沖野修也さん(KYOTO JAZZ MASSIVE)がプロデュースするジャズユニット、KYOTO JAZZ SEXTETが待望の2ndアルバム『UNITY』をリリースした。
2015年に発表された1stアルバム『MISSION』ではブルーノート・レーベルのカヴァーがメインだったが、今回の『UNITY』は全曲オリジナル。沖野さんのこのユニットへの熱い想いが伝わってくる。またゲストにはファラオ・サンダース氏のご子息、トモキ・サンダースさん(Tenor Sax)、SOIL&"PIMP"SESSIONSのタブゾンビさん(Trumpet)が参加。

今回は沖野修也さんに、この『UNITY』について詳細にお伺いした。また、メンバーの平戸祐介さん(Piano)、栗原健さん(Tenor Sax)、類家心平さん(Trumpet)にもご登場頂き、『UNITY』について、沖野さんの存在についてたっぷり語って頂いた。(2017年7月)


♪沖野修也インタビュー

---今回のアルバムは全てオリジナル曲とのこと。
沖野さんの作曲方法は、楽器やコンピューターなどに向かわれるのでしょうか?
作曲には時間がかかるほうですか?


沖野:歌メロ、ホーンのテーマ、ベース・ライン、ピアノのトップ・ノート、ドラム・パターン等全てハナウタで作曲します。思いついたらiPhoneに吹き込みます。
それを個人マニュピレーター(池田憲一)と共にコンピューターでデモを作成し、メンバーに送ります。
作曲の為に時間を割く事は殆どありません。日々生活の中で曲を思いつくので。その度にiPhoneで録音する感じです。

---全曲一発アナログ録音、コンピュータによる編集をしないという形態に決めた理由を教えて頂けますか?
かなりスリリングな現場なのではないかと思いますが、印象的なエピソードなどあれば教えて頂きたいです。


沖野:KYOTO JAZZ MASSIVEはコンピューターでドラムを打ち込みますし、歌を含め全ての素材をコンピューターに取り込みます。
また、沖野修也のソロは誰にも会わずデータのやり取りだけでアルバムを完成させたりするので、その対極にある昔ながらの録音方法を採用することで何か違う境地に行けるのではないか?という思いがありました。

印象的なエピソードは、やはり演奏の失敗を許容するかどうかということにメンバーと共に悩むことでしょうか?それも含めてジャズだとは思っていますが、1st、2nd共に、採用は全てファースト・テイクでしたね。
ただ、1stの「Speak No Evil」だけは、アナログ・テープがくっついて剥がせなくなり、セカンド・テイクを使用しました(苦笑)。

---今回レコーディングした"Studio dede"は、ご自身もドラマーの吉川昭仁さんがオーナーのスタジオ。当WEBマガジンCheer Up!インタビューに登場下さっている方々でも、こちらで録音している方をよくお見かけします。このスタジオを選んだ経緯など教えて頂けますか。

沖野:前作と同じく、機材面だけでなく、吉川さんの音楽への理解度の高さでしょうね。
あと、今回からスタジオでアナログのテスト・プレスもカットできるようになりましたので。

---KJSはフジロックフェスティバル(7月29日)にご出演されるとのこと。
今のお気持ちを教えて頂けますか?


沖野:過去DJとしては3度出演していますが、バンドとしては初めての出演になるのでとても楽しみです。
去年は同じField Of HeavenでKamasi Washingtonのライブを観て、サイン会にも一番前で並びましたので、50歳のドリーム・カム・トルゥーといった感じでしょうか(笑)。

---ここからは一曲ずつお伺いいたします。

01. Peaceful Wind
---この曲は、コ・プロデューサーの池田憲一さん(ROOT SOUL)との共作。リラックスしたムードのピアノが心地良いですね。メロディーは沖野さん、コード進行は池田さんが作られたとのこと。
この曲を1曲目にされた理由を教えて頂けますか?


沖野:この曲はデモ制作の段階でアルバムの1曲目と決めていました。現代的なドラムとベースを採用しつつ、尚かつモダン・ジャズというか新主流派的な香りのする曲になって行くと確信していましたので。1枚目と2枚目、そして、過去と現在を繋ぐ役割があります。おそらくライブでも最初に演奏する曲はこれでしょう。

02.Song for Unity
---この曲はアナログ先行シングルリリースで、ジャイルス・ピーターソン氏がヘビープレイして話題になっているそうですね。ジャイルス氏がヘビープレイするようになったきっかけは何でしょう?

