えば向き合う程やりがいのある曲ですね。


3. In a gloomy mood (music : Y.Hirado)
---平戸さんのオリジナル曲。悲しげな曲調ですが、エンディングに希望が見えるような感じがしました。エピソードがあれば教えて頂けますか。


平戸:この曲は僕がNYに留学してた頃に遡るんですが、メロディーだけはモチーフがあってそれが野ざらしになってたのを引っ張ってきたというのが正しい解釈です(笑)。
コード進行作って、展開のメロディーパートも作って新たな生命を与える事ができましたね。
ワルツは基本的に大好き、楽曲はバップ時代の雰囲気はありませんが、バップを吸収した上での現代のジャズという立ち位置の曲だと僕が思ってます。


4. Cry me a river(music : Arthur Hamilton)
---復縁を願う恋人に「川のように泣くといい 自分だって沢山の涙を流してきた」と伝える歌詞で、ジュリー・ロンドンの歌唱でヒットした曲。切ない曲ですね。平戸さんの演奏の中には、切ない中に優しさも感じました。


平戸:そうなんです!ジュリーロンドンなんです。本当に大好きで...涙が出るほどジュリーのバージョンは美しい!!
で、いつかこの曲をやってみたいと幾度となくチャレンジするもののなかなか難曲で...やっとここまで僕も年を重ねてきてこの曲を少しずつだけど表現できるようになってきたくらいなものだと思います。
この曲は深いんです。とにかく深い。だからこの曲は僕が死ぬまで果敢に挑み続けるバラードだと思います。


5. 生まれたてのメロディ(music : Y.Hirado)
---平戸さんの1stソロ『Speak Own Words』ではbirdさんの歌唱がとても素敵な曲。
ソロピアノになるとまた違う味わいですね。
平戸さんはピアノで歌っているんだなあと感じました。


平戸:そう。この曲は前作で素晴らしいシンガーbirdさんが歌い上げてくれた僕のオリジナル。
前作でトリオ演奏プラス歌だったので、そこまで表現しなくて良かった内声の響き...これを重視したかったんです。
メロディーも前作よりもよりフェイクしたものにしました。
コード進行も若干アレンジしたりして前作と聞き比べても面白いと思います。


6. Body and Soul (music : Johnny Green)
---「身も心も」の邦題で有名なナンバー。バド・パウエルやセロニアス・モンク、ビル・エヴァンスなど多くのジャズメンが演奏してきた曲。コード進行が複雑だそうですね。
ライブではよく弾かれるのですか?


平戸:どんな編成のライブでもこの曲はやりますね。
コード進行は難しいです。だからこそ、ミュージシャンは果敢にこの名曲にチャレンジするんです。
しかもメロディーもとてつもないほど美しい。
この曲ではただのバラード演奏に終始せずにジャズピアノのスタイルでもあるストライドピアノも導入して演奏してみました。
気分は40年代まで遡ります(笑)。


7. Love for sale(music : Cole Porter)
---コール・ポーターの有名なナンバーで、街娼の心情を描いた曲。
コール・ポーターのメロディーはこの曲でも「Night and Day」などでも、ちょっととらえどころのない不思議なところに心惹かれますね。


平戸:そうなんです。コールポーターの曲は、楽しい曲かと思うと突然、奈落の底に突き落とされるみたいな...表現の起伏が激しい曲が多いですね。だからミュージシャンに限らず、ボーカリストもこぞって彼の名曲を取り上げるのもそこに理由があるかと思います。
僕は、この曲にチャレンジしようと思ったのは、やはりマイルスの「Somethin' Else」に残したバージョンを聞いてからです。
本当にトリップしそうな程、美しい曲ですよね。


8. Moments Notice(music : J.Coltrane)
---コルトレーンが唯一ブルーノートから出したアルバム『Blue Train』に収録のナンバー。アップテンポで緊迫感がありかっこいいですね!
以前のインタビューによると、平戸さんはマイルスをよく聴かれていたとのこと、他にもフェイバリットのジャズメンを教えて頂けますか?


