ジャズギタリストとして第一線で活躍し続ける井上智さん、ニューヨークを拠点に名だたるジャズミュージシャンと共演しているベーシスト北川潔さん。
お二人は、かつてニューヨークで頻繁に共演しており、2003年にはライヴ盤『Live at Smoke』をリリース。その後、2010年に井上さんが帰国してからは、共演の機会が減っていた。

そんなお二人が久しぶりにデュオで録音したアルバム『Second Round』をリリース。そしてリリース記念ツアーを行うという。
今回は井上智さんに、このアルバムについて詳細にお伺いすると共に、井上さんの音楽人生、そして師匠であるジム・ホール氏の想い出などたっぷり語って頂いた。(2016年2月)



---ベーシストの北川潔さんとは、井上さんがニューヨークにて音楽活動をなさっていた時期に定期的にレストラン・ギグを続けられていたとのこと。
久しぶりにお二人でアルバムを作ってみてのお気持ちを教えて下さい。



井上:このチームで12年ぶりに作品を残せて嬉しいです。
前作も好評をいただきましたが、それを上回るものができたと自画自賛しております(笑)。



---このアルバムは、お馴染みのジャズ・スタンダードナンバーをリラックスして楽しめるのが魅力ですね。
お二人がニューヨークで共演なさっていた時も、やはりこういったスタンダードをメインに演奏されていたのですか?



井上:ニューヨークにいた頃、自分のカルテットではオリジナルを多く演奏してましたが、北川氏とのデュオ、つまりギターとベースと言う小さな編成では、スタンダードが中心でしたね。
音の会話のキャッチボールが見えやすいと思います。



---北川さんとの出会いのきっかけを教えて下さい。


井上:お互い20代の頃、35年ぐらい前に駆け出しの頃、関西のライブシーンで出会い、共演しました。
その頃から北川は素晴らしかったですね。



---ここからは1曲ずつお伺いしたいと思います。

1. The Surrey With The Fringe On Top
---邦題「飾りのついた四輪馬車」でお馴染み、リチャード・ロジャース作曲でミュージカル「オクラホマ!」のナンバーですね。美しく、楽しい気分になるメロディーが印象的です。
ライナーノーツによると、普段あまり演奏されないverse(序奏)からひらめきを得たそうですね。



井上:verseが面白いハーモニーを持っていて、これを使わない手はないと。
田舎の四輪馬車のイメージなんで、テンポが早すぎては行けないと思いました。



---今回のアルバムは、全体的に聴きやすい馴染みやすい曲が多いですが、選曲の基準は?


井上:まず好きな曲のリストをお互い、いろいろ出し合って、選び、またライブで実際音を出してみて決めます。
さらにその中から、テンポ、フィール、キー、フォーム、テクスチュア、スタイル、構成などなどいろいろ考えてアルバムが単調にならないようにふるいにかけてゆきました。
今回、結果的にモンク、コルトレーン、ロリンズとジャズミュージシャンが作った曲が多くなりましたね。



2. Equinox
---ジョン・コルトレーンのマイナー・ブルース。
ベースが印象的ですね。北川さんのベースのかっこ良さが炸裂している!と感じます。



井上:その通り!ベースが渦巻いてますね。私には、ドラムがいないのに、アフロなドラミングが聞こえてきます。



3. You'd Be So Nice To Come Home To
---コール・ポーター作曲、お馴染みのスタンダード曲。
ミディアムテンポでの演奏が多い中、今回の演奏はアップテンポで、そこがまた心地良く新鮮に感じました。



井上:ヘレン・メリルの歌でよく知られてますが、それよりは早いテンポですね。
インストだから可能な表現かも。



4. I'm In The Mood For Love
---Jimmy McHugh(ジミー・マクヒュー)の曲。フランク・シナトラやジュリー・ロンドンの歌唱で有名。
原曲は4分の4のところ、今回は3拍子のアレンジなのですね。



井上:はい。拍子を変えて、さらに、二度移調する仕掛けを組みました。テーマもソロも結構気に入ってます。



5. Ask Me Now
---セロニアス・モンクの曲。北川さんから「モンクの曲をやりませんか?」とご提案があったそうですね。


井上:北川氏はモンクが好きですね。
彼はモンクのバンドでドラムを叩いていたベン・ライリーのバンドのベーシストだったしね。


---この曲もお二人のアンサンブルが特に素晴らしくて。ベースも変化に富んでいますね。


井上:普通ウッドベースでは単音奏法が中心で、コードは弾かないものですが、北川氏はうまく取り入れて変化をつけてますね。



6. Soul Eyes
---Mal Waldron(マル・ウォルドロン)の曲。マルは、チャールス・ミンガスのアルバム『直立猿人』にも参加のピアニストで、特に日本でも人気が高かったとのこと。
寂しくセンチメンタルな感じもありつつ、どこか懐かしく温かい魅力的な曲ですね。



井上:この曲はコルトレーンが取り上げていて、好きになりました。名曲です。
ラテンにしてみました。


---ベースソロがまた聴きどころと感じます。


井上:よく歌ってますね!