沖野:ジャイルスにはメールでいち早くサンプル送ったんですが、返事がなく・・・(困)。気に入って貰えなかったのかなと思っていたのですが、渡英していたDJの松浦俊夫さんが、直接ジャイルスに渡してくれたみたいです。直ぐに絶賛メールが帰って来ました(笑)。

---この曲では、ファラオ・サンダース氏のご子息、トモキ・サンダースさん(ts)がゲスト参加。ファラオ・サンダース氏のご子息が日本にいらっしゃるということに驚きました。
レジェンド世代〜若き世代を沖野さんが繋いでいるような象徴的な曲ですよね。


沖野:トモキの存在はライムスターのDJ JINさんに教えてもらったんです。水戸で彼に会ったらしく・・・。「沖野さんはトモキと何かやるべき」という彼の助言がなければこの曲は生まれなかったでしょうね。

03.Mission
---1stアルバムのタイトルと同じということで、どんな沖野さんの想いがあるのだろう?と思いながら聴きました。
冒頭、ベースとピアノのリフが推進力のある曲調で、熱い気持ちになれる曲。ミッションに向かってひたすら進んでいるイメージを受けました。


沖野:この曲は前作『Misson』製作中にデモを作った曲だったんです。カバー・アルバムだったので、当然、収録できなかった訳です。
ま、そういうこともあって今回、洒落で前作のアルバム・タイトルを冠したんですが、何気に海外DJの間で1番評判が良く、ややこしいことになって困っています(苦笑)。
でも、まさにジャズの世界における自分の役割みたいなものを託した曲です。
昔には絶対なかった曲ですし、DJだからこそ書けた曲だと思います。

---「Song for Unity」と「Mission」の2曲のホーンはトモキ・サンダースさん(ts)とタブゾンビさん (tp)なのですね。ゲストお2人とのレコーディングはどんな様子でしたか?

沖野:レコーディングでは、タブゾンビの気合いが半端なかったですね。おそらく彼は否定すると思いますが、トモキを前にプロの厳しさを叩き込むという意気込みを感じました。本当に素晴らしいソロです。
一方トモキもプレッシャーをはね除け、自分らしいストーリーを紡いでいると思います。フレーズのみならず、栗原健に絡むシャウトでは、お父様を彷彿とさせるシーンもあり、やはりカエルの子はカエルだなと。変な喩えですが(汗)。

04.Ancient Future
---平戸さんの美しいピアノソロで始まり、インプロビゼーションのようなスピリチュアルなホーンが印象的ですね。今回のアルバムは「和ジャズとスピリチュアル・ジャズ」に両翼を拡げた作品とのことですが、特にこの曲にスピリチュアルな部分を感じました。

沖野:「Ancient Future」は僕の中ではマッコイ・タイナーとハンニバル・マーヴィン・ピーターソンが激突するイメージ。でも、現代的なダンス・ビートも取り入れています。

---曲全体がインプロだと、リスナーとしては(特にジャズ初心者は)聴きづらく感じると思うのですが、この曲では途中からホーンのユニゾンのメロディーが美しくて。
このアルバムは前作よりとても聴きやすく感じました。そのあたりはいかがでしょうか。


沖野:聴き易い理由は、メンバーにも指摘されたのですが、メロディーがシンプルだからじゃないでしょうか?その譜割の簡素な感じが"和"だとも思っています。

05.We Are One
---この曲はメロディーは沖野さん、歌詞はヴォーカルのナヴァーシャ・デイヤさん、そしてホーンのメロディは栗原健さんのアイディアだそうですね。
アレンジについては、話し合いながら決めることが多いのですか?
たとえばピアノのバッキングとか、ベースラインなど、あらかじめきっちり考えて譜面を渡すのか、レコーディング現場で打ち合わせながら決めるのか、どういう感じか教えて頂けますか。


沖野:アレンジは基本的に僕がベーシックなアイデアを出します。例のハナウタで。
それを池田と共に詰めて行くのですが、この曲は唯一、何度もデモのアレンジを変えましたね。
最初はD'AngeloのSpanish Jointっぽいアレンジだったんですが、アルバムのコンセプトに合わないなぁということで試行錯誤しました。

また、他の曲のアレンジに関しては、リハーサルの時に、メンバーからのアドバイスで、ホーンを加えたり、コードを変えたりもしました。レコーディングの現場で付け加えたのはアルバム中「We Are One」のNavashaのアドリブだけですね。小泉克人の提案でした。