平戸:この曲はmoments noticeというくらいですから、ボーッとしてたら次の小節には転調してる油断大敵な曲なんです。メロディーを聴いたら簡単て思うかもですが...このアルバムでは一番の難曲かもです。
コルトレーンの名曲ですが、難易度で言ったらGiant Stepsを凌ぐ曲だとも思います。
チャレンジしました。本当にチャレンジでした。

フェイバリットですか...たくさんいすぎて...Hank JonesやWayne Shorter,Lee Morgan等いっぱいいすぎで...Junior Manceもいいな。いっぱいいます(笑)。


9. Hope (music : Y.Hirado)
---平戸さんのオリジナル曲。
タイトルが素敵ですね。力強さ・優しさ・美しさ、平戸さんのピアノの魅力が凝縮された一曲だと感じました。


平戸:この曲はアルバムの中では完全に異質な曲ですね。ペダルもたくさん使ってます(笑)。
ただ、メロディの鋭角さ、現代のジャズにおけるコード進行のあり方の可能性などを追求したくてこの曲を作りました。
だから今後の僕の音楽表現に柔軟でありつつ、妥協しないで地道にやっていきたいという意味合いもこの曲に反映されてます。
この曲は作曲面では一番苦労した楽曲かもしれません。


10. Barry’s sketches (music : Y.Hirado)
---平戸さんのオリジナル曲。
バリー・ハリス氏へのオマージュでしょうか?リー・モーガンの『サイドワインダー』にも参加したバップ・ピアニストということしか知識がないのですが、バリー氏への想いや、この曲をアルバムの最後にもってきた想いなどをぜひお聞かせ下さい。


平戸:僕はNYにいた時、彼のライブ、またワークショップも受講してました。
そして昨夏、10年以上ぶりにNYに行くことができたんです!その時もバリーのワークショップ受けました!
彼の持つ本当に独特なハーモニー、フレーズ、本当に恋してるんです。バリーしか出せない音。深くて、温かみのある音。バップなんです。
バリーには本当にもっともっと長生きしてほしい。そして 僕たちにもっと聞かせてほしい。本当のバップを。そんな思いを曲にしたんです。なんか必然的に最後の曲にしたかったです。僕の思い描くルーツの人なので。


---ついに平戸さんのオフィシャルサイトがOPENしたそうでおめでとうございます。
http://yusukehirado.net/
とてもクールなデザインでかっこいいです!


平戸:そうでしょ!(笑)僕が上京してきた間もない頃からの友人でもありDJでもある横山龍助君が熱い情熱をもって作ってくれました。
僕のこともずっと見てきてくれてるんでサイト作る際もお互いのイメージの擦り寄せも早い事、早い事(笑)。
あと、僕は普段から着てるんですけど「Rare Drops」というブラックミュージックを題材にしたTシャツブランドを主宰してるんです。
彼の持つ世界観に共鳴、共感してるのもすごく大きいですね。お互いに尊敬してるというか...彼とはこれから僕の右腕として頑張ってもらいます(笑)。
あと、今回の『Voyage』のデザイン、アートワークは全て彼にやってもらいました!本当にいい仕事をしてくれます!


---平戸さんの、今後のご予定・展望など教えて頂けますか?
Kyoto Jazz Sextetと、ソロの両軸が基本になるのでしょうか。


平戸:今後はソロピアノもですが、いろいろと複数のプロジェクトを抱えてるのでそれを具現化させたいのと、Kyoto Jazz Sextetも沖野さんからお声がかかる限り精一杯頑張っていきたいと思います。
クオシの時と同じくJAZZをたくさんの人に聞いてほしいという願いは同じですね。


---ありがとうございました。次回のアルバムも本当に楽しみにしております。


平戸:ありがとうございます!
作り始めなきゃ(笑)






平戸祐介『Voyage』

1.One for Bishop (music : Y.Hirado)
2.Nica’s Dream (music : H.Silver)
3.In a gloomy mood (music : Y.Hirado)
4.Cry me a river(music : Arthur Hamilton)
5.生まれたてのメロディ(music : Y.Hirado)
6.Body and Soul (music : Johnny Green)
7.Love for sale(music : Cole Porter)
8.Moments Notice(music : J.Coltrane)
9.Hope (music : Y.Hirado)
10.Barry’s sketches (music : Y.Hirado)


発売日: 2015.04.15
価格 2,700円(税200円)
品番:APLS1506






平戸祐介 プロフィール:

