長年第一線で活躍するピアノ/キーボード奏者の新澤健一郎さんが久しぶりにリーダー・アルバムを発表した。その名も『Standards And Me』、ジャズ・スタンダードナンバーが9曲収められている。 よく耳にする名曲がより新鮮に感じられたり、アルバムタイトルの通り新澤さんならではの選曲が魅力のアルバムだ。ベースの飯田雅春さん、ドラムのジーン・ジャクソンさんとのコンビネーションもまた素晴らしく何度も聴きたくなる愛聴盤になることうけあい。 今回は新澤さんに、このアルバムのことや音楽ヒストリーについてお伺いした。(2018年6月) ---リーダー作は9年ぶりとのことで意外でした。 今回のアルバムを作ることになったきっかけ・経緯を教えて頂けますか? 新澤:古くからの友人から「新澤のピアノトリオのCDを聴きたい」という提案をもらったのがきっかけです。 丁度その頃に僕にもジャズ・スタンダードのアルバムを50歳までに作りたいなぁという想いが漠然とありまして、であれば、これをピアノトリオで作りたいなという想いが育まれていきました。 ---レコーディングは2018/1/9、1/10の2日でスタジオで録られたんですね。 アレンジや準備、リハにはどのぐらいかかりましたか? 新澤:今回はそれぞれの曲を直球で表現したかったので、特にアレンジらしいアレンジはしてないです。エリントンが必ずソロピアノで弾く「Single Petal of a Rose」だけはトリオの為にアレンジしました。 準備は、年末にレコーディングメンバーで一度ライブをやって、レコーディング当日を迎えました。 ここからは、一曲ずつ、ジャズ初心者の読者への曲紹介も兼ねてお伺いします。 ◆1 Waltz For Debby ---ビル・エバンスが姪のデビーの為に書いた曲。ジャズスタンダードの中でも人気上位の素敵なワルツですね。新澤さんの演奏は軽妙で、この曲への愛情もたっぷり伝わってきます。この曲をアルバムの最初にもってきたのは? 新澤:直感です! ◆2 Memories Of You ---クラリネット奏者ベニー・グッドマンの切ないメロディが最高。日本では北村英治さんの演奏が有名ですね。クラリネットのイメージなのでピアノでの演奏が新鮮です。ライナーノーツによると、新澤さんはご両親への感謝の想いを重ねて演奏するようになったとのこと。具体的にはどんな想いが込められているのでしょう? 新澤:あとは想像して下さい! ◆3 Donna Lee ---アルトサックス奏者で「バード」の愛称でも有名なチャーリー・パーカー作曲の名曲。ジャコ・パストリアスはじめ多数のカヴァーで知られています。めまぐるしい展開に惹きこまれ、聴けば分かる、言葉では言えない魅力の詰まった曲! 新澤さんの楽しそうに演奏する姿が見えてくるかのような演奏。ベースもかっこいいですね。ベースの飯田雅春さんとの出会いやお人柄、今回ピアノトリオを結成した経緯など教えて頂けますか? 新澤:飯田さんは昨年、その「ピアノトリオのCD作ってよ」の友人が紹介してくれたんです。 3回ライブで共演させて頂き、とりわけハーモニーの感覚が、僕のいて欲しいところにいてくれる本当に素敵なベーシストで、この出会いもミラクルでした。 ◆4 Everybody's Song But My Own ---カナダ生まれ、イギリスで活躍したトランペッター、ケニー・ホイラーの曲。ヨーロピアンジャズはあまり知らないので新鮮でした。情熱と優しさが感じられる演奏。 新澤さんはヨーロピアンジャズもお好きとのこと。ほかにおすすめのヨーロッパのジャズメンがいたら教えて頂けますか? 新澤:ヨーロピアンジャズ「も」ではなく「が」です!まずは、ECMアーティストであるキース・ジャレット(p)、エグベルト・ジスモンチ(p,g)が大好きです。キース・ジャレットはアメリカ人、ジスモンチはブラジル人ですが。この他、すぐに思い浮かぶのは、ヤン・ガルバレク(sax)、ボボ・ステンソン(p)、ラーシュ・ヤンソン(p)、エスビョン・スベンソン(p)です。共演させていただいた事のあるエーロ・コイビストイネン(sax)、ユッカ・エスコラ(tp)、来日ライブでオープニング・アクトをさせて頂いたスザンヌ・アビュール(vo)も大好きです。 ◆5 Autumn Leaves ---イヴ・モンタンの映画「夜の門」で歌われたシャンソン。