7. Freight Trane
---Tommy Flanagan(トミー・フラナガン)の曲。列車だけあってアップテンポで軽快です。
ベースとギターのユニゾンをやろうと選んだとのこと。お二人の息がピッタリですね!



井上:そう言って頂き嬉しいです。
ベースとギターは両方弦を振動させる楽器なんで音色がブレンドしやすいです。



8. All The Things You Are
---井上さんのソロで演奏される曲。ライナーノーツによると、ソロギター録音は初めてとのことで意外に感じました。
今後、ソロのみでアルバムを作るご予定はありますか?



井上:将来的に、挑戦してみたいプロジェクトの一つですね。



9. Peace
---ホレス・シルヴァーの曲。北川さんのベースがフィーチャーされています。
北川さんのベースはどんなところが魅力と感じていらっしゃいますか?



井上:バラッドのpeace、テーマでは深い音色で、聞かせてくれますね。それでソロになると自由に歌ってますね。
テンポのある曲では、力強いけどしなかやかなスイングが気持ち良いし。
そして楽器だけでなく、音楽の全体を見てのプレイが見事です。
そして、知り合った頃からの一貫したジャズへの姿勢や情熱も素晴らしいですね。ちょっと褒め過ぎか(笑)?



10. The Everywhere Calypso
---ソニー・ロリンズの明るく楽しい曲。アルバムの締めくくりにぴったりの曲ですね。


井上:ステージの最後に、楽しく踊りながら締める感じで、ラテンを投入したりします。
ジム師匠はロリンズからの影響でカリプソをよく演奏してました。私も好きです。


---遊び心のあるギターがますます曲を盛り上げていると感じました。ライブでも聴いてみたい曲です。


井上:リクエストにお応えし、ライブでやりましょう!



---2月下旬から始まる『Second Round』リリース記念ツアーはどんなライブになるご予定ですか?


井上:このデュオチームのツアーは2002年7月以来で、ほぼ14年ぶりです。
次にできるのはいつになるかわからないので本人も気合が入っております(笑)。

ジャズ・デュオならではのスリリングなインタープレイ、ベースとギターのアンサンブル、リラックスした会話、スイングのリズム、ラテンの興奮、緩急のリズミックな、アコースティックな弦の響き、美しいバラッド、などなどを楽しんでいただければと思います。ソロギターも少し披露する予定です。
アルバムに収録された曲はもちろん、そして無い曲も演奏します。
ぜひお見逃しなく!



---ここからは井上さんの音楽ヒストリーについてお伺いします。
子供の頃、どんな音楽を聴いて育ったのでしょうか?



井上:家庭で流れてた映画音楽やクラシック、ラジオの洋楽、その後、フォークやロックに夢中になりました。



---数ある楽器からジャズ・ギターを選んだのはどういったことがきっかけでしたか?


井上:中学ではNHKの教育TVでギター講座を見てクラシックギターをかじりました。
高校と大学ではロック。
その後、フュージョンを学びたくてジャズスクールにいきました。
しかし、ジャズスクールではストレートなジャズを教わり、その魅力に傾倒してゆきました。



---学生時代はどんな音楽活動をなさっていましたか。


井上:大学のロックサークルに入ってプログレッシブ・ロックをやってました。
イエスの「フラジャイル」「危機」とか。


---1989年にニューヨークに渡られたとのことですが、どんな想いを抱いて渡米されたのでしょう?


井上:ジャズの街でチャレンジしながら音楽的に成長したいという野望を抱いてました。



---ジム・ホール氏に師事することになったきっけかを教えて下さい。


井上:ニュースクール大学で、出会いました。驚くべくは彼のほうから声をかけてくれたことです。



---ジム・ホール氏はどんな方だったでしょうか。
印象的なエピソードがあればぜひご紹介頂けますか?



井上:偉大なジャズ・レジェンドなんですが、普段はお茶目で優しく楽しい人でした。
またジョークが大好き。
ある日、ジムから私にFAXを送られてきました。
日本語に興味を持っている彼は、漢字で平和の「和」と書きたかったのでしょうが、どうみても「味」でした。
そして、ギターを持った自画像も描いてました。その上には、大きく「はげ」と平仮名で書いてありました。

平和の話で思い出したけど、驚くべきことは、アメリカがイラク戦争を始めた頃からかな、普段は静かなジムですが、政治的な発言が目立つようになりました。ブッシュ政権を批判するような発言をステージでもぶちかましてました。



---ジム氏から教わったことで、特に心に残っていることを教えて頂けますか?


井上:彼はいつも「よく聞け、そして反応せよ」と言ってました。インタープレイの極意ですね。



---井上さんは、帰国されてから6年ほどたつかと思いますが、昨今の日本のジャズ・シーンについて思うこと・感じることなどございましたら教えて頂けますか。


井上:日本は、地方に行っても社会人ビッグバンドやジャズ喫茶などのジャズ文化が残っていて素晴らしい。ジャムセッションも盛んで、こんな国はなかなかないと思う。
たとえば、アメリカの中西部のノースダコダに演奏に行ったことがあるけど、この街の雰囲気は、ビバップからまるで遠いなと思いました。
日本の地方の方がジャズがあるのではないだろうか、なんて思ってました。



---このWEBマガジンのインタビューでは恒例の質問です。
井上さんにとっての「Cheer Up!ミュージック」を教えて頂けますか?



