90年代、伝説的バンドVenus Peterのメンバーとして活躍した沖野俊太郎さん。2015年には自身の名義でアルバム「F-A-R」を発表し話題を呼んだ。そして最新作は全曲英詞のギターポップアルバム「The Spark」。「無駄な音を一切排除し、何度も読み返したくなるような短編小説集を意識した」というご本人のコメントの通り、何度でも聴き返したくなる魅力に満ちている。いまヘビーローテーションで聴いているこのアルバムのことをもっと知りたくて、沖野さんにインタビューさせて頂いた。(2018年6月)


---アルバム全体、懐かしさと新鮮さが混在していて独自の魅力を放っていますよね。
90年代、ギターポップ、インディーポップ、シュゲイザーなど聴いていた季節を思い出して「こういうアルバムを待っていた!」と思う沖野さんファンも多いと思います。このアルバムを作ろうというきっかけや経緯を教えて頂けますか?

沖野:前作「F-A-R」(2015年)は正直リハビリ的な部分もあり、新作はやはり現在進行系の自分を出したいと思っていました。「F-A-R」のリミックスアルバム「Too FAR」を挟みましたが、その頃にはぼんやりとですが次はギターポップかな? 現在の自分が本気で演ってみたらどんなものになるだろう? みたいのはありました。結局なにか新しいことを始める時は「その時の自分にとって新鮮に響くもの」 なのでそれがギターポップでした。
Venus Peter以来、ソロでは本気で向き合って来なかったのもあるし、もちろん時流の影響もあります。

---沖野さんにとってのギターポップとはどのようなものなのでしょう?

沖野:今作はギターポップをキーワードにしてますが、今思えばギターサウンドをフィーチャーしたものを作ろうという感じでしたね。本来学生時代はヴォーカルではなくずっとギターリストでしたし。つまりギターの演奏と本気で向き合ってみよう みたいな気持ちがありました。
いままでのソロ作品は割と生演奏も、サンプラーに取り込んでエディットしたりループさせたりとかが多かったので。

---制作期間はどのぐらいかかりましたか?演奏からミックスまで沖野さんご自身が手掛けられたとのこと。印象深いエピソードなどあれば教えて頂きたいです。

沖野:製作期間は1年くらいでしょうか。2曲、女性コーラスで参加いただいたAI ECO INAさん以外は全て自分の演奏です。
AI ECO INAさんはレーベルオーナーの紹介だったのですが “ソウルフルなのに透明感がある”という理想にまさにピッタリの声の持ち主でした。録音の時にとりあえず僕のリクエストに沿ってバシッと歌っていただいて「あとは自由にフェイクしてみてください」と軽い気持ちで頼んだらそれが素晴らしく・・・”Steal The Show”でその美しい声が聴けると思います。スタイル・カウンシルのDee C.Leeのイメージです。

あとは途中ミックスで煮詰まりまして・・・コーラスの録音でお世話になった佐藤慎太郎さんにアドバイスを頂いたり、最終的に行うマスタリングという工程でエンジニア・中村宗一郎さんのpeace music studioにお邪魔したのですが、そちらでの作業で自宅の仕事部屋では全く気が付かなかった無駄だったり不快な音が聞こえてきてしまったんですね・・欠点が露呈されたような。結局何度もデータを持ち帰ってミックスし直しました・・。
僕は気になる部分があると直さないと気がすまない性格なので、何度も付き合ってくださった中村さんには大変感謝しております。しかも最後の作業は確か大晦日でしたね・・・もうその時点ではネットでのやり取りでしたが、ほんとありがたかったです。

---沖野さんの曲作りについては、どのようになさっているのですか?
今回のアルバムは、詞と曲どちらが先だったでしょうか。

沖野:僕の場合、歩いていてメロディーが浮かぶ とか お風呂でフレーズが・・とかって一切ないんですよね(笑)。
「さぁ作るぞ」っとギターもしくはピアノを適当に弾きながら、要は「楽器と対話を始めると旋律が降りてくる」って感じです。
ダンス系の曲などはドラムループからメロディーを作っていったりというパターンもあります。
今回に限らず、基本的にまず曲からです。

---歌詞はシドニー在住の画家Damian Broomheadさんとのコラボによる全曲英詞。
Damianさんとはどんなきっかけで出逢われたのですか?コラボの方法もお伺いできれば嬉しいです。

