何度聴いても飽きることのない美しいメロディーと心弾むサウンド。豪華な歌姫たちが繰り広げるカラフルな世界。
そんな凄いアルバムをリリースしたのはMUSEMENT。矢部浩志さん(Controversial Spark/ex.カーネーション)のソロプロジェクトだ。
ゲストボーカルは野見山睦未さん (Local Bus)、konoreさん (Controversial Spark/超大陸パンゲア)、茂木ミユキさん、安藤裕子さん、鈴木祥子さん、武田カオリさん。

今回はMUSEMENTの2ndアルバム『Musement Fair』について矢部さんに詳細にお話を伺った。
また、矢部さんの音楽ヒストリー、プライベートや最近の活動についてもたっぷり語って頂き、2ページにわたるロング・インタビューとなったのでごゆっくりお楽しみ頂きたい。(2016年12月)


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---MUSEMENTの1stアルバム『Random Access Melody』は2007年リリースいうことで、だいぶ前ですよね。

矢部:だいぶ前ですよ。10年近く前ですね。


---期間が空いたのは、アルバムを作る機会がなかなかなかったからですか?

矢部:そうですね、アルバム1枚分の曲数が歌モノとして形になるまでに時間を要したということです。
今回収録の新曲はすべて6年ぐらい前に作った曲なんです。2010年前後。


---歌う方をイメージして作られるのでしょうか?

矢部:今回までの曲は既に作ってあった曲をそれぞれ歌姫達にお願いした形ですが、今後は歌う方をイメージしながら作るかもしれませんね。


---MUSEMENTというプロジェクトを始めたきっかけは?

矢部:1stアルバムを出す時に、とっかかりは、私が一人でインストアルバムを作る予定だったんです。
私に出来る事は作曲だけなのでしょうがなく、だったんですが。

作っていくうちに、ディレクターの方から、やっぱり歌モノは必要だよね、っていうことになって。それで安藤裕子さん、鈴木祥子さん、武田カオリさんと作ってみて、自分の曲とのハマり具合にびっくりだったんです。
それで、自分はこの形で音楽を作っていくのが自然なんだなと思った次第です。
考えてみると私は男女混合のユニットによる音楽に好きなものが多いです。


---MUSEMENTは"ミューズ"、やはり最初から女性をイメージしていたのかな?と思ってました。

矢部:「MUSEMENT」は女性ボーカル曲を作ってみた結果から出てきた言葉ですね。


---「快楽ポップミュージック探求プロジェクト」という名称がついていますが、本当に心地いい曲ばかりで、まさにピッタリなキャッチフレーズですよね。
矢部さんにとっての「快楽ポップミュージック」とは?


矢部:何でしょうね?(笑) 「純喫茶」みたいなもので、「純音楽」って事かなーと。
参加してくれた歌姫たちが、純粋に音楽として聴き心地の良い作詞と歌唱でもって自然とそれを実現してくれています。
テレビでタレントの有吉さんが「おれ普通の人だから「木綿のハンカチーフ」とか聴いて泣いちゃうんだよね」って言ってたんですが、そういったマニアでもヘビーユーザーでもない人達にも楽しんでもらえるものが作れたら成功なのかもしれません。


---アルバムの曲順はどのように決めたのでしょう?
konoreさんの歌う曲が3曲、野見山睦未さんの歌う曲が4曲続いたりしていますね。


矢部:曲の流れを優先して決めていったら自然とこうなったのですが、コーナーで分かれてる感じが番組っぽくて気に入っています。ミューズメント・フェアという歌番組なので(笑)。
それぞれの歌姫の世界に浸っていただきたいというのもあります。


---前作(MUSEMENTの1stアルバム『Random Access Melody』)の曲が4曲新たな形で収録されていますが、前作の曲を入れた経緯を教えて頂けますか?

矢部:前作での自分の音作りが不本意すぎたり手落ちがあったりしたためです。
自分にとって大切な4曲だったし、歌姫達のせっかくの素晴らしいパフォーマンスを悔いのない形で残しておきたいという念願がずっとあったので。


---今回、「Landslide」「Jerusalem」とカヴァーが2曲収録されていますが、MUSEMENTの曲と言われても分からないほど自然にアルバムに馴染んでいると感じました。
今後MUSEMENTでカヴァーしてみたい曲/アーチストは?


