ASIAN KUNG-FU GENERATIONやゲントウキ等のCDジャケット、本の装丁などで大人気のイラストレーター中村佑介さん。彼の率いるバンド、セイルズが満を持して5曲入りのミニアルバムをリリースした。中村さんの音楽歴からバンドを結成したいきさつ、5曲に込めた想いなどをじっくり語ってもらった。

セイルズ:2005年に結成。ドラムレスでありながらリズム感のある演奏を得意とする。楽曲はポップス、フォーク、ソフトロック、ボサノバ、レゲエ、ジャズなど様々だが下ネタの歌詞と帰りたくなる程長いMCは一貫している。2011年6月25日、ワイキキレコードよりミニアルバムを全国発売。

---中村さんは幼い頃から絵に親しみ、大阪芸術大学に進まれたそうですが、今日は音楽について詳しくお伺いしたいと思います。子供の頃から現在に至るまで、どんな音楽を聴いてきたのか教えて下さい。

中村 うちの父は学生時代にはっぴぃえんどのライブに足しげく通っていたという程音楽好きで、家のリビングでもいつもその頃のフォーク、歌謡曲、ジャズや、ビートルズをはじめとした60年代の洋楽がいつも流れていました。だから子供時代から僕も自然と音楽が好きになりました。さすがに子供の影響に良くないと思ったのか、はっぴぃえんどだけはリビングで流れたことがなかったのですが、大学入学祝いに鈴木慶一とムーンライダーズ『火の玉ボーイ』のレコード盤をもらい、大学時代はサニーデイサービスなどのニューフォークブームもありましたので、ずっと聴いていましたね。その流れで自然とはっぴぃえんども知ったのですが、父の隠していたエロ本を見つけたような気持ちになりましたよ(笑)
あとは自分のお小遣いで買ったのは、たまやザ・プレイメイツなど、気付けばビートルズの影響が強いバンドばかりでしたので、父は偉大だなぁと。

---フリッパーズ・ギターをお好きだそうで、私も彼らに大きく影響を受けているので親近感を感じます。
フリッパーズ・ギターのどんなところが好きですか?


中村 そんな中、唯一父の音楽から関係のない文脈で颯爽と登場したのがフリッパーズ・ギターで、自分の事のようにとても好きになりました。自分には反抗期がなかったと思っていましたが、今思うとそれが父へのささやかな反抗だったのかもしれませんね。
最大の魅力は、その頃流行していた力任せの体育会系のバンドに対し、「こんな文科系な僕でも音楽やっていいのかも!?」と思わせるような風貌と音楽性、そして歌い方やファッション、歌詞まで、どれも僕の世代には鮮烈に映りました。

---学生時代はバンド活動もなさっていたのですか?

中村 小沢健二さんがソロになって、僕にとってはフリッパーズ時代よりそちらの方が好みだったので、バンドに対しての熱はなく、シンガーソングライターへの憧れを持ちました。実家にあったフォークギターを大学に持って行って、同じ寮に住む友達にコードや弾き方を教わり、とにかくコピーは1曲もせず、いきなり曲作りをはじめました。なんせ憧れはシンガーソングライターですので。そして録音機を買い、ひとりでギター、ベース、ドラム、キーボード、コーラスなどを入れて、毎年カセットでアルバムをリリースしていました。その時付き合っていた女の子と、友達ひとりと自分という、超インディーズ、3本限定の完売品です(笑)

---セイルズについては、「S▲ILS」という印象的な表記からずっと興味を持っておりました。 バンド名の由来を教えて下さい。

中村 セイルズは船の帆の意味で、夏の曲がたくさんあったのと、風を受けて走るという他人任せなヨット、そして主流の音楽性でないのにセール(SALE)と間違われると面白いかなという3点から、バンド名をつけました。表記については”SAILS”と活字で書くとシンプル過ぎて見過ごされそうなので、インパクトをつける為にAがちょうど船の帆の形に似ていたので▲にしましたが、読みにくいのと、インターネットで検索しても引っかからないので、セイルズとカタカナで統一するようになりました。大人になりました。

---セイルズの結成は資料によると2005年7月とのこと、結成のきっかけは?

中村 それまでもバンドはやっていたのですが、ベースやドラムを担当しており、そんな中、カジヒデキさんやCOILが30歳デビューと驚かれていたくらいなので、28才の頃に「そろそろヤバイ!」と焦って自分が歌うバンドをはじめて結成しました。結局バンド名の由来通り風任せにし過ぎたマイペース活動により、33才デビューになってしまいましたが(笑)

---ここからは「Pink」の収録曲について1曲ずつ伺いたいと思います。

◇「わたしの穴」
まず1曲目から「わたしの穴」という「いったいどんな穴!?」と思ってしまうインパクトある曲名で始まり驚かされます。 楽しく聴いていると最後になって胸キュンですね。絵で女性を描くだけではなく、女性の気持ちを歌にもできる中村さん、女性の恋愛相談にものってくれそう!そのあたりいかがですか?


