<ayukoインタビュー>    <浅川太平インタビュー>





♪浅川太平インタビュー

---浅川さんは、ayukoさんの1stアルバム『Can we do it?』でもピアノとアレンジを手掛けていらっしゃるそうですね。ayukoさんとの出会いのきっかけは?

浅川:『俺の株式会社レストラン』での演奏がきっかけです。こちらでは様々なジャンルの曲をジャズにアレンジしているのですが、ayukoさんの音楽性はバックボーンに幼少期の和太鼓と中学からのカナダ留学によるクワイヤとブルーズの経験があるため、それらがミックスされたとても個性的で面白いサウンドだなという印象でした。


---ayukoさんのお人柄はいかがですか?

浅川:見た目は華やかな印象ですが、いつも謙虚でコツコツ地道に行動する人だなと思います。
研究をするだけして当日になると感性に従い今までと違うことをするような奇抜さと二面性があり、驚かされることも多々あります。


---今回のアルバムで、浅川さんはピアノの他にアレンジとディレクションをされています。
このアルバムには、ayukoさんのバーズ・プロジェクトの第一弾で、クルトワイルの歌曲集というコンセプトがありますが、こういったことは先に決まっていたのでしょうか?


浅川:そもそもは「Speak low」というクルトワイルの曲を日本の桜のようにアレンジできないか?といきなりayukoから提案があり作ってみました。
そのうち1曲よりも、クルトワイルの偉大な作品にオリジナルな発想と音で産み出したいと思いました。
1ステージ、ワイルだけのライブを行い、それが終わってもさらに深めていこうと思っていたところ録音の話になりました。


---クルトワイルはユダヤ人で、ナチスの迫害を受けパリへ亡命、さらにアメリカに移住。ブロードウェイミュージカルの世界で有名になった音楽家ですが、このアルバムを制作する前には、クルト・ワイルの音楽についてはどのような印象を持っていましたか?
また、今回ワイルの陰の部分ばかりに焦点をあてるのではなく、ワイルのもつユートピア、ワイルのもつ叙情性に光をあてたとのこと。そのようにお考えになった経緯を教えて頂けますか?


浅川:自分はもともとアルバンベルクのピアノソナタの崩れた調性の中にあるロマンティックな旋律の冷たい美しさが好きでして、クルトワイルの初期の「魔法の夜」という作品にも同じようなものを感じていて好きでした。
「魔法の夜」はリルケの詩に曲をつけ、童話パントマイムとして作られた22才の時の作品ですが、ブレヒトと作品を作る前からもうすでにエレガントで光に溢れています。

その後の「mack the knife」「september song」「speak low」等の舞台作品や「youkali」等のシャンソンでももちろん親しんでいましたが、とくに初期の作品を好んで聴いていました。
ワイルのシンプルななかに集約された印象深いそのメロディーラインはどれも時代に流されない強さがあり、光があり、叙情があります。
退廃的な時代の影に焦点をあて音が抽象的になっていくよりは、ワイルがしたように明確な意図と音で作品を作れたらと思いました。


---レコーディングの現場はどのような雰囲気でしたか?録音期間はどのぐらいかかったのでしょう。


浅川:録音は2016年12月に二日間かけて素晴らしいスタインウェイのあるpianoforteで録りましたが、1日でだいたい録れました。
今回はピアノの周りに集まって録る形だったため、いわゆる一発録りでしたが、拍子抜けするくらいayukoさんはじめみんなリラックスしていました。
スタジオがとてもアットホームだったのも大きかったです。
一曲一曲の集中力が皆さん素晴らしかったです。


---クルト・ワイルの数ある楽曲の中から、このアルバムでの選曲には時間がかかりましたか?選曲の基準はいかがですか?

浅川:選曲には時間をかけました。
メロディーラインや構造・タイプの近いものは排しました。
またアレンジも結構したため、原曲を知らないものばかりにならないようにしたら、結果的にクルトワイルの代表曲ばかりになったと思います。
今回収録できなかった作品は発売記念ライブで披露していきます。


---今回のアルバム制作において、苦労話などあればエピソードを教えて頂けますか?

浅川:クルトワイルの文献や資料は国内のものでは限られているので、海外の文献やCD化されてないLP等をかなり集めました。
自分は猫好きの為、猫ジャケにしてほしいとレーベルとayukoさんに懇願し、ワイルと猫が一緒にいる写真を提示して、「ほら、猫ジャケに適しています」といいたかったのですが、調べても調べても大きな犬といる写真ばかり。一枚も猫との写真はなかった。
愛犬家なんでしょうね。犬も好きですが残念でした。


---メンバーには竹内直さん(バスクラリネット、ts、fl)、齋藤徹さん(Cb)というベテランがご参加されていますね。お二人が参加することになった経緯や、お二人がどんな方かご紹介頂けますでしょうか?

