名古屋を中心に活動されているジャズピアニスト 平光広太郎さんが、トリオとしては初のアルバム『ザ・トリオ Vol.1』を発表した。これまでに平光広太郎クインテット"Straight line"として2枚のアルバムをリリース。そして、中村智由さん率いる人気JAZZユニット"native"のメンバーとして、様々なアーティストのサポートとしても幅広く活躍中だ。
そんな平光さんの魅力を堪能できるのが今回のアルバム。全6曲はすべてカバー。誰もが知っているようなナンバー中心に、軽快で心地良く、時にはメンバー3人のJAZZへの熱い想いが胸に迫ってきて、何度でも繰り返し聴きたくなる素敵なアルバムだ。
今回は平光さんにこのアルバムについてじっくり語って頂いた。(2017年11月)


---平光さんは2015年10月に平光広太郎クインテットStraight Lineとして、2ndアルバム『Waterfall』を発表されましたが、今回、初のピアノトリオでアルバムをリリースすることになった経緯を教えて頂けますか?

平光:元々ホレス・シルバーやハービー・ハンコック等、フロントがいる編成でアレンジを聞かせるタイプのピアニストが好きで、クインテットの活動をするのは自然な流れでした。
ただ、活動していく中で、周囲のお客さんからも、ピアノトリオを聞きたいというリクエストも増えて来て、同時に自分の中でも王道のピアノトリオは避けて通れないという思いから、昨年から一念発起して定期的な活動を始めました。

同時に音楽の好みも、繊細なハーモニーや、演奏中のメンバー間のやりとりを大切にするような方向性に興味ができて来て、今作のコンセプトにもつながっています。

Hampton HawesのTrio1-3、Bill Evansのリバーサイド4部作、Brad MehldauのArt of trio、Keith Jaretteのスタンダーズなど、先人の偉大なピアニストが残した名作のようなピアノトリオアルバムを目指しての第1作で、スタンダードを中心に名曲ぞろいの選曲になっています。

---メンバーの出宮寛之さん(b)、大森ひろさん(ds)はどんな方ですか?
お人柄や出会い、このトリオを組むことになった経緯などぜひ教えて頂きたいです。


平光:ベースの出宮は、8年くらいの付き合いになります。
彼は僕より1歳年下ですが、出会う以前から関西の方では若くして大活躍して、すでに様々なミュージシャンのサポートなどで全国を回っていました。出会った直後くらいに活動の拠点を名古屋に移して、それから長く演奏活動を共にしています。
プレイスタイルは堅実でストロングなベースラインを弾きつつも、型にはまらない感覚派です。ベーシストにありがちなジャズオタクな面があまりないのも良いところです。

ドラムの大森くんは、同い年で地元も最寄駅が同じくらい近いのですが、バークリー音楽院や、ニューヨーク、東京での活動を経て最近名古屋に拠点を移しました。出会ってまだ2年、と共演歴は長くありません。
演奏スタイルは独創的で繊細ですが、時には自由奔放に弾けたり、とても表現の幅がとても広いドラマーです。
ドラマーらしくリズミックな仕掛けを演奏中にたくさん繰り出して来くることもありますが、メロディーや、ハーモニー的にも寄り添って演奏してくれているのが一緒に演奏しているとよくわかります。今目指しているピアノトリオの要になるドラマーと確信して、すぐに彼をトリオに誘いました。

実はこのメンバーで初期のライブはお客さんがとても少なくて、僕自身はかなり落ち込んだのですが、そんな中でもピアノトリオの音楽性を気に入ってくれたのか、メンバーのほうから継続的にやろうと言ってくれました。その一言で、その気になりすぐにピアノトリオ年間計画表を作って、どうせやるなら僕の代表作になるようなピアノトリオをレコーディングするところまで行きたいと話しました。

---このアルバムで、コンサートホールを貸し切り、ホールならではの残響を生かした録音という形を選んだ経緯を教えて頂けますか?

