native、BLACKQP'67、Tomoyoshi Nakamura quartetなど様々なリーダーバンドを作ってきたサックス奏者の中村智由さん。この度、新しいユニットtrio de monochrome(トリオ・デ・モノクローム)を結成し、初のアルバム『残像 -après l’image-』 を発表しました。
以前のインタビューで「伝統的でオーソドックスなスタイルを現代にマッチした形で表現していこうというスタンス」と仰っていた中村さん。今回の音楽は美しさが際立っており、中村さんが新しいことを始められたんだ!と嬉しくなりました。
ユニット結成のいきさつや、このアルバムに収録された曲たちについて詳しくお伺いしました。また、伊藤寛哲さん、谷井直人さんからもコメントを頂きました。(2019年10月)

<中村智由インタビュー>   <メンバーコメント>


---trio de monochrome結成のいきさつについて教えて頂けますか?メンバーは伊藤寛哲さん(guitar)、谷井直人さん(bass)。お二人との出会いやお人柄などご紹介頂けたら嬉しいです。

中村:nativeの活動がメインになった2002、3年くらいから、ジャズライブハウスやジャズバーでの演奏活動からイベントライブ中心の活動になりました。クラブジャズのブームにも乗って、イベント出演のオファーもたくさん頂いて全国各地でたくさんの人の前で演奏する機会を頂きました。
10年くらいそんな風に活動できていたのですが、4、5年くらい前からシーンの変化や世代交代で自分の音楽スタイルにマッチするイベントが徐々に減ってきたこともあり、自分自身の今後の活動について考えるようになりました。
ジャズライブハウスで演奏していない間もずっとジャズ愛は深かったので、遠ざかっていたリアルなジャズシーンに復帰できたらと地元名古屋で活躍中のベーシスト谷井君に相談、セッションしたいと言ったら連れてきたのがギター伊藤君でした。

谷井君は、ウッドベースを最初に師事したのがnative大久保さんということもあってnativeのライブにも来てくれたこともあり、見た目は一見硬派に見えますが、見た目と裏腹にとても優しく気さくで、話しやすく、一度離れると入って行きづらいジャズコミュニティの中で一番声かけやすい存在でした。
堅実なビートを刻む頼れるベーシストです。

伊藤君は、紹介してもらった時、バークリー留学、オランダ音楽留学を経て、日本での活動の地固めをしているところで、専門教育を受けた豊富なアカデミックな知識、日本人離れした188センチの好体格からのダイナミックな演奏技術と、対照的でもある繊細でセンシティブな感受性を合わせもつ、まさに新世代のミュージシャンという感じでした。
自分の目指す音楽性がクリアにイメージできている素晴らしいミュージシャンです。

最初に三人でセッションして、一発でそのサウンドが気に入って、バンド結成することにしました。

---今回ドラマーはいないのですね。バックトラックは中村さんご自身で打ち込みされているとのこと。
このような形態にした経緯についてはいかがですか?


中村:3人でライブを始めた最初の頃は、バックトラックは使用せず、バンド名のイメージ通り、空間系叙情的サウンドを志向していました。
即興性やメロディックな部分を突き通していくのは演奏者としては楽しいのですが、難解な部分も出てきてしまうので、自分が今まで出演していたイベントやライブ会場で演奏するにはミスマッチなところもあり、そのギャップを埋める手段としてトラックを使用することにしました。

これまで自分が結成したユニットは、アコースティックなサウンドにこだわってきたので打ち込みの作業もしたこともなく、これまでのこだわりを捨てるというところで決心もありましたが、新しい試みとして挑戦することにしました。

---ライブでは打ち込みを流して再現なさるのですか?

中村:現在まだちゃんとした活動拠点が定まっておらず、ジャズライブハウスで演奏したり、イベントで演奏したり、その時々によってアコースティックのみでジャズ色を強くしたり、打ち込みトラックを使ったりと、その都度ごとに形態を変更してライブを行なっています。
アルバムリリースをきっかけにオリジナルを演奏する機会が増えて、ただトラックを使うだけでなくサポートを入れたりして、よりライブの臨場感が出る演奏もできるといいなと思っています。

---"trio de monochrome"(トリオ・デ・モノクローム)という名前にした経緯・由来を教えて頂けますか?