浅川:もともと直さんのアルバム『Live at BASH!!』 『Thompkins squere park serenade』を個人的に愛聴していて、強さと妖しさの相まったオリジナルな音に魅了されておりました。
2004年くらいから縁あって何度か御一緒させて頂いて以降、様々な形で演奏させて頂く機会があり、最近では吉岡大輔さんのthe expressでも共演・録音をさせて頂く機会に恵まれました。
年々凄みとともに儚い美しさが素晴らしく、クルトワイルという光と影の中で御一緒できたらなと思いました。

徹さんは、ほとんどヨーロッパやアメリカで活動されてきた孤高な存在。
そのサウンドの深さ・大きさや視野の広さ、様々な面でショックを受けます。
30才のときの徹さんのソロアルバム『Tokyo Tango』なんか拝聴すると、わずか30才で凄い宇宙があります。
やはり天才的なサウンドのサックス奏者かみむら泰一さんと徹さんの『ショーロ&インプロヴィゼー ションライブ』も、ショーロ音楽のもつ身体性とインプロの美しい共存感に満ちていますし、最新作の 『travessia』も活動されてきた様々なものが今の音となって進行形で伝わったりしますね。

今回の『naked circus』では、徹さんが参加くださった3曲は、ベースにするようなアレンジは用意したものの、どの曲でも自然発生的なものが生まれ、身を任せていたらあっという間に終わった感じでした。





---ここからは一曲ずつお伺いします。

◆1.Alabama Song(『マハゴニー市の興亡』より)
---チェレスタの美しさ、メロディの切なさで、一気にこのアルバムの世界に惹きこまれます。
この曲をプロローグに持ってきたのは?


浅川:少女が架空都市に向かうところをayukoさんにストーリーテラーになってもらい、メルヘンな未来派的にクルトワイルという旅をスタートできたらと思いました。
チェレスタは実際にクルトワイルがこの曲を書いていた時代の音なので、導入に使いたいなと思いました。


◆2.Lost in the Stars(『星空に消えて』より)
---ワイルの作るメロディは、なんて優しく美しいんだろうと感じさせる一曲。
シンプルな伴奏がayukoさんの歌をさりげなく盛り上げているんですね。ささやくようなところから、盛り上がるところまでayukoさんの表現力が素晴らしいと感じました。



浅川:この曲は以前から大好きで、イントロとアウトロ以外なにもしなかったです。
最晩年にあたる作品ですが、これを書いたときのワイルの心境を考えました。絶望の中に見た光はどのようなものだったのだろうかと。
ayukoさんも特に思い入れがあったのだと思います。前作の「I remember clifford」同様圧巻でした。


◆3.Bilbao Song(『ハッピーエンド』より)
---楽し気な曲ですね。「Lost in the Stars」とはまた一味違ったayukoさんの歌声が印象的です。
自動ピアノで歌うシーンの曲だそうですが、自動ピアノとは?


浅川:オルゴールのピアノ版みたいなものです。ピアノロールという巻き紙が回り鍵盤を押す構図です。
酒場の片隅にあるホンキートンクなピアノがチャカチャカ弾くイメージでしたが、録音のピアノが良すぎるためゴージャスになりました。歌も語りがラップの様に即興的に入りスリルが増したと思います。
録音してて楽しいトラックでした。


◆4.Mack the Knife(『三文オペラ』より)
---スタンダードナンバーとして、とても有名な曲ですね。今回のアレンジは吟遊詩人が語っているようなイメージなのですね。
齋藤徹さんのコントラバスも、近くで聴いているような臨場感がありますし、竹内さんの楽器はバスクラリネットでしょうか?唸るような音が心に残ります。


浅川:クラシックの変奏曲のような展開の中で歌が刻まれたらと思い作りました。
四人で音を出す瞬間はいつもどうなるかはわからないんですが、この時は円を描いて並んで録ったので不思議な和を感じました。音楽もなにか一筆書きの円を描くような感じ。
これはもう二度とないんだなという寂しさもありました。

直さんの楽器はバスクラリネットです。エリックドルフィーの演奏で有名な楽器ですが、直さんを聞いてると曲の向こう側に引っ張られるような妖しさと美しさがあります。


◆5.Johnny's Song(『ジョニージョンソン』より)
---この曲はインストなのですね。心地良く聴きました。
戦争で精神を病みボロボロになりつつも希望を失わないという主人公ジョニーが気になりミュージカルも見てみたくなりました。