中村 テレビやインタビューで下ネタばかり言っているので、タイトル「またか!」と思わせておきながら、真面目に泣かせるパターン。時々”こち亀”や”クレヨンしんちゃん”にも見られるアレです。しかし女性の気持ちは理解は出来る方だと思いますが、やはりどこまで行っても男は男で、おちんちんで物を考えるようなところがあり、どうしても共感は出来ないので、やっぱりわからないですね(笑) だからどちらかというと、この曲は女装癖に近いものだと思います。女性のファッションの多様性や物の見方、ならではの人生の楽しさ、また辛さには憧れがあります。

◇「ビューティフル」
ちょっとアジアン調なイントロで始まり、長谷川さんと中村さんとの掛け合いなんですね。アレンジが印象的です。そしてシンプルな中に、ビューティフルのリフレインが心に残ります。シンプルにいい歌ですね。


中村 熟年の男女のドロッドロなデュエット曲は演歌や歌謡曲でよくありますが、思春期の男子と女子の気持ちを歌うデュエット曲ってなかなかありませんよね。そもそもそれが出来るほど距離を近づけないので、男”子”や女”子”などと呼ばれるのかもしれませんが、そんなすれ違いって、欲望や生きる力の反発や裏返しなので、「あぁ美しいなぁ」という曲です。

◇「おしりのふとん」
これは楽しいですね!子供が喜びそうな歌。NHK「みんなのうた」に登場しそう。 中村さんの「おしり愛」が伝わってきます。


中村 歌詞も楽しげで、合唱しているし、曲調も跳ねるスィングのリズムなので、是非「みんなのうた」に抜擢されたいですが、良く聞くとただの”顔面騎乗”という大人のプレイの歌なので、サンテレビ「おとなのみんなのうた」みたいな番組があればテーマソングにしてもらいたいです。

◇「絵筆は役に立たず」
イラストレーターの中村さんがそんなことを言うなんて!と思わされる意味深なタイトルです。 何があったのでしょうか・・・?


中村 絵が上手いことって、人間としては凄いのかもしれませんが、直接的なセックスアピールにはつながってこないということに、イラストレーター歴10年にしてようやく気付き、急遽制作した自喝ソングです。その点、音楽はそういう面が多分にあると思っております。

◇「ほんとはね」
きれいなメロディ、皆さんのハモりも美しく切なく、ジーンとくる曲で締めくくりなのですね。 心地良い哀しさとでもいうか、あたたかい涙が流れてきそうな歌です。もっともっとセイルズの世界に浸っていたくなります。


中村 “終わりよければ全て良し”じゃないですが、最後くらいは真面目にしようかなと思って、今回の5曲の中でも一番古いレパートリーのこの曲は最後に持ってきました。そもそも4曲の高いハードルを越えられずたどり着けなかったら、元も子もないのですが、真面目なのは照れ臭いので、それもそれでちょうど良し、です。真面目なんだよ、ほんとはね。

---歌詞に色の名前が出てくることが多いなあという印象を受けました。 作詞作曲をしている時は、漠然とでも映像やイラストが頭に浮かんでいるのでしょうか。

中村 イラストレーターだから、という訳ではなく、おそらく妄想癖が激しすぎてイメージ化までイッちゃってるんだと思います(笑)最終的には色の名前を歌詞にしなくても、何色の曲か想像できるくらいに表現力を高めたいのですが、色は大好きなので、気持ちが先走ってタイトルにも付けちゃいました。

---中村さんの歌声を聴いて、小沢健二さんの「ラブリー」での楽しそうな歌いっぷりを思い出しました。中村さんのボーカルスタイルはセイルズ初期の頃も、今と同じような感じだったのでしょうか。

中村 セイルズの初期はもっと内省的で、音程を外さず上手に歌おうと心掛けていました。いまは楽しい気持ちがきちんと伝わるように、楽しくはっきり元気な声で歌う事だけを心掛けています。

---ジャケットが鮮やかで、グラマーな女の子のビキニや、ぺろっと舌を出した口元に目がいってしまいます。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやゲントウキのジャケットとはまた一味違いますね。 夏らしくてはじけていて、眺めているだけで元気が出てきます。

中村 ありがとうございます。これはミュージシャンではなく、イラストレーターとしての質問ですよね。最初は自分のバンドくらいイラストを描かずに写真なんかでいこうと思っていたのですが、やはりここだからこそ出来ることがあるなと、描くことにしました。そう、今作は音も絵もとにかく「元気」と「エロス」がテーマです。僕にしたらそのふたつは全く同じことなんですけど、こんな暗い時代で、しかも震災で気が落ちている今だからこそ、元気いっぱいの音楽と絵を届けて、再び明るい朝を迎えたいなという願いも込めました。

---本誌「Cheer Up!」でおなじみの小泉ひとしさん(Soda fountains)がセイルズに加入とのことですが、加入のいきさつを教えて下さい。小泉さんはセイルズにとってどんな存在ですか?

