数々のバンドでドラマーとして長く活躍している溝渕ケンイチロウさん。2010年からは11台ドラムバンドというユニークな形態のバンド"DQS"のリーダーとしても活動中だ。 2011年からはシンガーソングライターとしてソロ活動をスタートさせており、今年4月にアルバム『foundation』をリリースした。 このアルバムに収録された6曲、味わいが深く聴くほどに心に沁みてくる名曲揃い。 公式サイトには多彩なミュージシャンからズラリとコメントが並んでいるが、皆さんこのアルバムについて語りたくなるそのお気持ちに思わず共感しまくってしまうアルバムなのだ。今回は、このアルバム『foundation』について溝渕さんにたっぷりお伺いした。(2017年6月) ---ドラマーとして長年活躍されている溝渕さん。2011年からはシンガーソングライターとしてソロ活動をスタートさせたわけですが、ソロで歌おうと思ったきっかけを教えて頂けますか。 溝渕:40歳になった時に「今まで自分がやってないこと」をやろうと思い立ち、それが弾き語りだったんです。 僕は自分らで曲を作って、自分らで演奏をする自作自演側のミュージシャンなので、ドラマーの使命やロマンを追い求められるDQSみたいなバンドをやっちゃうと、僕が特殊なのかもしれませんが、あとは真逆の表現方法であるアコギの弾き語りへ目が向いちゃうんですよね。 ずっと曲は作って来ましたが、実際にそれを自分が歌うことをしていなかったので、奥底で消化不良を起こし続けていたのかもしれません。 ---2015年に故郷の広島県福山市に拠点を移し、新レーベル『BINGO LAB』を立ち上げたとのこと。 このレーベルではご自身の音源の他にも地元のアーティストのリリースを考えていらっしゃるのでしょうか? 今後どんなレーベルに展開していきたいとお考えか教えて頂けますか? 溝渕:自分の音源はもちろんですが、福山を軸とした備後地方(びんごちほう)のミュージシャン達をピックアップしたいですね。バンドと言うよりはSSWが中心になると思います。 ゆくゆくは音楽を中心にカルチャー全般を!と言う思いはあります。衣食住音が「BINGO LAB」の理念なので。 ---声がとてもきれいで、矢部浩志さんのコメント「声がもうズルいです」に「まさに!」と共感しました。以前にもバンドで歌っていた時期などあるのですか? 溝渕:矢部さんはそう言ってくれてますが、自分では自分の声はそんなに好きじゃないですよ(笑)。おそらく、皆さん、そうだと思います。 それはそれは大昔、20歳前後の頃に歌ってたけど、今思えば、お遊びですよね(笑)。 20代の頃にセロファンのアルバムで1曲歌った曲があるんですが、ガムを噛みながらタバコ(タバコは30で止めました)を吸いながら歌録りをしました。 いまそんな舐めた若造を見かけたら間違いなく殴ります(笑)。 それが高価な機材で溢れ、お金がたくさんある時代のメジャーレコード会社のレコーディング現場での出来事ですから、今思えば、その頃の事を土下座して謝りたいです(笑)。 ---曲作りはどのようにされているのですか? 曲ができるのに時間はかかるほうでしょうか? 溝渕:今現在の曲作りはアコースティックギターでシンプルにやっています。 なんせ、弾き語りライブは声とアコースティックギターしか居ないので、それ以上のモノは必要ありません(笑)。 曲作りで難航してしまう曲って、寝かそうが何をしようが(リズムを変えてみたり)結局は難航します。 なので、お蔵入りの曲はめちゃくちゃ多いですよ。 早い曲だけをすくい上げてる感じですかね。早いと、コードからメロから構成から歌詞まで丸1日で出来ます。 でも、その後も歌詞は何度も微調整が入りますね。なんだったら、人前で歌い始めて半年ぐらい経過した曲でも歌詞は動きます。あっ、メロは何年経とうがずっと動いてますが(笑)。 ---今回のアルバムは、大事に聴きたくなる、あったかい気持ちになる曲ばかり。 「キミ」という言葉が歌詞に出てくると、なんとなく恋愛のことをイメージしがちですが、このアルバムについてはそれだけじゃない。リスナーだったり、溝渕さんの大事な友達や仲間だったりするのだろうなぁと思い、博愛のようなものも感じました。 溝渕:汲みとって頂けて嬉しいです。その通りなんです。ある特定のキミではないですね。博愛と言われると逆にすいませんて感じですけど(笑)。 ちっぽけながら、万物に対する敬愛の念はちゃんと抱いています。サイズ感の大小はあれど、ちゃんとメッセージを贈りたいんです。サインとも言えます。 