矢部:カヴァーを作品にするからには、聴いていてカヴァーである事を忘れるようなものが理想だと思うので、それは嬉しいです。
具体的には秘密にしておきたいですが、やはり私の未成年時代である70年代に体験した曲を選ぶと思います。思春期、中二時代に好きだった曲という括りが重要な気がします。


---ここからは曲をピックアップしてお伺いします。

1. ぼくらが歌をうたう理由 feat. 野見山睦未 & 鈴木祥子
---矢部さんのWEBの「楽曲解説」によると、"加藤和彦さんが残した「世の中が音楽を必要としなくなった」との言葉への鈴木祥子さんのアンサーがこの歌詞になった"そうですね。
この曲は、このアルバムやMUSEMENTの世界を貫く何かを感じさせる優しいメロディーで心があったかくなります。


矢部:そう感じてもらえて嬉しいです。加藤和彦さん達が作った昭和の優しいメロディは確実に自分の中に擦り込まれてますし、祥子さんも無意識にそんな歌心を感じ取ってこの歌詞を書いてくれたのかもですね。


---矢部さんは、「世の中が音楽を必要としなくなった」という言葉についてどうお感じになりますか?

矢部:加藤さんが何を思ってそう言ったのかをよく分かってないのですが、インターネットで誰もが表現、発信出来るようになって職人アーチストの価値が薄れた、みたいな事でしょうか。
でもそれも良し悪しかなと思うし、ライブに来てくれるお客さん達を見たりしてると、加藤さんと同じようには思わないです。


2. LEXICON feat. konore
---Controversial Sparkで矢部さんと一緒に活動なさっているkonoreさんがアルバムに3曲参加なさっています。
この「LEXICON」のラブソングにはキュンとしました。感性と表現力の凄い方!という印象を持ちましたがいかがですか?


矢部:曲によっての別人ぶりがすごいですよね。
大人っぽかったり舌ったらずだったり、一人で三人分歌ってます。下心をちゃんと伝えられるセンスと技量がしっかりありますね。
メロディを最大限に生かしながらドキっとさせる言葉選びのセンスも尋常じゃないです。
カラっと乾いた質感が超気持ちいい声の持ち主です。


---歌姫たちが作る歌詞世界と矢部さんのサウンドが一体となって、様々な体験をできるゴージャスなアルバムですよね。

矢部:様々な体験が出来ると感じてくれたのはまさに望んだ通りで、すごく嬉しいです。
この6人の歌姫の顔ぶれは、ほんとに歌が好きな人にとってはゴージャス極まりないラインナップだと思います。
自分の作品でそんな事が実現できたっていうのが、私はまだ現実の事として把握しきれてないです。


4. Space Surfer feat. konore
---このアルバム全般的に、躍動するベースラインが心地良い曲が多いですね。シンセベースなのでしょうか?
ベースラインについてのお考えなど教えて頂けますか?


矢部:曲によっては生っぽい音色も使っていますが、全曲シンセベースです。
ベースの動き次第でコード感が変わって曲が良くなったりするので、作曲で楽しいのは結構ベースを考える時だったりします。
メインのメロディとベースとの兼ね合いには特に気を使いますね。
でも自分一人でアレンジや音作りを考えるのにほとほと疲れ果てたというのが正直なところです(笑)。


7. 僕の頭はF-WORD (remix) feat. 安藤裕子
---心地良くて、躍動感の中に浮遊感も少しあるような?何度も聴きたくなる歌ですね。
安藤裕子さんの魅力とは?


矢部:私の娘も「いくら聴いても飽きない何かがある」って言ってくれてました(笑)。
安藤さんの声と言葉だからこその奇跡が起きた曲だと思います。
浮遊感もきっと安藤さん特有のものでしょうね。癒しとカタルシスが同時にある、何とも言えない快感があると思います。

安藤さんは、ポップな面とダークサイドのバランスが素晴らしいと思います。独特の毒のあるユーモアセンスも最高で。
安藤さんの歌には、何も隠せない正直さを感じます。


8. ストーリーズ (remix) feat. 武田カオリ
---美しいメロディが武田カオリさんのクールな声とマッチしていますね。
サビからのメロディがドラマティックで、武田さんのヴォーカルもとても色っぽくてドキッとします。


矢部:この曲だけは武田さんが歌う前提で書き下ろしたので、武田さんの歌に見合う曲を作ろうと全力で作りました。
私のデモを聴いて「感情的に熱くならない歌詞と歌唱を目指します」と言ってくれまして、心が静かに浄化されるような歌詞と歌唱がほんとに素晴らしいですね。


---武田カオリさんとの出会いや魅力について頂けますか?