中村:自分が好きなのは元々ミニマムサウンドで、nativeのアルバムも初期のアルバムほどオーガニックで繊細なサウンドになっています。
そんな自分自身の原点に立ち返ってシンプルでエモーショナルな音楽をやりたいと思い、ちょうど始めた写真撮影ともリンクして、一見無機質であるけれど趣き深いモノクロ写真のようなバンドにしたいという意味でこの名前をつけました。

---レコーディング期間はどのぐらいかかったのですか?とても音質がいいですよね。何かこだわりなどもあればぜひ教えて下さい。

中村:3人でのレコーディングは、2日間でほとんどの曲を同時録音しています。
録音に至るまで1年くらい月一ペースでリハーサルを重ねて、ベストな状態で録音に臨むことができました。
3人での録音終了後、バックトラック制作とミックスを今回自分で全部やっていて、ジャズ特有のリアルタイムの演奏感が失われないトラックメイキングができたと思っています。


---ここからは一曲ずつお伺いします。

◆1 残像 (après l'image )
---寂しくて効果音が硬質で・・・今までの中村さんの音楽とかなり違う!と驚いた1曲目。
聴き進めるにつれ次々印象が変わって流れていくような、不思議な曲と感じます。


中村:この曲は五拍子の曲で、これまで奇数拍子の曲をやる機会がなかったのですが、コンテンポラリージャズの楽曲に変拍子も多く最近の若手はそういう楽曲もなんなくこなしたり羨ましかったりして、自分も挑戦したいなというところでとりあえず五拍子からということで作ってみました。
ポリリズム的要素は少なくビートは一定なので変拍子の曲というより現代版テイクファイブという感じですが、コード進行と打ち込みが無機的でクールな雰囲気で演奏は徐々にテンションが上がっていくという面白い展開の曲になりました。
テンションが上がっていく過程でオルガンだったりさりげなく音も重ねてみました。

◆2 nostalgia’08
---情緒的なサックスのメロディー、硬質なオルガン。08とは2008年のことでしょうか。意味深な何かを感じながら聴き入ってしまいます。

中村:この曲は、この編成でやろうと思ってからすぐにできた曲です。
根が暗いのか少し淋しかったり、切ない気持ちになるsad songが好きで、この曲もそんな気持ちになる曲。
2008年は、nativeでいろんな所でツアー演奏した時期。本当に楽しかった時期ですが、体力的にも精神的にも辛さもあり、いろいろな思いが詰まった2008年を懐かしく思って作った少し切ない曲です。

◆3 minimal quest
---幾何学模様のようなゲームのような、SEも面白い曲。だんだんtrio de monochromeの世界に魅了されていきますね。

中村:ミニマムな編成での曲作りをしているとどうしても内向的な方向に向かってしまいがちで、ちょっと趣向を変えてループフレーズをモチーフにその組み合わせで曲を完成させていくミニマルミュージックの作曲方法を取り入れ作りました。
キャッチーなメロディラインを乗せて聴きやすい曲に仕上げました。

◆4 hope
---この曲は打ち込みがなく3人のみで演奏されているのですね。ギターが美しくてベースとの相性も抜群。サックスが途中から静かに加わってうっとりします。是非ライブで聴いてみたい曲。

中村:この曲は、唯一カバー曲でスウェーデンのピアニスト ラーシュヤンソンの曲。
お洒落で洗練された北欧ジャズが好きで、とても影響を受けています。
大好きな北欧ジャズを代表するピアニスト ラーシュヤンソンの曲のカバー。ピアノレスのこのバンドでの演奏はオリジナルとは違った空間的なバラードで、曲の良さを生かしつつtrio de monochrome の叙情的な演奏を楽しんでいただけると思います。

◆5 night cruise
---以前のインタビューで中村さんは、「詞や言葉で表現しないのでタイトルは完成した曲想から後付けにすることが多い」と答えて下さいましたが、この曲はいかがですか?
SEが海っぽくて軽快なナイトクルーズの気分に浸って聴いてます。本当に楽しい曲ですね。パーカッションも心地良いですがこれも打ち込みでしょうか。生音のような感じがしますね。