なので、派手な曲も作れますし、大げさな歌詞も書けますが、それをソロ作品でやる必要を全く感じてないです。 今後、何かの間違いで鬼バブリーになり、作風がEXILEみたいになったら、その時はその時です。 ---アルバムタイトル『foundation』に込めた想いや意味を伺うのは野暮なんだろうなあと思わせられますが、このアルバムは溝渕さんの音楽人生において記念というか大きな意味を持つアルバムなのだろうと感じました。そのあたりはいかがでしょうか。 溝渕:結果として、今まで自分が組んできたバンドのメンバーに参加して貰い、自分のキャリアを繋いだ作品になりました。 なかなかこういう事をやれる人は居ないと思いますし、こう書くとなんともコンセプチュアルな1枚ですよね。 でも、作業を始めた段階(プリプロ段階)ではコンセプトはブレていたんです。参加して貰いたいミュージシャンは他にも居たりしました。 この作品に仲間たちからコメントを寄せて貰ったんですが、その中にたくさん居ますよ、参加して貰おうと思っていたミュージシャン達は(笑)。コメントと言う形ですが、僕的には一緒に1枚を作った気分はあります。 プリプロ開始から数えると1年を費やして完成したことになるので牛歩ですよね。作業を中断して、気分転換に3曲入りの音源を作ったりしましたし。アルバム制作の気分転換がシングル制作ってどうかしてます(笑)。 たまたまですが、カスタネッツを脱退する時期と、ソロアルバムのリリース時期が重なってしまいました。そういう意味ではゴールとスタート?スタートとゴール?が同時に来た感じです。 ---「惑星ハロー」を聴いて、個人的に人間関係に悩みがち、人との距離感がうまくとれないこともよくあるので、かなりぐっときました。 溝渕さんは兄貴的イメージで、仲間の悩み相談にものりそうな感じがしますが、そういう話題から歌詞ができることもあるのでしょうか? 溝渕:ちゃんと聴いて頂けて嬉しいです。僕らの本質は、まさに惑星ハローで歌ってることだと思います。それ以上でもなく、それ以下でもないと思いますので、共に、地道を進みましょう。って、なんか宗教の文言臭いですね、すいません。 『foundation』に入ってる6曲は全部がシンプルライフの経典になり得ると思っています。 兄貴的イメージですか?それはあくまでイメージだと思います(笑)。小さい男ですよ。でも、相談される事は多いですし、みんなの動向が気になったりもします。 一見、話しにくそうに思われるんですが、実際に話すと意外にフレンドリーなんです(笑)。 年齢や性別は違えど、悩んでいる内容に大差は無いんですよね。実際、僕もそのような事で悩んでいたりしますし。アドバイスを出してあげたり、ただただ話を聞いてあげたり。そんな事柄に対してのアンサーソングだったりします、ここに入ってる6曲は。 ---6曲のサウンドはプリズムのように色を変えてカラフルと感じます。 溝渕さんとご縁の深い多くのミュージシャンが参加しており、福山市と東京でファイルのやり取りをして制作されたそうですね。そういった中で心に残っているエピソードなど教えて頂けますか。 溝渕:今作もそうですし、2年前に作ったDQSのアルバムもそうですが、とにかく1枚を通してカラフルで、時に高速で、時に緩やかに。そんなメリーゴーランドに乗っているような、コラージュのようなアルバムを創りたいと常々思っています。 40代も後半に入り、判ったことがあります。 そう創りたいって言うか、それしか創れないってことです(笑)。 僕は根っからカラフルでキャッチーなタイプなんだろうなって思わざるを得ません。 1枚を通してモノクロな作品なんて凄く憧れますが、僕には多分創れないんだと思います。 それは楽曲そのものだったり、フレーズであったり、音色であったり。密度の濃い場所と風通しのいい場所のバランスであったり。 今まで一緒にバンドをやって来てるメンバー達ですからね、僕の落とし所を熟知してくれています。好みも解ってくれています。こういうフレーズを送ると僕がどう言うか?そんな事まで想定済みでファイルを送ってくれてたんだと思います。 エピソードで言うなら、やっぱり人によってファイルの状態がバラバラって事ですね(笑)。 ファイルの品質のいい人も居れば、悪い人も居る。録音レベルの差も5倍ぐらいの差があったり。 レコーディングスタジオに一同に介して録った訳じゃないので、最終的にはMix作業でカタをつけざるを得ません。通常のレコーディングよりも、Mixとマスタリングの比重が大きかったと実感しています。 エンジニアに頼む事も考えましたが、みんなの意志をまとめるのは自分しか居ないと思ったので、両方とも自分でやりました。