矢部:カーネーション在籍時のライブで、コーラスで参加して頂いた時に初めてお会いしました。
初めて歌を聴いた時はトレイシー・ソーンのような声に衝撃を受けました。独特の中低域の太さがあって。日本にこんなシンガーがいたとは!っていう。
武田さんも病み付きになる周波数が強力に出てる声の持ち主ですね。
おそらくクラブミュージックで育った世代と思いますが、グルーヴというものを体で分かっている歌唱と作詞をする人だな〜って思います。業界で引っ張りだこなのが頷けます。


9. RED CHERRY & STRAWBERRY (remix) feat. 鈴木祥子
---80年代洋楽ブームの頃のウキウキした感じ、祥子さんのヴォーカルがとってもキュートで素敵な英詞の曲。
鈴木祥子さんとの出会いや魅力について教えて下さい。


矢部:そうですね、このリミックスはブロンディとかシンディ・ローパーぐらいの80s感も念頭にありました。
祥子さんとの出会いは古くて88年にTHE BEATNIKSのツアーサポートでご一緒した時ですが、それから20数年経ってこれまたカーネーションと共演という機会で再会して、という流れでお願いしました。歳が近いからか意気投合したノリもあって。
今回のアルバムは元はと言えば祥子さんのおかげで作れたようなものなので、大の恩人です。

祥子さんは私なんぞが言わずもがなのポップの女神です。
多作な上に作る曲すべてが名曲で、キャロル・キングとローラ・ニーロとジョニ・ミッチェルを兼ね備えてるような人。
国宝級の音楽家、ボーカリストです。


11. アンダースカート feat. 野見山睦未
---Local Busの野見山睦未さんがこのアルバムで4曲歌っていらっしゃいます。
透明感のある歌声が素敵ですね。この歌はちょっと意味深な歌詞がミステリアスで、野見山さんの魅力が引き出されてますね。


矢部:天使みたいかと思うとどこか毒があったり、甘かったりしょっ辛かったり、おとぎ話のような声の持ち主です。自分の声を、歌というよりは楽器のように曲の中での音の一つとして考えているようにお見受けしてまして、そこが野見山さんの大きな魅力と思います。

Local Busのメジャーから出ていた作品はとんでもないプレミアがついてたりしますが、YouTubeで何曲か聴けるのでご存知ない方は是非体験してほしいですね。きっと「特別」な何かを感じると思います。
Local BusをBOXセットで再発する事が、日本の音楽業界が何より真っ先にやらないといけない事であると私は思っています。


14. ジオラマ feat. 茂木ミユキ
---矢部さんがこの曲のインストをmyspaceにアップしていたところ、茂木ミユキさんから歌いたいと連絡があったそうですね。
茂木さんはどんな方なのですか?


矢部:モデルの仕事もこなす美貌と素晴らしい歌声を兼ね備えて「天は二物を与えた」にも程があるという方なのですが、ここ数年は被災地支援の活動もされていたりして、奥床しくマイペースな方です。
iTunes Storeで購入できる「M.I.U」というアルバムは個性的かつ超ハイクオリティなポップアルバムですので、ぜひ聴いてみてほしいです。Pet Shop Boysが唯一日本人アーティストに書き下ろしたという曲もあったりします。


---インストと歌の両方のバージョンをアルバムに収録した理由や、この曲をアルバムラストにしたお気持ちなど教えて頂けますか?

矢部:インスト曲だったものが、一人の人の心を動かしてボーカル曲として完成するストーリーみたいなものを織り込みたくて両バージョン収録しました。
この曲は最も自分らしさが出てる曲という自覚もあって。

「ジオラマ」をラストにしたのは、茂木さんの歌詞、歌唱、電子楽器「Qコード」の音、それに導かれたドリーミーな世界、すべて引っくるめて「MUSEMENT」の象徴のように思える仕上がりになったからですね。女性が持っている「母性」に包まれる幸福感です。
音楽についての歌で始まって、シンプルなラブソングで終わる構成がとても気に入っています。



---ここからは、近年の矢部さんの活動についてお伺いします。
矢部さんは、Controversial Sparkのメンバーとしても活動されています。
メンバーは鈴木慶一さん、近藤研二さん、岩崎なおみさん、今回のMUSEMENTのアルバムに参加されているkonoreさん、そして矢部さんですね。
メンバーになられたきっかけは?


