グランドファーザーズ、O.L.H.(a.k.a.面影ラッキーホール)、BAND EXPO、三匹夜会など様々なユニット・バンドで活動なさっている西村哲也さんが待望の5thソロアルバム「Trickster Sessions」をリリースした。
このアルバムはゲーテの「ファウスト」にインスパイアされた曲を中心に構成されている。ファウスト?なんだか難しそう?と思いながら聴いてみたらそんなことは全然なくて、周りを固める実力派ミュージシャンのサウンドにのせて歌われる西村さんの楽曲のバラエティに富んだ素晴らしさ、魅惑の歌声に夢中で聴いてしまうアルバムなのだ。
今回はこのアルバムについて様々な角度からじっくりお答え頂いた。(2018年7月)


---このアルバムは、あまりにも有名なゲーテの戯曲「ファウスト」にインスパイアされたそうですね。
どういった経緯なのか、全曲インスパイアされた作品をアルバムになさったのか、以前からそのようなアルバムを作りたいと考えていらっしゃったのか?そのあたりについて伺えますか?


西村:ファウストをモチーフにした漫画は沢山ありますが、特に永井豪のデヴィルマンが特に好きで、子供の頃から親しんできた手塚治虫氏は3作品も描いておられます。3作目は遺作で途中までなんですが。気がつけば他にもこれもあれも、とファウストの影響下の作品がまわりにあり、自分でもやってみたい、と言う欲が湧いてきました。それが3年ほど前でした。

---アルバムタイトル「Trickster Sessions」に込めた意味や想いを伺えますか?

西村:トリックスター、は時代を混乱させる者、とか、いたずらする存在みたいな意味なんですが、ファウストの悪魔、メフィストもこれに属すると思います、音楽的な言葉、セッションと並べるとなかなか思わせぶりなタイトルだな、と。

---制作期間やレコーディング期間はどのぐらいかかりましたか?
レコーディングで印象的なエピソードなどございましたら教えて頂けますか?
アルバムの音質もすごくいいですよね。


西村:基本は自宅録音で製作しています、製作開始は4年前で、なので製作期間も4年ですね。
ファウストをテーマにしようと思ったのが3年前くらい。なので最初の1年くらいで作った曲(「妖精の指輪」「去っていった鳩」)はテーマも無く作りました。
主要な曲はライブで何度も演奏しつつ曲を錬ってきました。バンドで演奏しながら、曲も成長させたと言う感じです。
リズム録音は同時に演奏したので、ライブ感がいつもの作品より高いと思います。あんまりやり直しもしませんでした。普段やっている感じを記録できたと思います。
基本リズムは設備のしっかりしたスタジオで、そのスタジオのエンジニアさんに録ってもらったので音は素晴らしいサウンドです。

---今回のメンバーの人選はどのような感じで決まりましたか?
Cheer Up!にも以前ご登場下さった 矢部浩志さんのドラムもタイトで相変わらずのかっこ良さですし、他のメンバーとの相性も抜群という印象です。


西村:基本ライブのバンドの演奏者です、もう長いことやってもらっているので特に詳細な注文もせず問題なくやってくれています。ありがたいです。
矢部さんはもう昔から尊敬するドラマーで凄い人ですし、まあ伊藤君や大田氏も含めて付き合いは若い頃からで、20年以上、ですから。演奏者としてより単に友達です。

---西村さんの歌声がいいですよね!この声のファンも多いと伺っております。
様々なバンド、またギタリストとして活動されてきた西村さんですが、2000年からソロアルバムをリリースするようになったとか。歌い出したきっかけ、曲を作るようになったきっかけなどあれば伺えますか?


西村:20代の頃は基本的にギタリストだけで、それで良いと言う気持ちでしたが、自分の曲を作りたいという欲はずっと持っていて。密かに若い時期から曲は書いていたのです。歌うのが苦手で発表する機会がありませんでした。でもせっかく作った曲を何とかして人に聴いてもらい欲が抑えられず、しかたなく2000年くらいから真剣にライブで歌うことに挑戦し始めました。
今でも歌はちょっと自信が無いけど、でもまあ、以前よりは気持ちよく歌えるようにはなったかな、と言う感じです。

---曲作りの方法や、曲が出来るのは速いか遅いかなど教えて頂けますか?曲先、詞先どちらが多いですか?

西村:自宅でギター弾きながら鼻歌か、パソコンの打ち込みで作ります。曲作りはかなり遅いほうですが、基本的に常に作業しています。全作品、曲先です。詩から出来たこと無いですね。

---ここからは何曲かピックアップしてお伺いします。

◆1.円環の終わり(loop end)
---シタールらしき音色が印象的ですが、ご自身の演奏ですか?