井上:思いつくのはジム・ホールとロン・カーターの「Alone Together」かな。
チャーリー・パーカーのサヴォイ盤も。



---今回は貴重なお話をどうもありがとうございました。






『Second Round』井上智&北川潔

1. The Surrey With The Fringe On Top
2. Equinox
3. You'd Be So Nice To Come Home To
4. I'm In The Mood For Love
5. Ask Me Now
6. Soul Eyes
7. Freight Trane
8. All The Things You Are
9. Peace
10. The Everywhere Calypso

発売日:2016/02/24
商品番号:WNCJ-2268
発売元:(有)グ・ルーヴ
定価:\ 3,000(税込)






【プロフィール】

井上智(ギター、作曲)

1989年にニューヨークに渡り、リーダーやサイドマンとしてジャズ・シーンで活躍。ジュニア・マンス、フランク・フォスター、バリー・ハリス、ジミー・ヒース、ジェイムス・ムーディー、ロン・カーター、 穐吉敏子、スライド・ハンプトン、ベニー・グリーン等多くのトップ・ミュージシャンとのツアーを経験。ジャズクラブの老舗ヴィレッジ・ヴァンガードの70周年記念にはジム・ホールと井上のデュオが出演。
リーダー・アルバムはポニーキャニオンやホワッツ・ニューより7枚を発表。演奏活動の傍ら、1994年からニュースクール大学ジャズ科で16年間、講師を務めた。2010年4月に21年のニューヨーク滞在にピリオドを打ち帰国。同年にNHK BSの1時間番組「NY Music Love 井上 智」が放映され話題を呼ぶ。日本ではジャズライフ誌に毎月の講座が好評で10年以上連載している。

「イノウエ・サトシは 即興演奏に伴奏に 才能の閃きをしめし注目される。」
アイラ・ギトラー(ジャズ評論家)


「井上 智は 鋭い想像力で音楽を創る優秀なジャズギタリストだ。」
ジム・ホール


井上智 Official Website
http://www.satoshiinoue.com
Satoshi Inoue Blog
http://blogtest.satoshiinoue.com/



北川潔(Bass)

1958年12月5日大阪生まれ。
関西学院大学在学中よりベースを始め、関西のライブハウスに出演。1988年10月NYに移住。Blue Noteのアフターアワーズジャムセッションで当時ハウスバンドをしていたThe Harper Brothersと知り合い、89年同グループに参加、9月老舗ジャズクラブThe Village Vanguardに出演、その演奏はアルバム"Remembrance:LiveAt The Village Vanguard"としてリリースされる。
1993年、Tommy Flanagan TrioでNYのクラブに出演。同年Jimmy Heath Quartet及びKenny Garrett Trioに参加。翌年にはKenny Barron Trioにも参加する。その後,Andy Bey Group, Terell Stafford Quartet, 小曽根真トリオ, Ben Riley's MonkLegacy Septetなどで活動。2008年及び2012年にはMariaSchneiderOrchestraのメンバーとしてJazz Standardでのサンクスギビングウィーク公演に参加する。
リーダーアルバムはKenny BarronとBrian Bladeとのトリオで"Ancestry""Prayer""Live in Japan" "Live at Tsutenkaku (DVD)", Danny GrissettとBrian Bladeとのトリオで"I'm Still Here"をいずれも澤野工房よりリリースしている。
現在、Kenny Barron Trio/Quintet, Jon Faddis Quartet, MichaelRodriguezQuintetなどのレギュラーベーシストとして活動中。
NYブルックリン在住。

K's Weblog
http://kitagawa.exblog.jp



★井上 智&北川 潔 ニューアルバム 『Second Round』リリース記念ツアー


2月 23日(火)岡山:蔭凉寺 
TEL 086-223-5853
2月 24日(水)宮津:玉田寺
TEL0772-46-2019
2月 25日(木)大阪梅田:AZUL
TEL06-6373-0220
2月 26日(金)京都:le club jazz
TEL 075-211-5800
2月 27日(土)金沢:ジョーハウス高尾台店
TEL 076-296-0245
2月 28日(日)岐阜:スタジオF
TEL 090-8867-2116
2月 29日(月)浜松:ジャズを楽しむ会
TEL053-452-1131(地研株式会社内)
3月 2日(水)東京 北千住Birdland
TEL03-3888-1130
3月 3日(木)東京 阿佐ヶ谷:jazz bar KLAVIER
TEL03-3393-0418
3月 4日(金)東京 南青山:Body & Soul
TEL03-5466-3348
3月 5日(土)栃木 那須烏山:石の蔵ビュースタジオ
TEL 0287-83-7088

【ツアーに関するお問合わせ】
info@satoshiinoue.com



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