矢部:鈴木慶一さんにはずっと長いことお世話になっていて。
「最近矢部くんがまたドラムを叩きだしたみたいだ」ってことを慶一さんが風の噂に聞いたらしく、バンドを作るんだけど一緒にやらない?と誘って頂きまして。

---そうだったんですね。鈴木慶一さんとの出会いのきっかけを教えて頂けますか?

矢部:私の初めてのドラムの仕事が、慶一さんと高橋幸宏さんのTHE BEATNIKSの1988年のツアーだったんですよ。

---高橋幸宏さんもドラムを叩かれますよね?

矢部:幸宏さんは慶一さんと並んでボーカルでしたが、曲によってはツインドラムでやったりしましたね。

---どのぐらいの期間、THE BEATNIKSのツアーに参加なさったのですか?

矢部:そのツアーだけだったので、ほんの1か月ぐらいですね。
大阪、福岡、名古屋、東京を回りました。

---さぞ刺激を受けた体験だったことでしょうね。

矢部:そうですね。ちょっと前までレコードで聴いていた雲の上の方々といきなりお仕事だったので、なんで自分がここにいるのか訳が分からなかったし、大変な経験でしたよ。
打ち込み音源と同期してドラムを叩くのも勉強になりました。

---そのツアーのメンバーは?

矢部:若手チームは高野寛くん、MUSEMENTにも参加してくれている鈴木祥子さんもいました。
高野くんも祥子さんも私も、演奏家としての最初の仕事だったんですよ。
あと、ギターに大村憲司さん、ベースは渡辺等さん、鍵盤に小林武史さんと、豪華メンバーでした。

この時のTHE BEATNIKSのアルバム(注:「EXITENTIALIST A GO GO -ビートで行こう-」)は音は打ち込みなんだけど、曲はフォークロックっぽいポップなアルバムで、ほんと楽しかったです。

---ヴォーカルは慶一さん、幸宏さん。そうすると、高野さんや祥子さんはどんな楽器で参加なさっていたのでしょうか?

矢部:高野くんはギター、祥子さんはパーカッションで。曲によってはドラムも。
去年THE BEATNIKSのBOX SETが出て、DVDにこの時のライブの模様がちょっとだけ入っています。

---貴重映像ですね!とても気になります。
矢部さんは、THE BEATNIKS以外にもツアーなどにいろいろ参加されていたのですか?


矢部: そうですね、それがきっかけでいろいろお仕事いただくようになりました。
その頃は高野くんのツアーや、ムーンライダーズのサポートなどを主にやってました。


---矢部さんは、最近、BAND EXPOやコーノカオルさんのアルバムとツアーにもサポートで参加されていますね。
皆さんとのご縁のきっかけは?


矢部:みんな古い知り合いです。西村哲也さんと青木孝明くんは、彼らがメトロトロンでデビューした頃からの付き合いです。
西村さんは数年前に私がライブに復帰するきっかけをくれた恩人で、それ以来ライブのサポートをさせていただいてます。
青木くんは、私と一緒に演るのがずっと念願だったと言ってくれていて、今回やっと実現しました。

---青木孝明さん、西村哲也さんはどんな方ですか?

矢部:最高に素敵な人達ですよ。MCが漫才みたいに面白くて(笑)。お二人とも心から尊敬するソングライター、プレイヤーです。
青木くんは同い年なのになぜか私のことを矢部さんって「さん」付けで呼ぶのでちょっとくすぐったいんです(笑)。
メトロトロンからデビューしたのが私のほうが先だから先輩感があるのかもしれないですけど。
西村さんは、兄貴のように慕っております。

---コーノカオルさんのソロユニット"TRICKY HUMAN SPECIAL"のアルバム『黄金の足跡』については、Cheer Up!でインタビューさせて頂きました。コーノさんは「矢部さんにオッケーをもらえなければこのアルバムの制作そのものが無しになってたと思います。」とインタビューで仰っていました。アルバム全体、矢部さんのドラムがさりげなく曲を盛り上げていましたね。

矢部:コーノくんは、普遍的な名曲をバンバン量産できる稀にみるソングライターです。作詞もほんとに素晴らしくて。音楽の好みや考え方が近い気がしてシンパシーも感じます。なのでアルバムに参加できてほんと楽しかったし感謝してます。


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