中村:この曲は、東京湾をクルーズする演奏をした時に作った曲で、珍しく先にタイトルが決まっていました。
波や船の汽笛のSEの音でナイトクルーズのイメージをクリアにしています。
テーマが決まっていたので、SEの音もすぐに決めることができました。
浮遊感のある曲にしたくて、リズムも強すぎず心地いい感じにしたくコンガを入れたのですが、生音のサンプリングなので打ち込みっぽさがなくオーガニックな感じが出せました。

◆6 イツカノ灯火
---凝ったタイトルからどんな曲なのかな?と聴いてみるとアップテンポで、ちょっと寂し気な曲調。お洒落で好きです。

中村:この曲は、自分のこれまでやってきたユニットでもお馴染みのジャズサンバ風の曲。
自分の中では情熱的なサビのメロディーが気に入っていて、最後にサビ三回繰り返しで徐々に盛り上がっていくのが好きで、タイトルよりは熱いイメージかもしれません。
日本語でカタカナも使ったタイトルでポップな感じを表現しました。

◆7 tamayura 〜玉響〜
---SEが面白いですね。和のタイトルからまたイメージがふくらみます。

中村:この曲は、一番コンテンポラリーな曲調で、変拍子、ポリリズムを駆使して曲を作ってみました。
伝統的なジャズ要素はないですが、コンポーザーとして面白い曲ができたと思っています。
メンバー二人も変拍子、ポリリズムに強く、難しい曲になりましたがレコーディングも心強かったです。

◆8 gentle silence
---ゆったり優しくあったかい気持ちになれる曲。ベースソロ、そして続くギターソロも印象的。谷井さん、伊藤さんをフィーチャーしていますね。
伊藤寛哲さんは5人組コンテンポラリージャズバンド「QUIN' KRANTZ」(クインクランツ)でもインタビューさせて頂きましたが、このバンドでは伊藤さんのまた一味違った魅力を味わえます。


中村:この曲は、伊藤君のリリカルなソロがとても良くて聴かせどころだと思っています!
クインクランツは、コンテンポラリーでエキサイティングな曲が多いですが、こういうしっとりしたバラードにも彼のギターは合います。
谷井君のベースソロもフィーチャーしていて、芯のあるベースの音を是非聴いて欲しいです!

◆9 pupil
---アップテンポで情熱的。pupilの意味は?何かほとばしるものを感じる曲で、とても好きです。

中村:pupilの意味は、「ひとみ」いう意味です。情熱的な瞳をイメージして作りました!
熱いものを感じて頂けたら嬉しいです!

◆10 monochrome
---アルバム全体、そしてこの曲のタイトル。バンドの名前にもある、モノクローム。深い意味が込められているのでしょうね。

中村:この曲は、打ち込みを使わず本当ストレートな演奏だけで聴かせる曲で、そういった意味での色のないモノクロームというタイトルです。
全体には電子音も入る次世代的なサウンドのアルバムになったのですが、根本にアコースティックジャズを愛する気持ちもあるので、シンプルに打ち込みを使わない3人だけの生演奏の楽曲でアルバムのクロージングにしました。

---聴いていて心落ち着くアルバムという印象を持ちました。夜に一日の疲れを忘れて音に身を委ねたくなります。リスナーには「こんな感じで聴いてもらえたら嬉しい」などありますか?

中村:このアルバムは、自分の好きな感じというのを最優先に制作しました。
性格的なこともあると思いますが、ガンガン押しが強いサウンドより落ち着いたサウンドが好きなので、結果的にチルアウトな感じに仕上がりました。
時代的には、配信で一曲単位で音楽を聴く人も増えていると思いますが、アルバム通して抑制感のある一定のテンション、繊細なストーリーを感じていただけたら嬉しいです。

---中村さんは映画が大変お好きだそうで、色々と観ていらっしゃるそうですが、最近観て良かった映画を教えて頂けますか?