沖野:Damianは2000年ごろやっていた宅録ユニット[INDIAN ROPE]のときからの付き合いですね。まだ当時はDamianも日本にいて友人の英語の先生をしていたんです。
彼の描く絵の世界も好きだし、気さくだし、ボブ・ディランが好きだと言っていたので歌詞を書いてもらったら面白いのでは?とお願いしたのがきっかけです。
それからはまぁいろいろあってDamianとは疎遠になっていたのですが、やっぱ今回はダミアンだなって感じで10数年ぶりにお願いしてみました。歌詞を他人に頼むことで作品に客観性を与えたかったのもあります。

今はシドニー在住ですが、インターネットの普及で逆に当時よりコラボ自体は楽でしたね。曲のデータなんかは当時はカセットでやり取りしてましたが、今はネットでサッと送れちゃうし、発音チェックもダミアンがスマホで録って送ってくれてましたから。
あ、今回は当時より英語の発音は厳しくチェックしてもらってます。

---アルバムタイトル「The Spark」〜生命の閃きとのこと。
「無駄な音を一切排除し、何度も読み返したくなるような短編小説集を意識した」とのコメントをされていますが、そのあたり詳しく教えて頂けますか?

沖野:そうですね、歳のせいもあるかもですが(笑)、例えばインパクトのある長編小説とかって読んでる時は夢中だったり、すごいよこれ!とか思うんですが、余りお腹いっぱいになっちゃうと「もう当分読まなくていいや」ってパターンがありませんか?
そういったものよりカジュアルにサラッと楽しめて「あぁ でもなんかまた読みたくなっちゃった」いつの間に「あれ、でもこれって実は奥行きがあるかも?」みたいなものを目指しました。無理して買ったけど結局全然着ない高価なシャツより、安物の古着だけどなんか心地よくてつい羽織ってしまうシャツとか。
そういうものの方が結果愛着って湧きますよね。そんなイメージです。

タイトルの「The Spark」はダミアンと相談の末、意見一致で決まりました。ある男が「スパーク(生命の閃き)をいくら探しても見つかりゃしない」という歌詞の内容がなにか自分らしいなぁ と思ったんですよね。
「見つけた」じゃなくて「見つからない」ところが好きです。

「無駄な音を排除」というのは自分の習性として楽曲の各センテンスごとにたくさんのフレーズを思いついてしまうのでそれを泣く泣くというか、これが一番だ というワンフレーズのみにアレンジを絞って別の音を重ねることをしない、そこにこだわって全曲構築してあります。
その結果メロディーや声の魅力がより伝わるはず、その音の隙間が聴く側の人々の生活にすっと溶け込みやすいのではないか?なんて思っています。

---中間のインスト「Vibe Song」は割れたようなヴィブラフォンの音色がノイジーでありつつも綺麗なメロディを奏でていて想像がふくらみます。

沖野:「Vibe Song」は煮詰まったときに発見したと言うか、数年前に作って使いみちがなく忘れていたような曲なんですが、今聴くと「ATGとかの日本映画で流れてそうで良いな」と思い収録しました。もうセッションデータもなく2ミックスのWAVファイルしか残っていなかったのでその2ミックスにエフェクトを施して完成させた感じです。

---2曲目の「Birds Of Prey」は本当に瑞々しくて、何度聴いても飽きなくて、沖野さんの声の魅力もたっぷり伝わってきますよね。どこまでも広がっていくような・・・
11曲目の「Birdsong」といい、Birdが今回のアルバムのキーワードの一つになっているような気がしますが、いかがでしょうか。

沖野:歌詞に関しては全てDamianが楽曲から彼本人がインスパイアーされて書かれたもので僕のリクエストではないんですよね。
なので単純に彼が音からイメージしたのが「鳥」だったんだと思います。ダミアンに「どうしてこういう内容の歌詞になったの?」といった質問は野暮な気がして一切していないので理由は不明です・・・・とにかく音からのイメージであることは確かです。

Birds Of Prey (Official Video)