長崎県生まれ。ジャズ喫茶を経営する父親とクラシック・ピアノの教師をする母親の間に生まれ、4歳の頃よりピアノを弾き始める。父親の所有する膨大なジャズ・レコードを聴きながら育ち、中学生の頃からジャズピアニストとして活動を開始。高校時代にはNYマンハッタン音楽院のサマー・ワーク・ショップでトップ・レベル・コンボに抜擢され、最優秀賞を獲得。高校卒業後渡米し、NYにあるニュースクール大学ジャズ科に進み、Walter Bishop Jr.に師事する。1995年にはRichard Davis (Bs), Winard Harper (Ds)と共演、ジャパン・ツアーで成功を収める。大学卒業後に帰国、上京し、quasimodeを結成。2012年には自身初となるソロ作品「Speak Own Words」をリリース。好評を博す。2015年2月をもってquasimodeが活動を休止、個人活動を充実させるべく、待望の2ndソロアルバム「Voyage」をリリース。


Yusuke Hirado Official Web Site
http://yusukehirado.net/

平戸祐介 公式facebookページ
https://www.facebook.com/yusukehirado.funpage

Twitter
https://twitter.com/hiradospree


FMレギュラー番組放送中!
「YUSUKE HIRADO Radio Mono Creation」
(FM長崎 毎週土曜 11:30〜11:55)
http://www.fmnagasaki.co.jp/


リットーミュージック Keyboard magazine監修
平戸祐介のゼロから始めるジャズピアノ〜 開講中!!
http://rittor-music.jp/keyboard/


★平戸さん参加のKYOTO JAZZ SETET特集記事公開中です。
平戸さんからコメントも頂いております。
http://www.cheerup777.com/kjs.html


最新Live information
(内容は変更になる場合もございますので、平戸さんの公式サイトで最新情報をご確認の上、ご予約下さい)


2015.05.06 (wed)
平戸祐介、待望のソロピアノアルバム"Voyage"リリース記念インストアイベント
@タワーレコード渋谷店 7F イベントスペース(東京)
詳細は下記にて。
http://tower.jp/store/kanto/Shibuya


2015.05.08 (fri)
@MOTION BLUE YOKOHAMA(神奈川)
Open: 18:00 / Start: 19:30
Charge: ¥3,000
TEL: 045-226-1919
http://www.motionblue.co.jp/artists/hirado_yusuke/


2015.05.09 (sat)
@大阪 Mr.Kelly's(大阪)
1st Start: 19:30 / 2nd Start: 21:15 ※2stages 入替無し
Charge: 前売¥3,240 / 当日¥3,500
TEL:06-6342-5821
http://www.misterkellys.co.jp/


2015.05.10 (sun)
@名古屋 Mr.kenny's(愛知)
Open: 18:00 / Start: 19:30
Charge: 前売¥3,000 / 当日¥3,500
TEL: 052-881-1555
http://www.mrkennys.com/


2015.05.16 (sat)
JAZZ LIVE vol.3 〜ジャズってかんたん!〜
平戸祐介トリオ@玉川区民会館ホール(東京)
Member:平戸祐介 (p) / 須長和広 (b) / 今泉総之輔 (ds)
https://www.setagaya.co.jp/kuminkaikan/tamagawa/event01/30


2015.05.17 (sun)
昼JAZZ
平戸祐介ソロ@本厚木CABIN(神奈川)
出演:平戸祐介 (p)
http://cabin.sgr.bz/


2015.05.25 (mon)
KYOTO JAZZ SEXTET「MISSION」Special Live2015 Guest 菊地成孔
@ビルボードライブ東京(東京)
KYOTO JAZZ SEXTET
・Guest: 菊地成孔
・Member: 沖野修也(SE/MC) / 類家心平(tp) / 栗原 健(ts) / 平戸祐介 (p) / 小泉P克人(b) / 藤井伸昭(ds)
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/


2015.05.27 (wed)
平戸祐介2@関内JAZZ IS(神奈川)
平戸祐介 (p) / 羽立光孝(b)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~jazz-is/


2015.06.21 (sun)
@玉川寺(山形)山形県鶴岡市羽黒町玉川35
Open: 開場 17:30 / Start: 18:00
Charge: 前売¥3,000円 / 当日¥3,500円
主催: Jazzharbor / 協力: TITTYTWISTER / 出店: Paradiso coffee



<Cheer Up! 関連リンク>
『Speak Own Words』インタビュー(2012年)
http://www.cheerup777.com/hirado.html




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