06.Love Light
---アップテンポのベースラインで気分がアガるスリリングな曲。
歌詞は「We Are On」に続き、ヴォーカルのナヴァーシャさん。歌詞の内容はナヴァーシャさんにお任せしたのですか?それとも、イメージを伝えて歌詞を依頼したのでしょうか。


沖野:今回の作品が僕なりのメッセージ・アルバムであるということを事前に伝えました。その上で、『UNITY』がタイトルである事、世代や人種、国境を越えたコラボレーションによってアルバムを完成させたいということも。故に、「We Are One」であり、「Love Light」だったのでしょうね。

---ナヴァーシャさんとの出会いのきっかけやお人柄についてはいかがですか?

沖野:彼女がまだFertile Groundのメンバーだった時にライブは観ましたが、その時は話していません。ソロ・アルバム、『UNITED LEGENDS』を制作するに当り、「誰にも会わずにアルバム作ってみたいんだけど、参加してくれない?」とメールを送ったのが、共演のきっかけですね。

社会や宗教、女性の人権問題にも常にアンテナを張っている人で、人間的にとても尊敬しています。普段の穏やかさとステージでのカリスマ性のギャップが凄いんです!ちなみに、ギル・スコット・ヘロンは彼女の伯父さんだということを今回のレコーディングの際、初めて聞かされました・・・。

07.Children of Peace
---ピアノソロで始まるバラッド。心安らぐ曲ですね。ホーンのユニゾンによるメロディーもとても美しくて。
アルバム全体、ユニゾンが多いような気がしますが、アルバムタイトル『UNITY』と関係あるのかな?などと思いました。


沖野:常々、メンバーから「KJSは熱い曲が多過ぎて演奏するのが大変」と言われていましたので(笑)、一念発起してバラードを作りたいなと。

ユニゾンが多いのは、僕の書くメロディーの音域、あるいは単純さからなのかもしれません。
サックスとトランペットの組み合わせは栗原健と類家心平に任せているんです。
実は、ボーカルがユニゾンして欲しいメロディーってのもあるでしょうね。勿論、ユニゾンに限らず、バンドのアンサンブル含め、一体感を高めること、即ち、UNITYです!

---とても優しい気持ちになれる曲ですが、どんなときに浮かんだメロディーなのですか?

沖野:メロディーのイメージは「蛍の光」で、子供達が仲良く下校する光景を想像して書きました。確か、公園で犬の散歩中に思いついたかと。

08.Rising
---ラテンのリズムからアップテンポの4ビートになるあたりがとてもかっこ良くて、心地良い曲。流麗なテナーサックスソロ⇒トランペットソロ⇒ピアノソロとジャズの魅力が堪能できて、ライブで聴きたくなる曲です!
フジロックの他にもライブのご予定はかなり決まっているのでしょうか?


沖野:この曲が一番メンバーも活き活きと演奏し、録音できましたね。決して、踊れるジャズを目指した訳ではないんですが、結果的に踊れるジャズが出来てしまいました。オーソドックスなラテン・ジャズ/ハード・バップとの相性もいいので、所謂ジャズ・ファンにも聴いて頂きたいです。

フジロックの後は、レコーディングに参加してくれた全メンバーを招集して、ビルボード・ライブ公演に臨みます(8月7日)。

09.Extra Freedom
---沖野さんの会社のお名前と同じタイトルですね。ブログによると「より大きな自由」という意味だとか。
沖野さんにとって「自由」とは?


沖野:僕にとっての自由とは、精神の解放なんです。ただ単に状態が自由であればいいということではないんです。偏見や先入観からの自由でもありますし、躊躇や恐怖からの自由でもあります。自分自身を囚われの身に追いやるのは、実は自分の発想や思考なのではないでしょうか?「どうせ無理」とか「何の意味があるのか」などと思うことなく、「やりたいことをやる」という挑戦も、僕にとっては重要な自由の要素です。社名でもありますが、Extra Freedomは僕のポリシーというか、行動の指針。改めて曲のタイトルにすることで、決意を表明するという気持ちも込めました。勿論、Pharoah Sandersの「You've Got To Have Freedom」へのアンサー・ソングでもあります。

---アルバム全体を通して前に前にと進むような、ポジティブで前向きなエネルギーを感じる凄いアルバムだと思いました。タイトルも前向きなワードが多いですね。
沖野さんが「ジャズの現在」を表現することをコンセプトにしていることとの関連は、いかがでしょうか。