西村:はい、あれはエレキシタール(エレキギターですが、シタールっぽい音が出る)です。このアルバムの為に購入しました。
ちなみにこの曲は、魔法少女まどかマギカ、のまどかちゃんのことを歌ってます。ファウストでは無いのです。2曲目からがファウスト。

◆2.愛の再生(reincarnation Love)
---すごくポップで明るくて楽しくなる曲調なのに歌詞が悲しいですよね。イマジネーションが膨らみます。この曲もファウストと関連がありますか?

西村:そうです、ファウストとメフィストの出会い、の場面です。なので2曲目としました。ファウストの始まりです。

◆3.黒犬の勧誘(balck dog guidance)
---so cool!と言いたくなるかっこいいサウンドが並び、すっかりこのアルバムと西村さんの歌声のトリコになる3曲目。ジャケットにも黒い犬。このアルバムに犬の存在感を感じますね。

西村:何で黒い犬かと言うと、悪魔メフィストは最初、黒い犬の姿でファウストの前に現れるからなんです。
この曲は、メフィストの視線というか彼の気持ちを歌っています。

◆5.光の庭(sunshine of our garden)
---個人的にとても好きな曲調です。不思議なリズムのイントロ。そしてピッチが変化してるんでしょうか?ユニークな曲。
コーラスも素敵ですよね。参加ミュージシャンの聴かせどころも多いです。西村さんの音域も広いんですね。


西村:自分の声の音域を考えずに曲作るので苦労することが多いのですが、この曲もなかなかに大変でした。
曲は2曲をくっつけて作ったので、面白いことになっていると思います。ピッチが上がっていくのは、多分スライドギターのことかな? サビはポールマッカートニーを意識して考えたのでした。
コーラスは大田真緒さんの落ち着いているけど女性らしい声が曲に綺麗にフィットしていますね。

◆6.堕天使ハープ(harp)
---ライブで最高に盛り上がりそう!ライブではハープもよく吹かれるのですか?

西村:最初はライブでもこの曲でブルースハープ吹いていたのですが、ギター弾きながらがかなり面倒くさいので諦めてしまいました(笑)。
録音のハープは何日も練習し、同じようにふけるようにして完成させました。自宅録音ならではの作業です。
ライブで、やっていて高揚する楽しい曲です。

◆7.逢瀬(a secret)
◆8.彼女を救い出せ(Save Her before sunrise)
◆9.妖精の指輪(Red Ring)

---「逢瀬」「彼女を救い出せ」などでは、ほりおみわさんとの声の相性もいいですね。
そして「光の庭」「妖精の指輪」では大田真緒さんのコーラスがまた違った雰囲気の良さがあって。

お2人はどんな方ですか?

西村:ほりおみわさん、京都でライブする時のコーラス。大田真緒さんは、東京でのライブのコーラスです。
東京と京都でバンドメンバーが違う、というかそれぞれ違うバンドが存在しています。
このアルバムは、東京のバンドがメインで録音しましたが、ほりおみわさんは、特別に参加してもらっています。

真緒さんは、ベースの大田譲氏の娘さんで、最初は歌の勉強代わり(彼女はシンガーを目指しています)にと参加し、結局ずっと参加してもらっています。
ほりおみわさんは、関西ではずっと歌っているシンガーで、コーラス仕事も多く熟練されています。発声の研究も常にされていてとても実力のある方です。

◆11.崩壊の涙(tear of a fall)
---「崩壊の涙」田邉晋一さんのパーカッションが効いてますね。そしてこの曲もまた歌詞にイマジネーションをかきたてられました。西村さんの歌声が本当に心地良くて、また最初から聴きたくなる、そんなアルバムですね。

西村:晋ちゃんは、OLH(aka 面影ラッキーホール)で長く一緒に演奏していて、自分の作品にもずっと前から参加してくれています。演奏だけでなくアイデアもよく出してくれて、ありがたい存在です。

この曲は、インターネット、SNSで一般の人々の意見が簡単に判るようになって、さまざまな悪意が以前より表出されることの怖さを歌ったのです。

---西村さんは学生時代、主にどのような音楽を聴いていらっしゃいましたか?
影響を受けたなと思うアーティストやジャンルなど教えて頂けますか?