浅川:アメリカ版シュヴェイクと呼ばれた1936年の作品ですが、戦争を通しての人間の捉え方が鋭く、風刺が効いていてこの時代に凄いなと思います。
この曲のメロディーラインは歌に溢れていて、箸休め的にデュオを楽しんで頂ければと思いましたが、なかなか渋い演奏になりました(笑)。


◆6.Alabama Song(『マハゴニー市の興亡』より)
---このアラバマソングを2回登場させたのはどういう経緯でしょうか? プロローグと違った趣で、ayukoさんの歌声がとても力強いですね。

浅川:この曲は少女の光と闇のコントラストを考えて、2つの違うバージョンを収録しようと思いました。
一曲目は無垢な少女の表現を、ここでは都市というサーカスのような様々な要素が雑多にあるなかでの二面性をハードコアに。途中ジプシー的にスイングしたりしてみましたが、破綻ギリギリでスリルがありました。
先日の発売記念ライブ第一弾ではインプロヴィゼーションになりました。


◆7.September Song(『ニッカボッカホリデイ』より)
---ピアノのアルペジオが美しいですね。しっとりとした情緒を感じる曲で、後半、ayukoさんの歌に寂しさも感じます。

浅川:ヴァースからテーマまで寂寥感がある美しいメロディーですよね。
時が刻々と刻まれていく様をアルペジオで表現しました。
「mack the knife」もそうですが、大名曲ほど大胆にアレンジ・リハーモナイズを施しました。
ayukoさんも情感たっぷりでアレンジと溶け合って素晴らしかったです。


◆8.I'm a stranger here myself(『ヴィーナスの接吻』より)
---バスクラリネットがベースを吹いているんですね。後半はコントラバスも参加、アレンジもユニークと感じました。

浅川:ベースだから低音とは限らず、バスクラと役割が交差するようにしたのは、「世の中にうとい私」というユニークなタイトルと歌詞に影響されたからです。
直さんと徹さんがお二人揃ってビートに溢れて生々しさが凄かった。敬服しました。


◆9.Speak Low(『ヴィーナスの接吻』より
---マック・ザ・ナイフ同様にスタンダードナンバーとして知られた曲。「恋を語るときは小声で囁いて」という歌詞なんですね。ayukoさんのハートフルな歌声が沁みます。
優しくロマンティックなアレンジで、フルートも美しい。


浅川:ayukoさんからのオーダーで、日本の桜のようなはんなりとした様をアレンジで表現しました。直さんフルートも和楽器のような佇まいです。
ayukoさんももともと幼いころは世界中を回る太鼓奏者だったので、普段から邦楽の話が多く、ためになります。この曲に和を感じてもらえたら嬉しいです。


◆10.A Bird of Passage(『星空に消えて』より)
---『星空に消えて』はワイルの遺作なんですね。
内容は哀しい曲ですが、ayukoさんの歌声には澄んだ空気のようなもの、そしてワイル作品への愛情も強く感じました。


浅川:この曲は実際にクルトワイルの墓石に彫られている曲で、祈りに満ちたこの歌をエピローグにしました。ayukoさんは再びここで無垢な少女のストーリーテラーに戻り白い闇に消えるのです。
クルトワイルに関しては録音が終わってもそこで終わることなく、様々な文献を読むのが日課になっています。偉大で大変魅力的な作曲家ですので一生かかると思います。


---今回のCDでは、唐澤龍彦さんのアートワークも素敵ですね。
可愛らしさとユーモアがあると感じます。唐澤さんにご依頼したのはどういった経緯ですか?


浅川:唐澤さんとは群馬の桐生の素敵なライブハウスvillageで演奏に伺ったときに知り合って以来、お互いがエドワードゴーリーファンであることもあって親しくさせて頂いておりました。
唐澤さんの作品の奥深いシンプルさが、クルトワイルのそれと通じるような気がして、思わず連絡しました。
自分自身、以前より唐澤さんの作品のファンなので、引き受けてくださったことがとても嬉しかったです。





---ここからは浅川さんご自身のことについてお伺いします。
3才よりクラシックピアノを始め、洗足学園短期大学でジャズを専攻なさったとのこと。
ジャズとの出会いはいつ頃でしたか?


浅川:もともと姉がジャンルを越えてレコードを集めていたので、幼い頃から様々な音楽を聴くのが好きでした。
ジャズも幼いころからビル・エバンス、セロニアス・モンクを中心に、あとシャンソンのgilbert becaud、yves montand等もよく聴いていました。
特にエバンスの「waltz for debby」を愛聴していました。そのうちピアノで真似に始まり、気がついたら演奏をしていました。

---学生時代によく聴いた音楽、影響を受けた音楽について教えて頂けますか?