もちろん、Mixもマスタリングも勉強中ですが。 ---「新しい今日」まで6曲通して聴くと、声高ではないけれどさりげなく溝渕さんに励まされているような、そんな優しい気持ちになれるアルバムと感じました。 溝渕:ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。 先の設問でもお答えしましたが、おごった意味合いではなく、メッセージを贈りたいと思っています。声高でもなく、派手でもなく。 僕らの日常は実に地味じゃないですか?普段の朝ごはんみたいな音楽でいいと思うんですよね、僕が創る音楽は。 昨夜は激しい雷雨だったんですが、今はスッキリと嵐一過です。窓を開けてこれを書いています。それだけで十分に晴れやかです。そんな日常を、野暮ったくなり過ぎずに音楽にしていきたいですね。 ---溝渕さんには、2012年にCheer Up!に読み応えがズシッとくるコラムをご寄稿頂きました。 "Cheer Up!コラム「タイム感」" http://www.cheerup777.com/column2.html その後も登山の機会は多いのでしょうか? また、最近のご趣味についても教えて頂けますか。 溝渕:これを機にコラムを再読しましたが、なかなかいい事を書いていてビックリです(笑)。 登山は今もしてますよー。ただ、瀬戸内には高い山が無いので、登山スタイルは変わりました。 趣味は相変わらず登山なんですが、これだけ海と島が多い土地なので、船に興味が湧いていますね。船舶免許を取って小型のプレジャーボートを買いたいなって(笑)。車はもう軽とかでいいので、その分を船に回してみるのも、人生の楽しみが増えるのかなって。 現実的に考えたらまずはシーカヤックですかね。これは近いうちに手を出すと思います(笑)。 カヤックで無人島に渡り、そこの山を登る。魚や蛇を捕まえて食べる。ロマンですね。 ---このWEBマガジン恒例の質問です。 溝渕さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか? 溝渕:間違いなく山下達郎さんの「新(ネオ)・東京ラプソディー」です。1988年リリースの『僕の中の少年』と言うアルバムの1曲目に入っている曲です。 朝、起きて。車のエンジンをかけて。色んな場面で軽快です。 そして、このアルバムは僕のバイブルでもあります。 『僕の中の少年』山下達郎 ---溝渕さんご自身の今後の展望や夢について教えて頂けますか? 溝渕:展望はぼんやりとありますが、今はまだ、その「ぼんやり」の要素を増やしている段階なんだと言い聞かせています。 夢をこの歳で聞かれた事が無かったのでビックリしてます(笑)。そうですね、ヒマラヤとヨーロッパアルプス、この両方は、せめて一度でいいので登りたいです。 夢と言うか、これはその気になれば実現可能なので夢ではないのかな?! あとはやっぱり、音楽家として天寿をまっとうしたいです。元ミュージシャンて言う死に方は嫌ですね。 でも、これも自分次第ですよね。結局は全て自分次第です(笑)。 ---どうもありがとうございました。いつも傍らにそっと置いておきたくなるアルバム『foundation』、多くの方に聴いて頂きたいですし、私も大事に聴いていきます。 『foundation』溝渕ケンイチロウ 1. one journey 2. 雨音テンダネス 3. 惑星ハロー 4. ROCKET 5. 夕凪 6. 新しい今日 発売日:2017.4.15 税抜価格:2,000円 発売元:BINGO LAB / フレイヴァー・オブ・サウンド (※Amazon / ライブ会場限定販売) Amazonでの購入はこちら⇒https://goo.gl/5D1C4Q ◆溝渕ケンイチロウ プロフィール:
ドラマー / シンガーソングライター 溝渕ケンイチロウ Official Web Site https://mizobuchikenichiro.jimdo.com DQS http://dqsdrums.com https://twitter.com/kenichiro_info https://www.instagram.com/alpinerocker ♪最新Liveインフォーメーション 次のライブは決まっていませんが、随時、SNSやWEBでお知らせ致します! <Cheer Up!関連リンク> Cheer Up!コラム 「タイム感」溝渕ケンイチロウ(2012年) http://www.cheerup777.com/column2.html |