沖野:ジャズを生音で・・・というと古臭いとか懐古趣味と揶揄されることもあります。しかし、僕は、機材や技術ではなく、"発想の新しさ"で今の時代にしかないジャズを作ろうとしています。また、当然のことながら、今の時代に必要なキーワードが曲を象徴する訳です。前向きな言葉が多いのは、日本に限らず、世界が狂い始めているからかもしれません。音楽にできることは限られているかもしれませんが、一人のアーティストして、社会に問題を投げかけ、音楽の可能性を試してみたいという想いもあります。しかし、言葉同様大切なのは演奏。僕達のせめぎ合いと調和こそがメッセージであり、"音で"僕が表現したかったことを感じ取って頂けると幸いです。

---今後のKJSの展望、夢など教えて頂けますか?3rdアルバムの構想も浮かんできていますか?

沖野:1枚目では実現できなかった海外リリースと海外公演を実現したいですね。
3rdアルバムは更に和の方向に進むと思います。琴をフィーチャーするつもりですし、民謡を参照したオリジナルも書きたいと思っています。

---今から3rdアルバムが楽しみです。どうもありがとうございました。





『UNITY』KYOTO JAZZ SEXTET

01.Peaceful Wind
02.Song for Unity
03.Mission
04.Ancient Future
05.We Are One
06.Love Light
07.Children of Peace
08.Rising
09.Extra Freedom

発売日:2017.06.14
品番:UCCJ-2143
レーベル:Universal Music
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社

KYOTO JAZZ SEXTET :
沖野修也 (produce) / 類家心平 (tp) / 天倉正敬 (ds) / 栗原健 (ts) / 平戸祐介 (p) / 小泉P克人 (b)
タブゾンビ (tp) / トモキ・サンダース (ts) / ナヴァーシャ・デイヤ (vo)








◆プロフィール:

沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)

DJ/作曲家/執筆家//The Roomプロデューサー。これまで世界40ヶ国140都市に招聘される。著書に、『DJ 選曲術』や『クラブ・ジャズ入門』、自伝『職業、DJ、25年』等がある。2017年6月、ジャズ・プロジェクト、Kyoto Jazz Sextetのセカンド・アルバム『UNITY』をブルーノートよりリリース。現在、InterFM『JAZZ ain't Jazz』にて番組ナビゲーターを担当中(毎週水曜日22時)。有線放送内I-12チャンネルにて"沖野修也 presents Music in The Room"を監修。


KYOTO JAZZ SEXTET(universal music)
http://www.universal-music.co.jp/kyoto-jazz-sextet/

KYOTO JAZZ SEXTET 『UNITY』
http://www.kyotojazzmassive.com/news/unity.html

KYOTO JAZZ MASSIVE
http://www.kyotojazzmassive.com/

沖野修也 オフィシャルブログ
http://ameblo.jp/shuya-okino/

沖野修也 Twitter
https://twitter.com/shuyakyotojazz



♪最新Liveインフォーメーション


2017年7月29日(土)
FUJI ROCK FESTIVAL '17
新潟県湯沢町苗場スキー場
※KYOTO JAZZ SEXTETはFIELD OF HEAVENステージに出演
http://www.fujirockfestival.com/

2017年8月7日(月)
KYOTO JAZZ SEXTET 『UNITY』Special Live 2017
ビルボードライブ東京
KYOTO JAZZ SEXTET: 類家心平(tp) 栗原健(ts) 平戸祐介(p) 小泉P克人(b) 天倉正敬(ds) 沖野修也(vision)
【ゲスト】タブゾンビ(tp) Tomoki Sanders(ts) Navasha Daya(vo)


2017年9月2日(土)
The Room All Stars
東京JAZZ 2017 The Club
@渋谷WWW X (東京)
■MEMBER
沖野修也 (mc)
沖野好洋[KYOTO JAZZ MASSIVE/ESPECIAL RECORDS] (DJ)
池田憲一 (el-b)
元晴 (sax)
栗原 健 (sax)
西岡ヒデロー (tp)
平戸祐介 (p)
Tetta [JariBu Afrobeat Arkestra](g)
藤井伸昭 (ds)
Hanah Spring (vo)
■Special Guest
Monday満ちる (vo)


<Cheer Up!関連リンク>

KYOTO JAZZ SEXTET『MISSION』沖野修也インタビュー(2015年)
http://www.cheerup777.com/kjs.html




(C)2009-2017 Cheer Up! Project All rights reserved.