定番中の定番ですね。フリージャズでの演奏。テーマは曲の終盤に出てきてびっくりしました。新澤さんにとってのフリージャズとは? 新澤:フリージャズは、僕が最も自分らしくなれる音楽のひとつと考えています。 ◆6 Single Petal Of A Rose ---デューク・エリントンの作る旋律は美しいですね。特にこの曲は穏やかな気持ちになれてリラックスできます。ライナーによると「曲のどこを切り取っても脈々としたブルースの匂いがある」と感じていらっしゃるとのこと。まだまだジャズ勉強中の私にはそこまでくみ取れないのですが、もう少し詳しく教えて頂ければ。 新澤:これは学んでどうこうという話ではなく、何故かそう感じるんです。僕には綿花畑の景色とか見えて来ます。 ◆7 Oleo ---ソニー・ロリンズ作曲。マイルス・デイヴィス「バグス・グルーヴ」が初演。マイルスが気に入って何度もアルバムで取り上げたスリリングな曲。皆さんの熱が伝わってきますね。 今回アルバムで取り上げなかったけれど、今後取り上げたい曲などいくつか教えて頂けますか? 新澤:今後の事は分かりませんが、選曲についてお話させていただきますね。 曲は、当初の予定から、レコーディング直前のライブで少し変えたものもありました。 自分の想い入れのある曲と、録音を前提で自分で弾いてしっくり来る曲との微妙なズレと言いますか、あぁ、人の曲を奏でて行くというのはこういう事なのかという氣付きもありました。 はじめは「いつか王子様が」を入れるつもりだったのですが、どうにも違う、、と、僕の潜在意識が語りかけて来ます。 結局、スタンダードかどうかと言えば微妙ですがケニー・ホイラーの「Everybody's Song But My Own」を選びました。こちらにして良かったです! このような感じで、自分が弾いている時のイメージがわくわくするものに絞っていきました。 当初は、ライブの度によく採り上げているエリントンの「昔は良かったね」を入れるつもりだったのですが、ずっと心のどこかに引っかかっていたミンガスの「Orange Was The ...」が弾きたくなって、こちらを選んだというのも、ありました! エリントンの「Single Petal Of A Rose」はスタンダードではありませんが、このエリントンのピアニズムの魅力に溢れた曲がどうしても入れたくて、この曲は私独自のアレンジが施されています。 他は、スタンダードとして僕がよく弾いてきたものばかりです! 迷いなく選曲出来ました。 ◆8 Orange Was The Colour Of Her Dress, Then Blue Silk ---チャールズ・ミンガスの作品。今回のドラマー、ジーン・ジャクソンさんはハービー・ハンコック・トリオで演奏されていたことで知られていますが、なんとミンガス・ビッグバンドでも演奏されていた経験があるのですね!ジーン・ジャクソンさんとの出会いやお人柄などご紹介頂けますか? 新澤:ベーシストの櫻井哲夫さんのCD「It's a Jaco Time!」のレコーディングやその前後で共演させて頂いたのがジーンさんとの出会いです。お人柄は最高!今回のレコーディングも快諾して下さいました。 スタンダードのアルバムを作るならばジーン・ジャクソンさんに頼もうというのは随分前から心に決めていました。 ◆9 In A Sentimental Mood ---デューク・エリントンの美しいバラード。シンプルにいいメロディーでうっとりします。 アルバムでこの曲のみソロ・ピアノにした理由など教えて頂けますか? 新澤:直感です(笑)。すみません、、、 ---ここからは新澤さんの音楽ヒストリーについてお伺いします。 まずは子供のころ、最初に音楽を意識したのはいつごろどんな音楽ですか? 新澤:5歳の時に、父の職場の人からもらったオルガンがうちに来た時が、音楽を意識した初めての時です。 オルガンと言っても、昔、学校の廊下にあったような電源スイッチとボリュームだけの簡単なやつです。今の若い人には分からない話になってしまいますが。 ---ジャズとの出会いはいつ頃でしたか? 新澤:多分ですが、小学生の時にテレビで見た山下洋輔さんだと思います。オーケストラを相手にフリー・ジャズをやっていらっしゃいました。 