浅川:クラシックではミケランジェリ、ジャズではエバンス、モンクは特に。
ロックではビートルズ、ストーンズ、ジャニス、ジミヘン、ソウルではダニーハザウェイ、JB、プリンス、マイケルジャクソン、邦楽、様々な映画音楽・・・書ききれないですね。。


---プロになられた経緯を教えて頂けますか?

浅川:洗足学園短期大学のジャズ専攻で、短大卒業後関東圏内で演奏場所を探して、レストランやバーで演奏を始めました。
ライブハウスではジャムセッションのホストばかりやってましたね。
お金がなくて留学できなかったから、独学で練習しながらバイトしながら演奏してました。


---現在、吉岡大輔&the Expressのメンバーとしてもキーボードを弾かれている浅川さん。
先日吉岡さんにもCheer Up!でインタビューさせて頂きました。
吉岡さんのインタビューによると、浅川さんはアルバムでFender Rhodes、Organ、Clavinetなど幅広く演奏されていますね。このバンドは浅川さんにとってどんな存在なのですか?


浅川:吉岡さんはジャンルを越えて音楽への好奇心に満ちていて、様々なタイプの楽曲を緻密に書かれていて素晴らしいです。
それにこのバンドは他所ではなかなか集まれないメンバーだなと思います。メンバー全員がプロデュース気質なので、リハーサルでもアイデアがどんどん転回しますが、ベースになる作曲自体が緻密なのでとても自由に転回できます。

自分は結果的にいろんな楽器を演奏しますが、曲に様々な要素が盛り込まれているのでごく自然にそのような流れになりました。いつも楽しく演奏させて頂いていますし、今後もご期待頂ければと思います。


---このWEBマガジン恒例の質問です。
浅川さんにとってのCheer Up!ミュージックを教えて頂けますか?


浅川:リセットしたいときはミケランジェリのラヴェルのピアノコンチェルトかバッハのマタイ受難曲を聴きます。
音楽というよりはただ街の音を聴くときもあります。街のなかにはすでに音に溢れていて、今日もどこかに音楽が生まれていますから。


---浅川さんご自身の今後の展望や夢について教えて頂けますか?

浅川:これからも様々な活動で音を発表できたらと思いますし、個人ではソロアルバムをいつか作れればと思います。


---どうもありがとうございました。浅川さんの今後の活動をますます楽しみにしております。














◆浅川 太平 ( あさかわ たいへい )プロフィール:

77年札幌出身。3才よりクラシックピアノを始める。 96年、洗足学園短期大学でジャズを専攻し、卒業後バークリー音楽大学より奨学金つきの編入資格を得るも独学の道を選ぶ。04年、横浜JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション、ベストプレイヤー賞受賞。07年に1stアルバム『Taihei Asakawa』、11年に2ndアルバム『Catastrophe in Jazz』、13年に3rdアルバム『Touch of Winter』をそれぞれ全国発売し、すべて全曲オリジナルという内容で作曲・演奏のどちらも好評を得ている。
【参加作品】橋爪亮督『as we breathe』(2008) / 加藤真一『Melody by CONTRABASS』(2010)『Bass on Cinema』(2011) / 森田修史メキシコトリオ+浅川太平『準備万端』(2014) / Ayuko『Can we do it?』(2015)『Naked Circus』(2017) / 吉岡大輔 & The express『吉岡大輔 & The Express』(2016)


浅川太平 Official Web
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♪最新Liveインフォーメーション
詳細・予約につきましては浅川さんのサイトで確認をお願い致します。
http://asakawa.syncl.jp/?p=livelist

2017年7月8日(土)
札幌Cats & Dogs naked circus発売記念ライブvol.4

2017年7月14日(金)
銀座Deep naked circus発売記念ライブvol.5

2017年7月20日(木)
浅川太平solo【新宿ムートン】

2017年7月22日(土)
「Live× Projection series 2」新潟新発田ジャズ喫茶BIRD

2017年7月23日(日)
「Live× Projection series 3」新潟新発田藤塚浜海の家「パンの木」

2017年7月25日(火)
菅野浩浅川太平落合康介【関内上町63】

2017年7月27日(木)
Quietronica【自由が丘hyphen】

2017年8月14日(月)
"afrontia" 吉岡大輔the express他【motion blue yokohama】

2017年8月21日(月)
池長一美the poetry of impressionism【北千住birdland】

2017年8月26日(土)
水戸Cortez naked circus発売記念ライブvol.6

2017年8月28日(月)
日吉Wonderwall naked circus発売記念&ayukoバースデーライブvol.7

2017年9月3日(日)
吉岡大輔the express【日吉 wonderwall yokohama】


<Cheer Up!関連リンク>

吉岡大輔&the Expressインタビュー
http://www.cheerup777.com/express.html




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