西村:中学生になってビートルズ、T.REX、デヴィッドボウイ、QUEEN、ピンクフロイドとかを知り衝撃を受けたのですが、案外そこから今でも変わってません。
70年代前半はロックが終わり魂が消えたと言われていた時期です。グラムロックが流行り、自分もそのあおりを受けましたね。
最近は当時(中学生)はちょっと馬鹿にしていた歌謡曲を聴きなおして、ああ馬鹿は自分だったと反省している次第です。

---このWEBマガジンの恒例企画です。西村さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?

西村:ビートルズ全部、デヴィッドボウイの1stからスケアリーモンスターズまで。ピンクフロイドの狂気、ゾンビーズのオデッセイ・アンド・オラクル、エミットローズの2枚。マジカルパワーマコのポリドールと書いてあるアルバム、ムタンチス、とかでしょうか。思いつくままに並べてみました。

---今後の展望や夢、こんなアルバムを作りたい!など教えて頂けますか?

西村:出来る限り曲を書き続ける、と言うのが目標で、今は、流通に発表していなかった初期作品を、再録音してアルバムにしようと考えて作業しています。
昔の音源ではあんまりうまく歌えなかったり、今でもライブでやっているのにCDで聴けない曲をピックアップする予定です。

---どうもありがとうございました。次作以降もますます楽しみです!








西村哲也 / Trickster Sessions

1.円環の終わり(loop end)
2.愛の再生(reincarnation Love)
3.黒犬の勧誘(balck dog guidance)
4.彼女の愉しみの選択(grateful girl's story)
5.光の庭(sunshine of our garden)
6.堕天使ハープ(harp)
7.逢瀬(a secret)
8.彼女を救い出せ(Save Her before sunrise)
9.妖精の指輪(Red Ring )
10.去っていった鳩(Isomers of the soul)
11.崩壊の涙(tear of a fall)

発売日:2018年6月6日
レーベル:TOKYO MOR
規格品番:MOR6950
価格:2500円+税

参加ミュージシャン
伊藤隆博(key)
大田譲(bass,cho)
矢部浩志(ds)
田邉晋一(perc)
大田真緒(cho)
ほりおみわ(cho)
川口義之(sax,flute)





◆西村哲也 プロフィール:

1978:京都、某大学の軽音楽部でバンド、VOICEを結成。京都のライブハウス、サーカス&サーカス、共和村などに出演するようになる。時代の波を真っ向から受けNEWWAVE、PUNK、テクノに走る(VOICEのドラマーは後にローザ・ルクセンブルグのメンバーとなる三原重夫)。
1984:東京にて音楽活動開始。 青山陽一、大田譲、鈴木秀明と結成したバンド、グランドファーザーズで、ほぼ7年間活動する。グランドファーザーズはナゴム・レコードからシングル1枚リリース、ナゴムのオムニバス・アルバムにも1曲参加し、その後、メトロトロン・レーベルよりアルバムを2枚発表(後に徳間ジャパンからベスト・アルバムが発表されています)した。バンドは1991年解散。
1991〜2002:グランドファーザーズ解散後、 バンドには所属せず、ギタリストとしてアーティストをサポートする活動に移行。平行して密かにソロ活動も行い、書き溜めた曲により2000年にメトロトロン・レーベルより1stソロアルバム、”ヘンリーの憂鬱”を発表する。
2002〜:東京から、故郷、京都に移住。関東と関西を行き来する音楽活動となる。ギタリストとしての活動とともに、ソロ活動も活発となる。
2005年:ベスト・アルバム的セルフ・カバー・アルバム、”ウォーターメロン砦(アーティスト名:西村哲也+ティム・ワイノー)”を発表。一人多重録音でなく、初のバンド演奏による録音です。7曲収録。
2010年:3rdソロ・アルバム、”ORANGE( 発売会社:GO→ST1)、発表。
2012年:グランドファーザーズ、3枚目のアルバム、”GRANDFATHERS”(発売会社:P−VINE)、発表。
2013年:グランドファーザーズの過去の2枚のアルバム(発売会社:P−VINE)のリマスターを、発表。
2014年:4thソロ・アルバム、”運命の彼のメロディ(発売会社:GO→ST1)、発表。
2016年:グランドファーザース以来のバンドとなる、BAND EXPO(西村哲也+青木孝明+河野薫)デビューアルバム”BAND EXPO"(発売会社:TOKYO MOR)、発表。


西村哲也 HP
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Twitter
https://twitter.com/HeronMusic

♪最新Live information

2018年8月12日
京都エルラティーノ
Yah-Do! と西村哲也会
open 18:00 / start 19:30
fee:2000yen + drink

2018年9月17日
東京七面鳥
出演:grandfathers



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