---当マガジンCheer Up!でもジャパニーズ ギターポップ特集を公開し、ギターポップ、インディーポップに関わってきた方々にインタビューすることによって、そのジャンルやシーンに興味を持つリスナーにとって貴重な資料になったり、今後いっそう音楽を楽しめるきっかけになればと思いました。
沖野さんは1990年代、Venus Peterのボーカル兼ギターとして活躍され、数々のライブイベントにご登場、そして当時の音楽雑誌「米国音楽」などのご常連。眩しい存在でした。(もちろん今も!)
シーンの中に身を置かれていま振り返るとどんな時代だったか、また印象的なエピソードなど教えて頂けると嬉しいです。

沖野:うーん、あまり昔のことを覚えていない、思い出せないタイプなんですよね・・・とにかくなんだかワーッとなってましたね(笑)。
あっという間に気がつけばデビューしてステージで歌ってたみたいな。Venus Peterはたった3、4年で解散してますし。
やはりまだバブルな時代でしたし、みんな調子乗ってて愚かな若者だったなぁ ぐらいにしか今は思えないですね。
僕にとっては楽しかったというよりはツライ時期でもありました。色んな意味で・・ですが。

ただ最近たまたまYouTubeでVenus Peterの「Trip Master monkey」のPVを見たら全く古く感じないし、もう自分としても自分が他人というか客観的に見れるので「こんなカッコいいバンドいまどき無いな!」なんて思ってしまいました・・・・笑
全然売れなかったけど、売れるためにかっこ悪いことやらなくて良かったなって。



---沖野さんが音楽活動を長年続けてこられた原動力は?

沖野:「音楽愛です。」なんて言いたいところですが本音を言うと「男の意地」ですね。まぁ職人気質なんでしょうね、なんだかんだ音楽を作るのが好きです。
あとはやはりここ数年は家族ですね。

---このWEBマガジンの恒例企画です。沖野さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?

沖野:残念ながら特に無いです。あまり音楽に依存はしません。聴くより作るほうが全然好きです。

---沖野さんはふだん、どんな映画や本などご覧になるのか教えて頂けますか?

沖野:近年はすっかり生活に追われて映画や本をゆっくり見る時間がなくて・・・映画は大好きで以前は依存してましたね・・(笑)。
年々どちらかというと洋画より日本映画の巨匠たちに惹かれていって、特に好きなのは成瀬巳喜男と川島雄三です。
美術も西洋より日本美術が好きで、俵屋宗達とか緒方光琳に強く惹かれます。
西洋かぶれの人を見るとすいません、引いちゃうタイプなんです。

---今後の展望、夢、こんなアルバムを作りたいなど教えて頂けますか?

沖野:今作「The Spark」は海外で出せたら良いですね。アプローチはする予定です。今更ですが世界で勝負したい気はあります。
次回作はIndie PopではなくIndie Rock、またはダンスミュージックに向き合うのも良いかなぁなんて思っています。

---貴重なお話をどうもありがとうございました!次回作も今からとても楽しみです。











『The Spark』Shuntaro Okino

TRACK LIST
01.Intro*
02.Birds Of Prey
03.Storm Glass
04.Lights And Bells
05.The Hibernation
06.Steal The Show
07.The Spark
08.Vibe Song*
09.Magical Dancer
10.Precious Metal
11.Birdsong
12.Top Of The Morning
13.King Of The Castle
14.Outro*
*Not included on vinyl

2018.06.06
VINYL / CD / DIGITAL

ISVL-0001
VINYL \3,500+Tax

ISCD-0008
CD \2,500+Tax





◆沖野俊太郎 プロフィール:

90年代初頭、 当時渋谷系の代表格であったVenus Peter(ヴィーナス・ペーター)のヴォーカリストとしてデビュー以来マイペースに活動を続ける沖野俊太郎。
その作曲センスを買われ小泉今日子などにも楽曲提供しつつ、90年代後半からはDIYミュージシャンの走りとも言えるIndian Ropeとしての活動やTVアニメ「Last Exile」の主題歌等、その表現方法は多岐にわたる。その後暫くSONY製品などのサウンドデザインなどを中心に表立った活動からは距離を置いていたが2015年、15年振りのソロアルバム”F-A-R”を突如発表しシーンに復帰。
翌2016年には” F-A-R”のリミックスアルバム”Too Far”をリリース。リミキサーにはCornelius(小山田圭吾)やナカコー(supercar)、片寄明人など沖野ならではの豪華な顔ぶれが並んだ。
今年公開のアニメ映画「コードギアス 反逆のルルーシュ2叛道」挿入歌の作編曲も担当している。


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