中村:trio de monochrome に少し関連づけて。モノクロ映画で良かった映画ですが、劇場でなくNetflix 製作のメキシコ映画映画「Rome」は、映像美、内容ともに素晴らしい映画でした。
モノクロ映画で派手さもないので、もし劇場公開のみだったら、興業的にはそれほど振るわないと思いますが、サブスクリプションでの公開ということで完成度の高い作品に注目が集まるというのは、いいことだと思います。

---このWEBマガジン恒例の質問、"あなたのCheer Up!ミュージックを教えて下さい"。
前回中村さんには、ポールデスモンドのアルバム『take ten』の挿入曲"black olpheus"を挙げて頂きました。
あれから3年、最近の中村さんのCheer Up!ミュージックがあれば教えて頂けますか?


中村:trio de monochrome を結成し、アルバムを作る過程で世代の離れた若いミュージシャンと音楽を作るということで、今まで以上にコンテンポラリーの音楽をよく聴くようになりました。

ジャズで気に入っているのは

Angela Davis 「little did they know」


Aaron Irwin 「ordinary lives」


Olivier Boge 「when ghosts were young」


Maciej Obara 「Unloved」


アルバム制作するにあたって、ジャズでなくエレクトロニカ系の音楽もたくさん聴きました。

Fliying Rotus 「untill the quest comes」


Kettle 「Wingtip」


telefon tel aviv 「fahrenheit fair enough」


duft punk 「random access memories」



---今後、trio de monochromeでこんなことをやってみたい!などあれば教えて頂きたいです。
また中村さん個人の展望なども伺えますか?


中村:trio de monochrome の活動開始したのが自分にとって転換期で、今までのようにバンド中心という活動にも先が見えにくい状況でこのアルバムリリースをきっかけに新しい活動場所が見つかるといいなと思っています。
3人だけで身軽なバンドなので、チャンスがあればどこでも演奏したいと思っています。
興味を持っていただけたら連絡いただけたら嬉しいです。

個人的には、自分自身のパフォーマンスではなく、裏方的なプロデュースにも力を入れていきたいと思っています。
これまでもサウンドプロデュースを依頼されて企画もののカバーアルバムなどを制作して、自分なりのプロデュースのやり方も模索してきたので、一アーティストのプロデュースにもそのキャリアを生かしていけたらと思っています。
現在女性シンガーのポップスアルバムのサウンドプロデュースを行なっています。
ジャズに関わらず、プロデュースできたらと思いますので、そちらも興味ある方は、是非ホームページから連絡いただけたら嬉しいです!

---どうもありがとうございました。trio de monochrome、そして中村さんの今後の活動も応援しております。




『残像 -après l’image-』trio de monochrome

1 残像 (après l'image )
2 nostalgia’08
3 minimal quest
4 hope
5 night cruise
6 イツカノ灯火
7 tamayura 〜玉響〜
8 gentle silence
9 pupil
10 monochrome

発売日:2019年10月12日
規格品番:NAT-0007
レーベル:nat records
価格:\2,273+税





◆中村智由 プロフィール

大学卒業後、プロのサックス奏者として活動開始。ダンスホールやジャズクラブでの演奏活動を経て、1999年ジャズバンド”native”を結成、ドイツ、中国など海外での公演、国内最大級のフェス サマーソニックへの出演、海外レーベル含むむ10枚のアルバムをリリース、CDショップのセールスランキングにチャートインを果たす。演奏活動と並行してサウンドプロデュースも行っており多数の人気カバーアルバムを制作、生音中心のクールで都会的な表現を得意としている。

中村智由 Official Web Site
http://blackqp.iiyudana.net/

中村智由 Twitter
https://twitter.com/blackqp67

♪最新Live情報

こちらの中村さんのhttps://twitter.com/blackqp67
最新ライブスケジュールからご確認をお願い致します。


<Cheer Up!関連リンク>

QUIN' KRANTZ(クインクランツ)伊藤寛哲インタビュー(2018年)
http://www.cheerup777.com/quinkrantz.html

Tomoyoshi Nakamura Quartet『Dance With The Wind』インタビュー(2016年)
http://www.cheerup777.com/native.html

native『liberation』インタビュー(2014年)
http://www.cheerup777.com/native.html

新譜情報 Tomoyoshi Nakamura Quartet『Sense Of The Cool』
(中村さんからのコメント掲載)(2013年)
http://ameblo.jp/cheerup2009/entry-11586360624.html




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