あとは、中学生の時に聴いた「ベニー・グッドマン・ストーリー」。映画はだいぶ後になってから見ました。フリー・ジャズとスイング・ジャズがほぼ同時という(笑)。 ---ピアノを始めたきっかけは? 新澤:その5歳の時にもらったオルガンのレッスンが楽しくて、6歳の時にピアノを父に買ってもらいました。 ピアノを買わされただけでなく、その後僕は工学修士を捨てて音楽家になってしまいましたので、父には「タダより高いものはないとピアノを買った時に思っていたがもっと高くついた」と言われていました(笑)。 ---学生時代は音楽活動をされていましたか? 新澤:通っていた東京工業大学の「ロス・ガラチェロス」というビックバンドに在籍し、慶應義塾大学の「クロスオーバー研究会」にも出入りしていました。大学院2年の頃にはレコーディング・スタジオで弾くお仕事も始めていました。 ---学生時代によく聴いたジャンルやアーティストを教えて頂けますか? 新澤:ジャズとフュージョン、クラシック、冨田勲のシンセサイザー音楽です。 ジャズでは特にチック・コリアとキース・ジャレット、ビル・エバンス、マイルス・デイビス、フュージョンではカシオペアをよく聴いていました。 クラシックはドビュッシーが当時も今も一番好きです。 ---プロになったきっかけは? 新澤:山野ビックバンド・ジャズコンテストで優秀ソリスト賞を頂いたのが、きっかけと言っていいと思います。受賞はお仕事に直接の繋がりはありませんでしたが、自信が持てたと思います。 ---このWEBマガジンの恒例企画です。 新澤さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか? Facing You / Keith Jarrett https://www.ecmrecords.com/catalogue/143038752077/facing-you-keith-jarrett 初心に還れます。 ---今後の展望や夢を教えて頂けますか? 新澤:今回のジャズ・スタンダードのアルバムで僕の大きな宿題が素晴らしいかたちで着地出来ました。 今後は、大好きなヨーロッパ・ジャズに改めて取り組みたいと考えています。その第一歩としましては、毎週土曜日にブログにアップしている「土曜日の朝アップ…いま弾いた即興演奏」のベストテイクを集めたアルバムの発売に向けて動いています。 「土曜日の朝アップ…いま弾いた即興演奏」 http://pinzawa.jugem.jp/?cid=14 また、お休みしている「イチョウ五重奏団」の再開も考えています。どうぞよろしくお願いいたします! 「イチョウ五重奏団」Liberty City 「イチョウ五重奏団」Frevo ---どうもありがとうございました。今後の展開がますます楽しみです! 『Standards And Me』新澤健一郎 1 Waltz For Debby 2 Memories Of You 3 Donna Lee 4 Everybody's Song But My Own 5 Autumn Leaves 6 Single Petal Of A Rose 7 Oleo 8 Orange Was The Colour Of Her Dress, Then Blue Silk 9 In A Sentimental Mood 品番:IBRC0002 レーベル:Iceblue Records 価格:CD: 3,240円(税込)、ハイレゾ配信: アルバム3,000円(税込)、単曲378円(税込,e-onkyo) ■演奏メンバー 新澤健一郎 piano 飯田雅春 bass ジーン・ジャクソン drums ■販売情報 1)AmazonでのCD販売 https://www.amazon.co.jp/dp/B07BDTZQBG 2)山野楽器銀座本店でのCD販売 https://twitter.com/yamano_ginza/status/998727191356588032/ 3)ディスクユニオンでのCD販売 ・ディスクユニオン・オンラインショップ http://diskunion.net/portal/ct/list/0/80511585 ・JazzTOKYO ・新宿ジャズ館 ・吉祥寺ジャズ館 ・横浜関内ジャズ館 4)ライブでのCD販売 5)e-Onkyoでのハイレゾ配信 http://www.e-onkyo.com/music/album/bud4538182745861/ 6)OTOTOYでのハイレゾ配信 https://ototoy.jp/_/default/a/27247 左からジーン・ジャクソン、新澤健一郎、飯田雅春 ◆プロフィール:
新澤健一郎(しんざわ・けんいちろう) 新澤健一郎 Official WebSite https://www.shinzawa.net/ 新澤健一郎の小さな空(blog) http://pinzawa.jugem.jp/ https://twitter.com/k_sz_ https://www.facebook.com/kenichiroshinzawa/ https://www.instagram.com/kenichiroshinzawa/ YouTube https://www.youtube.com/playlist?list=PLl7SKfNjWSwP6lp4QKtDa79NQzAaY_qKG SoundCloud https://soundcloud.com/k_sz ♪最新Live information 最新情報や詳細・ご予約等については新澤さんのスケジュールページでご確認をお願い致します。 ■2018/7/6(金) CD発売記念ライブ 新宿PitInn 夜の部 新澤健一郎(p),飯田雅春(wb),Gene Jackson(ds) 開場19:30 開演20:00 チャージ3500+税(1ドリンク付) ■2018/7/13(金) 依田彩(vln) [Acoustic] ◇銀座NoBird 出演:依田 彩(vln),新澤健一郎(p),八尋洋一(eb),ジーン重村(ds) ■2018/7/18(水) 『KAMOMEだよ!全員集合』 [Fusion][Jazz] and more! ◇横浜馬車道KAMOME 鶴谷智生(ds),田中栄二(ds),新澤健一郎(p,key),AYAKI(p,key),織原良次(b),西口明(Sax) ■2018/7/20(金) ポプラ(vo) [Acoustic] ◇六本木Claps ポプラ(vo),新澤健一郎(p),飯田雅春(b) ■2018/7/28(土)「Yone-Suto」 [Fusion][Rock] ◇三島afterBeat(静岡県) 米川英之(g,vo),須藤満(eb),新澤健一郎(key),小森啓資(ds) 開場18:00 開演19:00 前売・予約4500 / 当日5000 ■2018/7/30(月) 「Take-Suto」 [Fusion][Rock] ◇本厚木キャビン 須藤満(eb),新澤健一郎(key),熊谷徳明(drs)平井武士(g) 開場19:00 開演20:00 チャージ4500 ■2018/8/1(水) 「Take-Suto」 [Fusion][Rock] ◇川口SHOCK-ON(埼玉県) 須藤満(eb),新澤健一郎(key),熊谷徳明(drs)平井武士(g) 開場18:30 開演19:30 チャージ 予約4500 / 当日5000 ■2018/8/8(水) 藤村麻紀(vo)・新澤健一郎(p) Duo [Jazz] and more! 南大塚(川越)・音音(ねね) ■2018/8/17(金) TOSHIMI SESSION [Fusion][プログレ] ◇横浜Hey-JOE 永井敏己(eb),長谷川浩二(drs),弦一徹(vln),新澤健一郎(key) 開場18:30 開演S19:30 前売4000 / 当日4500 ※学生割引:当日のみ2100 (ライヴ当日受付にて学生証をご提示下さい) ■2018/8/19(日) 住友紀人プロデュースTokushima Musicians' Fes. 2018 [Acounstic]and more! ◇徳島県郷土文化会館あわぎんホール TMF Greatest Band 住友紀人(Sax EWI Kbd) 「鱧人」=矢幅歩(vo), KOTETSU(vo), 伊藤大輔(vo), 北村嘉一郎(voice percussion) 鳥越啓介(wb),渡辺庸介(perc),新澤健一郎(p),坂上領(fl) ■2018/8/29(水) 新澤健一郎・佐山こうた 2台のピアノコンサート [Jazz] and more!☆ ◇大塚グレコ |