平光:元々ライブ盤のようなオープンな雰囲気での録音をしたいというコンセプトがあり、当初はスタジオブースの扉を開放して録音することを考えていました。レコーディングエンジニアの方とから、「スタジオブースではなく、もっとオープンな場所で行った方が、このトリオの売りとなるであろう、若さ、フレッシュさ、ダイレクトさ、ハードさを演出できるのでは?」と提案していただきホールでの録音を決めました。

録音にあたり大きすぎずピアノが良さそうなホールを探しました。ホール探しでは調律師さんからアドバイスをいただきました。
名古屋市には各区に文化小劇場というキャパ300人前後の小ホールがあり、2年前にオープンしたばかりの瑞穂文化小劇場をお借りしました。このホールはカワイのEX-Lという最高級のピアノが置いてあり、しかもほぼ新品で状態もかなり良好でした。

---アルバムは、幅広い選曲のカバーですね。選曲の基準について教えて頂けますか?

平光:選曲はスタンダード中心というコンセプトでしたが、ジャズの範疇で表現できる曲ならなんでもアリです。
このアルバムのために選曲したというよりは、長年よく演奏していた曲からアルバムとして残しておきたいものをピックアップしたという感じです。

あまり凝ったアレンジはせず、メンバー間のやりとりを聴いていただけるような比較的シンプルな楽曲が多くなっています。

---今回は全曲カヴァーですが、このピアノトリオで平光さんのオリジナル曲も聴いてみたいですね。
平光さんがご参加のバンド"native"でも、アルバム『libration』の"je suis comme je suis"(平光さん作曲)がとても洒落ていて素敵でした。


平光:今回は収録しませんでしたが、ライブではたまに以前のバンドStraight lineで演奏していたオリジナル曲を演奏したりしています。


---ここからは1曲ずつお伺いします。

◆1.I wish I knew(Harry Warren)
---アメリカの人気作詞作曲家で多くのミュージカル音楽を手掛けたハリー・ウォーレンの曲で多くのジャズメンが取り上げていますね。甘く優しく心地良い演奏で、一気に平光さんとこのトリオの音楽世界に惹きこまれました。

平光:この曲の印象に残っているテイクといえば、トランペットのブルー・ミッチェルの『Blues Mood』に収録されています。またキース・ジャレットもスタンダーズトリオで、同じくこの曲から始まるコンサート映像があり、印象的です。またジョン・コルトレーンの『Ballad』ではバラードで演奏されています。
シンプルなメロディとコード進行ながら、どこか哀愁の漂う雰囲気が今回のピアノトリオにぴったりと思い選曲しました。

◆2.Alone together(Howard Dietz/Arther Schwarz)
---1932年のミュージカル「フライングカラーズ」の中の曲。こちらも多くのジャズメンに取り上げられているスタンダード。
夜にしみじみと一人で聴きたくなります。皆さんのソロそれぞれが凄いです。


平光:セッションでもよく演奏される定番曲ですが、実は小節数が普通の曲より少し半端だったり、Dm(短調)で始まったと思いきやDメジャー(長調)になったり、案外侮れない曲です。さらにアレンジを加えてトリッキーな雰囲気に仕上げました。
静かなイントロから始まりますが、それぞれのソロが白熱し10分を超える大作になってしまいました。

◆3.I love you(Cole Porter)
---ミュージカルや映画音楽で数多くの名曲を残したコール・ポーターの曲はいいメロディばかり。
ちょっと可愛らしさもある軽妙なアレンジが心地良いですね!


平光:この曲のアレンジは意図があって、タイトル通りLove(愛)がテーマで、人と人とが出会って恋に落ちる様子を表現しています。
軽快なラテン風のリズムに耳が行きがちかと思いますが、実は全編にわたり細かく転調を繰り返して、最後はいつのまにかFからAbメジャーになっています。ぱっと聞いただけではリスナーの方にはあまり気づかれないのではないでしょうか?
出会って意気投合して、いつのまにか恋をしているという流れを転調とリズムの変化で表現しているつもりです。
われながらうまくいったアレンジだと思っているのですが、MCでこの話をするときいつも照れ臭くてまともに話せないのが欠点です。

◆4.Helen's song(George Cables)
---平光さんが敬愛するジャズピアニスト、ジョージ・ケーブルスの曲。アート・ブレイキー、アート・ペッパー、デクスター・ゴードン、ソニー・ロリンズなどと共演してきた方ですね。
どういうきっかけでジョージ・ケーブルスを好きになったのですか?