中村 Soda fountainsとはライブの対バンなどで、昔から親交があるのですが、それ以上に小泉くんとはアダルトビデオの貸し借りや、夜の下ネタ長電話など、友人として仲良くさせて頂いております。セイルズはレコーディング前にエレキギターの藤野さんが脱退し、ちょうど同じ時期にSoda fountainsも休止したので、レコーディングを手伝ってもらう流れで、自然とメンバーに入ってもらう事にしました。トークのセッションは毎夜毎夜繰り返したので自信はあるのですが、音楽のセッションはまだはじめたばかりです。セイルズに新しい風を起こすようなギター、とても良い感じに仕上がって来ております。そんな小泉くんは8月の京都レコ発ライブでメンバーとしては初登場します。ただでさえ長いセイルズのMCが倍になって、そもそも曲が出来ないかもしれませんが、楽しみにしていて下さい。そして小泉くん、早く人妻ビデオ返して下さい。

---セイルズの他のメンバーについても紹介をお願いします。

中村 まずはアコーディオンのあっちゃん。今作では彼女は2曲で、可愛いボーカルも披露しております。元々”猫ままニーチェとモダンロマンチカバンド”というバンドでピアノを担当していましたが、バンド解散を期にセイルズでサポートキーボードとして入ってもらい、ずるずると引きずりこみメンバーにしました。彼女はMなのでそのくらい強引なのがちょうど良いと思います。弱冠25歳というメンバー最年少にして演奏技術とリズム感はバンド一あるという、セイルズのお母さん的存在です。
そしてベースの飼原さん。ずっと宅録を続けていて、バンドは高校の時にBOOWYのコピーバンドで布袋さんのギターを担当をした時以来のようです。セイルズのライブで時々ベーシストの概念からはみ出すような、激しいアドリブ指さばきをプレイするのも(※必ず失敗する)、その時の名残かもしれません。今作では宅録時代の経験を活かし、プログラム、録音、編曲、コーラスアレンジなども担当しました。現在はほかにもジャズバンドとソロ活動など浮気ばかりしている、セイルズのお父さん的存在です。そういう例えでいくと僕は子供、小泉くんは犬といったところです。

---2005年から始まったセイルズ、今年はこのミニアルバムリリースをきっかけにぐっと盛り上がっていくのでは!という印象を受けます。フルアルバムにも期待が高まります!今後の活動予定や目標などを教えて下さい。

中村 シャ乱Qのように有線でジワジワと火が付いて、本当に紅白歌合戦に出られるよう、後はこれを読んだアナタがお友達一人にでも噂して下さるように願うばかりです。紹介する時に恥ずかしくない用にキチンと『ほんとはね』という曲も入れておきましたので。そしてリリースしたばかりで気が早いのですが、曲もたくさんありますので、来年の同時期までに小泉くん加入後の新セイルズとして2枚目のミニアルバムを、その後はフルアルバムも発表したいです。しかし、まずはライブなので、8月の京都、9月の大阪、名古屋、10月の東京、お待ちしております!!

(インタビュー:三嶋令子)






セイルズ・メンバーからのコメント

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長谷川梓沙(アコーディオン、コーラス)

中村佑介の繊細な絵からは想像できない、あんなことやそんなことまで歌っちゃうの!?と思ってしまうストレートな歌詞を、感情むき出しの声量で歌いあげます。「おしりのふとん」がヘッドホンから漏れだしたら、それは、もう、人気者間違いなし!アコーディオンは曲の雰囲気を醸し出すスパイス。時に楽しく、時に切ない生音をご鑑賞あれ。ウッドベースでの演奏となった「絵筆は役に立たず」では、空気感そのままの音でしっとり聴かせます。エレクトロブームの最中、アナログでシンプルな音の掛け合わせが新鮮な1枚です。
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飼原正之(ベース、編曲、録音)

ジョージハリソンファンも、
ひざこぞうが美しい人も、
ちょっぴりHな人も、
何かを奏でたい人も、
素直に言えない人も、

みんな聞いて下さい。

胸キュンソングがぎっしりで、窒息もやむおえないですよ!!
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小泉ひとし

セイルズファンの皆様、こんにちは。
この度、セイルズの一員として活動する運びとなりました、小泉ひとしです。
セイルズとは以前から僕のバンドSoda fountainsとライブで一緒になったり、助っ人したりされたりと親しくさせて頂いていました。
今回発表したCD『PINK』ではコーラスで参加しておりますが、今後は音源作りや、ライブでの長過ぎるMCをもっと長くする事等、僕にできるあらゆる力を尽くしセイルズに貢献できればと思います。
どうぞ宜しくお願い申しあげます。
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セイルズ 『Pink』
1. わたしの穴
2. ビューティフル
3. おしりのふとん
4. 絵筆は役に立たず
5. ほんとはね

ワイキキレコード/WKRD-035/1,500円(税込)

<関連サイト>
セイルズ
http://younashi.web.infoseek.co.jp/sails/
僕のアベノライフ
http://abenolife.exblog.jp/
あっちゃんの支離滅裂
http://acchanno.exblog.jp/
こいのブログ
http://soda-fountains-koi.seesaa.net/



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