平光:この曲との最初の出会いは大学生のとき、ジャズ研の後輩がライブで演奏したいと持って来たのがきっかけでした。美しいコード進行で、ピアニストにとっては弾きごたえのある曲ですぐに僕のお気に入りの曲となりました。

その後、しばらくたってからシアトルのジャズワークショップに参加する機会があり、そこで偶然ジョージ・ケーブルスさん本人が講師として来ていました。
1週間のプログラムで、キャンプ場のような場所で授業があり、1日の最後には必ず講師陣のコンサートが行われるというジャズ漬の日々でした。
そのコンサートでこの曲をご本人が演奏されており、美しいピアノにとても感激しました。それ以来とても好きなピアニストの一人となりました。

◆5.Monk's Dream(Thelonious Monk)
---巨匠セロニアス・モンクの名曲。原曲とは一味違うアレンジ、最後のほう急にアップテンポになったりして楽しく聴きました。
お三方のソロも聴き応えありますね。


平光:この曲、実は全くアレンジしていないんです。
録音秘話がありまして、1テイク目でOKテイクが録れたのですが、せっかくだから思いっきり遊びながらもう一回やってみようということで、半ば捨て身の覚悟で演奏した2テイク目のほうが結局OKテイクになり収録されています。

その場で全員が遊び切った結果ですね。急にアップテンポになったりしたところも実は演奏しながらかなりドキドキでした。
原曲とは一味違うアレンジ、と感じて頂けたのはとても嬉しいです。

◆6.A song for you(Leon Russell)
---「スーパースター」「マスカレード」などのヒット曲で知られ、惜しくも2016年逝去したシンガーソングライター、レオン・ラッセルの曲。カーペンターズを筆頭に多くのアーティストがカバーしていますね。
想いのこもった演奏にグッときます。アルバムの締めくくりにこの曲をもってきたのは?


平光:この曲は様々な方がカバーしていることでも有名ですが、ジャズバンドではWoody Herman Orchestraがカバーしていて、学生時代に所属していたビッグバンドでそのアレンジで頻繁に演奏していたことがありました。僕にとってはジャズを始めた頃を思い出せる青春の1曲です。どこか悲しさや寂しさを感じる曲調ですが、最後はアルバムの締めくくりとして明るくなるエンディングを付け足しました。


---ここからはぜひ、平光さんのプライベートについてもお伺いしたいです。
まず、学生時代よく聴いていた音楽、ジャンルなどを教えて頂けますか?


平光:中学、高校生までは普通にテレビで流れるJpop等を。大学生になってからは、ジャズにすっかりハマってしまって、ジャズばかり聴いていました。

---最近の気分転換方法についてはいかがですか?

平光:近くに広い池があって、遊歩道を散歩します。

---このWEBマガジン恒例の質問です。
平光さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?


平光:とにかく誰かの演奏を聴くということでしょうか。
CDやYoutubeでもいいんですが、僕の場合はやはり生演奏、しかも身近なミュージシャンの演奏を聴くのが好きです。
僕と同じように名古屋を拠点に活動するミュージシャンは沢山いるんですが、同じ境遇の仲間が素晴らしい演奏をしているとやはり気合いが入りますね。

---今後の展望やどんなアルバムを出したいか?など教えて頂けますか?

平光:Vol.1とある通り、続編を考えています。とりあえずVol.3くらいまではやりたいことがあって、少しずつ考えています。
どこまで続けられるかわかりませんが、自分の活動の軸となるライフワークとして地道にやっていきたいと思っています。

---どうもありがとうございました。早くも、このピアノトリオのアルバム、Vol.2が待ち遠しいです。




『ザ・トリオ Vol.1』平光広太郎

1. I wish I knew
2. Alone together
3. I love you
4. Helen's song
5. Monk's Dream
6. A song for you

規格番号:FOJ0001
発売日:2017年10月11日
レーベル:FOJ Records

平光広太郎/ ピアノ
出宮寛之/ ベース
大森ひろ/ ドラム

【Credits】
Produced by Kotaro Hiramitsu
Recording at Nagoya City Mizuho Playhouse 27, 28. April 2017











◆平光広太郎 プロフィール:

愛知県愛知郡東郷町出身。
幼少のころよりクラシックピアノを始め、岐阜大学New Stars Jazz Orchestra、Liebe Parzeに所属したことをきっかけにジャズピアノに転向する。水野修平氏に師事。
2009年から本格的に演奏活動を開始。『金沢ジャズストリート2012コンペティション』にてグランプリを受賞。
韓国仁川プラットフォームジャズデイ、中国南京国際ジャズフェスティバル等、海外での演奏経験を持つ。
また近年、ジャズオルガニストとしても活動し、演奏の幅を広げている。
これまでに自己のグループを率い2枚のCDをリリース。
その他にも様々なミュージシャンのサポートやセッション等、名古屋を中心に活動を続けている。色彩豊かな力強い音色と繊細なフレージングには定評がある。
2015年より名古屋のジャズフェスティバルJazz Connection in NAGOYAを主催。実行委員を務める。2017年10月には自身初のピアノトリオアルバム”The Trio Vol.1”をリリース。

岡崎ジャズストリート、横濱ジャズプロムナード、金沢ジャズストリート、四日市ジャズフェスティバル、NAGOYA GROOVIN’ SUMMER、豊田ジャズスクエア、名古屋ジャズストリート等、全国各地のジャズフェスティバルに多数参加。


平光広太郎 Official WebSite
http://hiramitsukotaro.com/

Twitter
https://twitter.com/hiramitsukotaro


♪最新Liveインフォーメーション

※最新情報、詳細は平光さんのWEBのスケジュールページからご確認をお願い致します。 http://hiramitsukotaro.com/schedule/

2017年11月7日(火)
新栄Swing(名古屋)
川鰭裕子(vo) 北川弘幸(b) 猿渡泰幸(d) 平光広太郎(p)

2017年11月8日(水)
新栄Swing(名古屋)
今井有紀(vo) 福永幸治(ts) 北川弘幸(b) 浅井翔太(d) 平光広太郎(p)

2017年11月11日(土)
津ぅどまんなかジャズ(三重県津市大門)
★平光広太郎(p)トリオ 出宮寛之(b) 大森ひろ(d)
http://tsujazz.com/

2017年11月12日(日)
岡崎SA
★平光広太郎(p)トリオ 出宮寛之(b) 大森ひろ(d)

2017年11月18日(土)
岡崎イオン(愛知県岡崎市)
★平光広太郎(p)カルテット 早川ふみ(as) 島田剛(b) 浅井翔太(d)

2017年11月18日(土)
穂積市カンポドゥロ
山田雄二(ts)カルテット マッキー(b) 田中良明(d) 平光広太郎(p)

2017年11月19日(日)
大垣日本昭和音楽村(岐阜県大垣市)
水嶺湖ジャズフェスティバル
宮本京子(vo) 谷井直人(b) 猿渡泰幸(d) 平光広太郎(p)

2017年11月21日(火)
栄錦マイルス(名古屋)
土方真知子(vo) 平光広太郎(p)

2017年11月22日(水)
新栄Swing(名古屋)
宮坂俊行(vo) 平光広太郎(p) 出宮寛之(b) 海野俊輔(d)

2017年11月23日(木)
豊田キーボード(愛知県豊田市)
★平光広太郎(p)トリオ 出宮寛之(b) 大森ひろ(d)

2017年11月24日(金)
今池imago(名古屋)
服部莉佳(as)クインテット

2017年11月25日(土)
吉良たらそ(愛知県西尾市)
JK(d) 谷井直人(b) 平光広太郎(p)

2017年11月29日(水)
栄錦マイルス(名古屋)
塚本奈加(vo) 平光広太郎(p)

2017年11月30日(木)
吉祥寺Strings(東京都武蔵野市)
★加納奈実(alto sax)&平光広太郎(piano)トリオ 出宮寛之(bass) 大森ひろ(drums)

2017年12月1日(金)
覚王山Star eyes(名古屋)
★加納奈実(alto sax)&平光広太郎(piano)トリオ 出宮寛之(bass) 大森ひろ(drums)


<Cheer Up!関連リンク>

native『liberation』インタビュー(2014年)
http://www.cheerup777.com/native.html




(C)2009-2017 Cheer Up! Project All rights reserved.